共食いの魔力~大切なモノを取り戻すために~

皇 将

第1話 路地裏での死闘

「うぅわぁぁぁああっっ!」

 石作りの建物が建ち並ぶ一角。路地裏に入ってしばらく進むと、端の方に井戸のある広場カンポが出てくる。俺はその広場カンポを時計回りに走り回っている。

 広場カンポの真ん中に陣取るのは、つい数時間前に酒場で絡まれた痩せぎすな男。その男が右掌を俺にかざすと、そこに生まれるのは握り拳大の火の玉。火球は次々に放たれ、俺に向かってくる。


「ヒャハハハハッ! 俺様に逆らうからこうなるんだ! さあ、逃げろ逃げろ!」

 わざと火球を当てないようにしているのだろう、いたぶるように俺の背後で火球が爆発する。そして相手の周囲を一周した直後、俺は石畳の突起に足を取られ、盛大にすっ転ぶ。

 


 受け身を取って膝立ちになった俺のスキを突いて、男は俺の目の前で右掌を突き付ける。

「もう終わりか? だらしないヤツめ。骨まで燃えろ!」

 しかし俺は慌てない。右足首に仕込んでおいた短剣を引き抜き、石畳の隙間に突き立てる。

「誰が終わりだって?」


 途端に、男を中心とした魔方陣が形成されて光輝く。この陣を描くために、男の周りを回っていたのだ。魔方陣としては初歩の初歩、罠として使われる『足止めの魔方陣』だ。

「くっ…。足が動か」

 ドムッ ゴッ

 男の言葉を遮るように、俺は右のボディブローを男の腹に、左フックを男のほほに叩き込む。

「…手前てめぇ…。食らえ!」

 男は右掌に火球を出現させ、俺に食らわせようとする。しかし、


 パァン

 俺は右拳を打ち下ろし、火球を捕らえて雲散霧消させる。

「な…! 炎が消えた?」

 ゴッ ゴッ ドムッ

 右ストレートをほほ、左フックを反対のほほ、さらに左のボディフックを肝臓の上に叩き込み、男の動きを止めさせる。男は血反吐ちへどを吐き垂らしながら悶絶する。しかし『足止めの魔方陣』のため、倒れる事は許されない。


手前てめぇ…。位階いかい6ー3の俺様を相手にして、タダで済むと思ってンのか…?」

 ゼーゼーと喘鳴ぜいめいを上げながら、男はそれでも強がる。まるでチンピラのようにガンを飛ばし、俺を威嚇する。

 そこで俺は一言を言い放つ。

「俺の位階いかいは、1ー5だ」

 そこで男の目が見開かれる。

「5? 5だとっ! たかが転化者てんかものの分際で、特質系だとっ!!!」

 俺は呆れ顔でさらに言葉を続ける。

「そんな文句、俺の主人にでも言ってくれ」

 ゴッ

 さらに右のアッパーカットを打ち上げ、男を黙らせる。


「ぐふぅぅ…。身体が、動かん…」

 男が呻く。それもそのはずだ。

「俺の魔力の特質は、『魔力を喰らう魔力』だそうだ。だから、お前の魔力も一撃ごとに喰らっているのさ」

 そう。俺はパンチに自分の魔力を込めて打ち込んでいるのだ。その魔力は、相手の魔力を喰らって行く。


 俺はほんの少し、相手と距離を離し、狙い澄まして右ストレートを3発放つ。

 ドムッ ドムッ ドムッ

 喉・鳩尾みぞおち丹田たんでん、的確に打ち抜く。この3ヶ所は、魔力の供給源であり増幅器でもある。この3ヶ所を潰されれば、不死者ノスフェラトゥと言えど魔力を失い消滅する。

「ぐ…がぁぁ…………」

 想定通り、男の身体は灰になり、人の形を成さずに徐々に崩れて行く。灰は風に乗り、どこかに飛ばされて行く。


「死体の処理をしなくていいっていうのは、楽な所だな」

 石畳の床に刺してある短剣を抜いて、鞘にしまう。俺の役目はこれで終わりだ。

 後は主人に報告をして…。ま、あのが大人しく待っているとは思えない。早めに帰った方が良さそうだ。俺は足早に路地を抜けて行く。

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