Xクエスト-魔界の勇者-
平カケル
序章 希望クエスト-絶望の勇者-
プロローグ 封印と解放
こんなはずじゃなかった。
オレ達6人全員の力を合わせて、目の前にいる巨悪の根源を打ち滅ぼし、無事にみんなで生きて帰って祝勝パーティ。そのまま皆で、平和になった世界で暮らす。
それを夢見て、これまで色々頑張ってきたってのに……。
「アスカ……。ソラ……。シオン……。マナカ……」
横たわる4つの亡骸を見て、少し前までその名前だったものを口にする。
4人は今日まで一緒に戦ってきたオレの大切な仲間。そして、家族同然のような存在。
たとえ自分が死んでも、こいつらだけは絶対に守る……はずだった。
他の4人はもうこの世にはいない。
そして、生き残ってしまったのはオレ達2人。
生き残ったことに対して素直に喜べばいいのか。
家族同然の仲間を亡くしたことに泣き叫べばいいのか。
今のオレにはもうよくわからなかった。
ただただその場に立って、そのまま全身が震える。
戦いには勝った。でも勝負には負けた。
それがオレの思う結果だ。
もしもあと一人。
あと一人だけ、オレと同じチカラを持つ奴がいれば……。
もしかしたら、あいつらを救えたかもしれねえ。しれねえんだよ……。
「…………」
いや、よそう。そんなこと考えても、もう遅い。もう、何もかもが。
だが、まだ一つだけやることがある。
それをやって、ようやく全てを終えることができる。それをやることが、生き残ってしまったオレに残された、たった一つの責務。
この後のことなんて知らねえ。
だが、それをやることで、少なくとも、目の前で4つの亡骸の前に跪いて、全身を震わせているコイツと、この世界に住む連中だけは守ることはできる。
「…………」
どうしても止まらない震える身を、心で必死に抑えながら、オレは無言でゆっくりと出口に向かう。
その動きに気が付いたのか、オレと同じように生き残ったそいつは、震える胴体を起き上がらせ、声を擦れさせながらもこう言った。
「行かないでくれ……待ってくれよ」
そいつは必死に這いつくばりながらも、オレの後ろで必死に手を伸ばす。
でも、オレはそれを見ることもなく、ましてや足を止めることなく、出口の扉をゆっくりと開ける。
「君までいなくなったら、俺は、いったいどうしたらいいんだ……」
震え声で、そいつはオレに聞いてくる。オレははっきりとこう答えた。
「生きろ。そいつらと……オレの分まで」
オレにそんなこと言える資格があるのかどうかはわからなかった。
本来、死んだ4人を守るのがオレの役目だったからだ。
けど、守れなかった。役目を果たすことができなかった。もう、オレが、生き残ったそいつにしてやれるのはこのくらい。
「あとは頼むわ……。もう、オレにはこれくらいしかやれそうにねえ」
出口の前で、オレは右手で持っていた剣をゆっくりと上に掲げる。そしてその剣は綺麗に、青白く光輝きだす。
その色はまるで、さっきまで生きていたはずのアイツの髪と同じ、青くて綺麗な、空みたいな色だった。
アイツらを死なせた張本人が、今この剣の中にいるってのに、なんでこんなにきれいな色してんだろうな。
……もう、わけわかんねーや。
剣から放たれる、その青白い光がやがてオレの体全身を包み込む。
段々とと薄れていく意識の中で、オレは最後に涙を流しながらこちらを見上げるそいつを見て、無理やりニィっとほほ笑んだ。
「カネル達によろしくな。じゃあ……長生きしろよ……な…………」
声もかすみ、青白い光が完全になくなるころ、オレはそっと目を閉じる。
思い出すのは、今まで一緒に過ごしてきた仲間との記憶。皮肉にも、楽しかった思い出ばかりが脳内で再生されていく。
でも、この脳内映像の中にいるアイツらはもういない。
その事実が、心臓の奥底で重い鉄の塊みたいなものがのしかかって、息苦しくなる。守れなかった罪悪感なのか、この青白い光の影響なのか、それすらも最早今のオレにはわからなかった。
こんな思いするなら、もう、仲間なんて作らねえほうがいいのかもしれねえな……。
青白い光と共に、自分の心と体が完全になくなるころ、目の前にいたそいつは、涙を流しながらオレの名前を叫んだ。
「ゼロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
その声を最後に、全身の感覚がなくなり、目の前が真っ暗になった。
……こうして、オレと巨悪の根源。
いや、一人の勇者と魔王は、共にこの剣の中で眠りについた。
それから、いったいどのくらいの時間が経ったのだろうか。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただただ暗い闇の世界。
自分が一体誰なのかもわからない。
なぜ息をしているのかさえ分からない。
どうして意識があるのかもわからない。
……そんな感覚に陥った頃。
「紫色の髪をした子供を助けろ」
突然、そんな音が聞こえてきた。
物音一つすらしないこの闇の世界。
その音は耳からではなく、頭の中に直接響くように聞こえてきた。
「紫色の髪をした子供を助けろ」
同じ音が繰り返し頭に響き渡る。
「紫色の髪をした子供を助けろ」
ムラサキイロノ……カミヲシタ……コドモ。
「そうだ、紫色の髪をした子供だ」
声も出せないこの世界で、その音は自分の心の中を覗いていた。
「いいか、その子供を何が何でも助けるのだ。これは命令だ」
メイ……レイ。
タスケ……ル。
ムラサキイロノ……コドモヲ。
「そうだ、何が何でも助けるのだ」
自分の心をのぞき込んでいるその音は、次々と音色を変えていく。
「時間がないな。最終確認だ」
ジカン……カクニン……。
自分がその音色の意味を悟る前に、音色は今までで一番大きな音を放つ。
「紫色の髪をした子供を助けろ! 絶対にだ! わかったな!?」
オマ……エ……ハ?
自分がその音色の素性を探りだし始めた直後、音色は最後の音を放つ。
「我は魔王。我が力によって、今こそ封印を解き放たん」
マ……おう……?
お……まえは……!
オレがその言葉の意味を理解し始めた頃。
音色であったその声は、この闇の世界を真っ白な光で照らし始めた。
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