蘇生居酒屋は死体がころがる素敵な呑み場

ちびまるフォイ

蘇生されれば元気になるって、それはおかしいだろ

ふと訪れた場所で見慣れない居酒屋を見つけた。


「蘇生居酒屋だってよ。ちょっと入ってみようぜ」


同僚を引き連れて中に入ると、店内はごく普通の居酒屋だった。

気になったので店員を引き留めて聞いてみることに。


「あの、表に蘇生居酒屋とあったけど、これ普通の居酒屋だよね?」


「いいえ、ちがいますよ。当店では飲みすぎて死亡した場合でも

 その場で蘇生するサービスを行っております」


「だ、大丈夫なの……?」


と、話している最中に他の客がばたんと倒れた。

店員は慣れた手つきで蘇生装置を客にあててスイッチを入れる。


バスンと鈍い音とともに客は蘇生された。


「ふぅ、気分爽快。いやぁ、ごちそうさまでした」


何食わぬ顔で店を出ていった。

完全に酔いも抜けている。


「よ、よしやってみよう」


思い切って自分も飲みに飲みまくってみた。

やがて意識がなくなりそのまま倒れると、店員が駆け寄ってきたのがわかった。


バスン。


「お、おおお!? なんだこれ!?」


蘇生が済まされると、一度死を経由したことで酔いも取れた。

まるで生まれたてのようなフレッシュな気分になる。


「蘇生完了です。ご利用ありがとうございました」


「また来ます!!」


こんなにも気分がいいのは久しぶりだった。

翌日も二日酔いも起きなかった。


それからというもの、蘇生居酒屋にはひっきりなしに通った。


「よっしゃ、今日も飲みまくるぞーー!!」


「先輩、まだ月曜日ですよ? 明日も仕事あるんですから」


「大丈夫、大丈夫! 蘇生されればスッキリよ!!」


蘇生居酒屋は大酒飲み向けなので料金も親切な値段になっている。

睡眠不足でも、酔っ払っていても、疲れがたまっていても。

蘇生されれば一瞬でフルリセットの気分爽快。


「ご利用、ありがとうございました」


「またまた来ますよ!!」


いつしか、蘇生居酒屋には体の疲れを取る目的でも行くようになった。



蘇生居酒屋のおかげで仕事もバリバリこなせている。

ある日、部長がぽんと肩に手を置いた。


「今日、取引先との飲み会があるんだけど、君もどうかな?」


「本当ですか!?」


これは出世への人脈につながるものだ。二つ返事で承諾。

久しぶりに蘇生居酒屋以外の場所に入った。


「ご注文お決まりですか?」


「それじゃビール5……」


「5!?」


部長も取引先も驚いて目を丸くしていた。


「と、いうのは冗談で、ビールを1つ」


慌てて訂正した。

蘇生居酒屋での注文に慣れすぎて、つい致死量を頼んでしまう。


「それじゃ、かんぱーーい」


ジョッキを交わしてごくごく普通の飲み会が行われた。

ここは蘇生居酒屋ではないので、飲みすぎれば明日に響く。


お酒は好きだがたくさん飲めるわけじゃないので、セーブしながらちびちび飲んだ。


「おいおい、君ぃ。全然飲んでないじゃないかぁ」


「あはは。いやぁ、お酒は弱くって」


蘇生居酒屋だったらもっと飲んでるわ!


「最初にビール5つ頼んだ威勢はどこいったんだぁ? んん?」


「ははは……」


絡まれれば絡まれるたびに、致死量飲めないことのストレスを感じる。

結局、その日の飲み会は全然楽しくないまま終了した。


そのくせ、翌日には律儀に頭痛と吐き気の二日酔いが襲ってくる。


「うう〜〜……くそっ……これだから普通の居酒屋は……」


今から蘇生してもらってリフレッシュしたいが、

蘇生居酒屋の開店時間は夜なので朝に行っても入れない。


「そ、そうだ!! 蘇生装置を買い取ろう!!

 あれさえ手に入れれば俺は無敵だ!!」


その夜、蘇生居酒屋が開いてから店に蘇生装置を譲ってほしいと頼み込んだ。


「うーーん、普通はお断りしているんですが、常連さんだしねぇ」


「お金ならいくらでも払います!

 この蘇生装置さえあれば、人生バラ色になれるんです!」


「そこまで言うなら……でも高いよ?」


お店の人の言うように蘇生装置は俺の全財産の半分以上を食らいつくした。

それでも全然惜しくないのはこの価値がわかる俺だからこそだろう。


「これでいつでもどこでも死にたい放題だ!」


蘇生装置をカバンに入れていつでもどこでも持ち歩いた。

蘇生居酒屋でなくても飲みすぎてから蘇生することができる。


場所の制限がなくなった俺はまさに無敵だ。


今日も致死量まで後輩と飲んでいた。


「さて、そろそろ死ぬころかな」


だんだんと死ぬ間際の体の調子もわかってきた。

カバンに入っていある蘇生装置を取り出し——


「あれ!? あれ!? ない、ない!! 蘇生装置がない!!」


「先輩、どうしたんですか」


「蘇生装置がないんだよ!! 誰かが盗みやがったんだ!!」


完全に油断していた。

蘇生装置なんて珍しいもの、誰だってほしいに決まってる。

いろんな店でこれ見よがしに蘇生していればうわさも広まるだろうに。


「くそっ、いつだ……いつ盗まれた……!!」


どのタイミングで盗まれたかも判然としない。

盗んだ犯人もすでに追いつける場所にはいないだろう。


「先輩、どこに行く気ですか!?」


「蘇生居酒屋にいく……あそこなら備え付けの蘇生装置がある……」


「それよりも救急車を!」


「バカ野郎! その間に俺が死んだらどうするんだ!!」


意識はもうろうとし、足元はふらふら。

致死量まで飲みすぎた状態で店までたどり着けるのだろうか。

いや、なんとしてもたどり着くしかない。


やっとの思いで見えた赤ちょうちんは天国への門に見えた。


「や、やった……たどり着いた……」


が、すぐに明かりも消えてしまった。

閉店時間間際だったことに気付いたものの、死に物狂いで戸をたたく。


「おおおい!! ここを開けてくれ!

 早くしないとここで死んじまう!!」


近所中に聞こえる声でたたきまくると、店員が出てきた。


「……なんですか、騒々しい」


「ここにある蘇生装置を使わせてくれ!

 気力だけでここまで来たんだ。今にも死にそうだ!」


「それは困りますね。これから後片付けなのに」


「金なら払う!! さっさと使わせろ!!

 こちとら命かかって――」


ぷつん。


頭の中で何かが切れるような音が聞こえた。

体中の力が抜けてそのまま倒れてしまった。



※ ※ ※


「……ですか? 大丈夫ですか?」


店員に揺さぶられて目を覚ました。

体中に吹き抜けるフレッシュなこの感じ。もう間違いない。


「やった! 生き返ったんだ!! やったー!!」


「今度からはあんな迷惑なことしないでくださいね」


「わかってるって。今度から飲み過ぎに気を付けるよ!」


男は気分良さそうに帰っていった。

蘇生居酒屋には店員だけが残っていた。


「さて、後片付けしなくちゃ」


店員は店の奥からいましがた死んだ男の体を捨てに行った。



「毎回クローンに中身を移し替えるのも楽じゃないなぁ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蘇生居酒屋は死体がころがる素敵な呑み場 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ