第100話 聖剣

「それではセントラル冒険者学校、入場!!」


 司会の声を聞き闘技場に上がると、客席から大歓声が一斉に降り注いだ。

 一際声援が大きいところを見ると、一年Sクラス一同と無威斗滅亜ナイトメアのメンバーの姿があった。

 特にムスケル、一人で十人分くらいの声量を発揮している。隣で耳を塞ぎながら顔を顰めているロゼさんを見つけ、思わず吹き出しそうになった。


 そして意外と声援が大きいのがイステン冒険者学校の観客席であった。

 勇者をぶっ倒せ!とか、ふるぼっこにしろ!とか、物騒な野次が多い。先の試合であれだけ手ひどくやられたらそりゃ怒るよな……。


 降り注ぐ大歓声にシオン先輩とクリステル先輩は慣れたもので、笑顔で手を振り応えていた。

 僕も応援してくれる仲間たちに軽く手を振って闘技場へ上がっていった。


「スード冒険者学校、入場!!」


 僕らが闘技場に上がるとすぐにスード冒険者学校も呼ばれ、ルークたちが姿を現した。

 やはり【勇者】の人気は凄まじく、会場は僕らの入場時よりも大きな歓声に包まれる。……それと同じく罵声も大きいけれども……。


 闘技場に上がったルークたちは、余裕の表情を浮かべて僕らと対峙した。


「よぉ、シリウス。昨日の試合を観て棄権しないなんて、お前ら馬鹿か? よっぽどボコボコにされたいみたいだな」

「ルーク、確かに君は凄い魔力を手に入れたみたいですね。でも、それだけです。そんな死んだ目をしたルークに負ける気はしませんね」


 僕を挑発するルークに軽い挑発で返すと、ルークは盛大に眉をひそめた。


「チッ、てめぇに何が分かる……」

「何も分かりませんよ、話もしてくれないですし。だからこの試合でルークを倒して、話を聞かせてもらいますよ。グレースさんと一緒にね」

「……ふん、やれるもんならやってみろ。不可能だけどな。お前とは同じ村のよしみだ、苦しまないように瞬殺してやる」


 ルークが不快感を露わにして話を打ち切る。ルークの隣の令嬢達は僕のことを敵意むき出しで睨みつけていた。


 そんな僕らのやり取りを見守っていた先輩たちがそっと僕に声をかけてきた。


「うん、勇者君もシリウス君と戦う気満々だし、丁度よさそうだね」

「そうですわね、勇者以外の二人はわたくしたちにお任せくださいまし」

「はい、よろしくお願いします。お互い頑張りましょう!」


 元々ルークを僕が、残りの二人を先輩たちが倒すという作戦を立てていたのだが、そのとおりの流れになりそうだ。



「それではセントラル冒険者学校とスード冒険者学校の試合を開始します。……試合開始!!」


――ッドガァァァンッ!!


 司会の掛け声が上がった瞬間、凄まじい爆風と共に床版が砕け飛び散り、闘技場は土煙に包まれた。


「雑魚が。瞬殺だって言っただろ」


 聖剣を持ち、セントラル陣営のど真ん中に佇むルークはつまらなそうに吐き捨てた。


 僕はその隙だらけの顔面に夜一を思い切り叩きつけた。


「ッブヘァッ!?」


 ルークは吹き飛びつつも上手く受け身を取り、地面に膝をついた。


「シリウスお前、逃れていたのか……。運の良い奴だ」



 試合開始と共に凄まじい魔力を放ったルークは、一瞬で間合いを詰め僕に聖剣を振り下ろしていた。

 初手に『瞬雷ブリッツアクセル』を発動していなければ回避は間に合わなかっただろう……。

 そして、僕を消し飛ばしたと油断していたルークの横っ面に夜一をぶちかました。

 凄まじい障壁に阻まれてほとんどダメージを与えられなかったようだが……。


 ルークは忌ま忌ましげに僕を睨みつけるが、その頬は僅かに赤くなっている程度だ。

 まるで重厚なゴムを貼ったコンクリート壁を殴ったかのような感触であった。

 凄まじい魔力を身に纏っているから分かりにくいが、障壁を常時展開しているのだろうか。


「ルークこそ、いつの間にそんな障壁まで張れるようになったんですか?」

「チッ……。いいからお前は斬られてろッ!」


 先ほどと同じように一気に距離を詰めルークは聖剣を振るう。

 僕はそれを先程よりも余裕を持って回避した。


 ルークの剣は目にも見えない程の速さだ。ただの斬撃であるのに速さ、威力共に剣聖の『剛剣』と同等の力を発揮している。……だが、それだけだ。

 その底知れない魔力による『身体強化ブースト』で身体能力を上げ、剣を振るう。そこには技も工夫もない。謂わば、オーガが力任せに棍棒を振るっていることと何の違いもない。


 ルークの剣を回避し、隙だらけの体に雷薙を振るう。通常の障壁程度なら余裕で両断するような威力を込めた一刀であったが、強固な障壁に拒まれ防具に僅かな傷をつける程度であった。


 ……これは、全力の一撃を叩き込まないと到底倒せないぞ……。


「てっめぇ……チョロチョロうぜぇんだよ!!」


 僕の攻撃でそこまでダメージは受けていないものの、苛立ちを隠せずに大ぶりで聖剣を横薙ぎするルーク。


「ふぅ……。ルーク、最近剣の鍛錬はやっていますか? 村で教えていた体捌きが全然できていないじゃないですか」


 僕はルークの体力と魔力の消耗に狙いを変え、隙をみて夜一を叩き込む。

 衝撃は完全に防げないようで、食らうたびにルークは鈍い呻き声を上げ僕を睨みつける。


「うるせぇ! 俺にはもう鍛錬なんて必要ねぇんだよ! 俺の努力なんて関係なく強くなっちまったんだからな!!」


 そう叫びながら振るうルークの聖剣はまたもや空を切る。


「クッソ……仕方ねぇ、使うしかねぇか……。シリウス、少しだけ見せてやるよ、俺の力を。覚醒めよ、【聖剣】ブレイブレイズ!!」


 ルークが掲げた剣から眩い光が放たれ、ルークが光に包まれる。

 この魔力量は、拙い……!


『白気纏衣』


 ルークが身に纏う先ほどとは比べ物にならない魔力を確認し、瞬時に行使可能な身体強化魔術と『白気ビャッキ』を身に纏い、刀に手を添えた。


「ウグッ……ハァ、ハァ……。これでしまいだ……!」


 迸る光に包まれる聖剣から放たれた剣閃は、正に光の速さであった。

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