第103話 ブレイブシステム
「グッ……くそッ……!! なんでだ!?」
悪態を突くルーク。傷を与えたのに元気そうだなと思っていると、傷口から白い煙が上がっていることに気がついた。
よく観察すると傷口に魔力が集中しているようだ。……自動回復か。
【勇者】の魔力の有能さに思わず感心していると、ふと違和感を覚えた。
……魔術障壁が弱まっている……?
先程まで凄まじい魔力密度を誇っていたルークの魔術障壁であったが、今は一般的な魔術障壁と同程度まで密度が落ちているようであった。
しかしそれも、白い煙が収まると元に戻ってしまった。
回復にリソースを割いている間は魔術障壁の密度が落ちるということか……。
いくら【勇者】と言えど、魔力が無尽蔵というわけではなさそうだ。
傷を修復したルークは奥歯を噛み締め、聖剣を振り上げた。
「消えろッ!! ブレイスラッシュ!!」
瞬間、聖剣に膨大な魔力が渦巻く。
ルークが聖剣を振り下ろすと、その魔力は眩い剣閃となり僕に襲いかかった。
咄嗟に回避しようと考えるも、この狭い闘技場ではどちらに躱しても攻撃の余波は免れないだろう。
仕方がない、力比べだ……!
『
光の奔流同士がぶつかり合い、闘技場は轟音と眩い光に包まれた。
光が収まると同時に、聖剣と雷薙が交差する。
「俺は、俺はこんなところで負ける訳にはいけないんだっ!! まだ行けるだろ! 応えろッ! ブレイブレイズ!!」
「くっ! 聖剣の魔力は無尽蔵ですか!?」
ルークが叫ぶと、それに呼応するように魔力を放出する【聖剣】ブレイブレイズ。
しかし、魔力の放出に伴いルークの顔色も悪くなっていく。これだけ無茶苦茶に魔力を垂れ流しているのだ、いくら聖剣と言ってもノーリスクとはいかないのだろう。
これで魔力の扱い方を身につけて無駄遣いがなければ手がつけられない程であっただろうが……。
元々魔力がほとんどなかったためエトワール村ではルークに魔力について一切教えていなかったのだが、幸か不幸か入学後も学んでいたわけではなさそうだ。
僕は凄まじい魔力が込められた連撃を、リィンさんから習った『柔剣』で往なしていく。
自らの剣が掠りもしないことに苛立ちを隠せないルーク。焦れば焦るほど攻撃が直線的になり、躱しやすくなっていく。
「うおぉぉぉ!! 当たれ!!」
一際大ぶりの攻撃を躱し、ルークの懐に飛び込む。
「当たりませんよ、そんな雑な攻撃は!」
僕は居合抜きを放ち、動揺しているルークを魔術障壁ごと斬り裂いた。雷薙の勢いはほほとんど魔術障壁により殺され、傷は浅いものであった。
傷を押さえながら後ろへ下がるルーク。傷口からは白い煙が上がり、魔力が集中していることが見て取れた。
「く、ははっ! こんな傷、すぐに治――」
僕は間髪入れずに地を蹴り、息を荒くしたルークへ追いすがる。
「ハァッ!!」
驚愕に目を瞠るルークは思わずといった形で聖剣を振るったが、それを軽く往なし渾身の一閃を放った。
「ガハッ!?」
傷口の回復に魔力を割いたことにより弱まった魔術障壁は支障とならず、ルークの身体を深く斬り裂いた。
血飛沫を上げルークは意識を失い、そのまま闘技場の外に弾き出された……と思った瞬間。聖剣から凄まじい魔力が放たれ、倒れかけていたルークは一歩踏み出して静止した。
「――【勇者】の喪心を確認。ブレイブシステムにより【勇者】の肉体保護のため、敵性生物の排除を実行する」
ルークは僕にしか聞こえないほどの小さな声でそう呟き、力の抜けた身体のまま、まるで糸繰り人形のような動きで聖剣を構えた。
その身体からは先程までとは比べ物にならない程の魔力を立ち昇らせており、その圧力を一身に受けた僕は額から冷たい汗がにじみ出ていた。
■ご連絡■
皆様、こんにちは。
近況ノートでもご報告させていただきましたが、9月19日、本作「転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る」の第二巻が発売されました!
二巻も一巻と同様、Web版をお読みくださっている読者の方でも楽しめるように加筆修正を行い、新エピソードも追加いたしました。
また2巻も風花風花先生により、表紙は勿論、挿絵のヒロイン達も物凄く可愛く描いていただきました。控えめに言って最高です。
是非お手にとってご覧ください!
丁鹿 イノ
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