第93話 開会式
エトワール村出身の他の同級生にも会うかと思ったが、基本的に学校ごとに滞在するエリアが別れているようで、結局ララちゃんにしか会うことはできなかった。
これから争う学校同士だし、揉め事を防ぐ意味もあったのだろう。
皆に再会することを楽しみにしつつ、ドミネウス闘技場での開会式にて国王陛下の長話を聞きつつあくびを噛み殺していた。
どこの世界でもお偉い人の挨拶は長いものである。
流石に冒険者学校なだけあって倒れたりふらつくような者はいないが、皆うんざりとした表情を隠しきれていない。これも一種の修行なのか?
「国王陛下、ありがとうございました。それでは各校の代表者による組み合わせの決定を行います。イステン冒険者学校代表セリーヌ・フランセス、スード冒険者学校代表ルーク・セリディアス、ノルド国軍訓練学校代表ディン・マーベル、セントラル冒険者学校代表、シリウス・アステール、前へ」
……聞いてないぞ?
バッと隣のシオン先輩を見ると、先輩は気まずそうに目を逸らした。
シオン先輩の肩を掴むと、先輩は申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「ごめん! シリウス君、学校対抗戦が今年はじめてだってことすっかり忘れてたよ…… 毎年、代表者がクジを引いて試合の組み合わせを決定するんだ。申し訳ないけど、頼んだよ!」
シオン先輩は口早に小声でそういうと、僕の背中をポンと押した。
仕方なくそのまま壇上に上がる…… と、そこには一人見覚えのある少年がいた。
「ルーク!?」
エトワール村の同級生、ルークが白い鎧を身に纏い壇上に立っていた。
ルークも僕を見て一瞬驚いたかのように目を見開いたが、すぐに視線を逸して何も言わず離れていってしまった。
え!? シカト!?
様々な疑問が頭に浮かぶ。
しかしルークの魔力が変質していることに気づき、冷静に思考を回転させはじめた。
この魔力は【聖女】と酷似している。ルークが、まさか……
ルークのことで頭が一杯になっていると、いつの間にか他の学校の代表者がクジを引き終えていた。
「それでは、最後のセントラル冒険者学校はノルド国軍訓練学校との試合となります」
僕が壇上に上がる必要なかったのでは……
そう思いつつ、クジのナンバープレートを受け取る。
ノルド国軍訓練学校の代表生徒であるディン・マーベルをチラリと見る。
闘技場と馴染むグレーのフード付きマントを着用しており、顔も体もよく見ることができないが、鍛え上げられた肉体であることはマント越しにでも感じ取ることができる。
彼は真っ直ぐ前を見ており、こちらを一切意識していないようであった。
フード付きマントによって視覚から得られる情報がシャットアウトされているが、彼についてはシオン先輩からある程度聞き及んでいる。
シオン先輩と同年代の三学年であり、近接戦闘と魔術戦闘どちらもできる万能型であるそうだ。
去年のノルド国軍訓練学校で唯一の二学年だったため、代表者に選ばれているだろうというシオン先輩の予測はドンピシャであった。
クラスの皆に挨拶をし、シオン先輩、クリステル先輩とともに控室へと向かう。
対抗戦は初日に一回戦を行い、明日決勝戦を行う予定となっている。
一日で二試合くらいやってしまえると思ったのだが、選手の万全を期すためだそうだ。
また普段から厳しい授業と訓練に身をおいている生徒たちからは、気楽な小旅行として好評みたいだ。
参加者である僕は気楽に観光するような気分じゃないんだけどね……
開会式を終え控室への廊下を先輩たちと歩いていると、仲間とともに他の部屋に入ろうとしているルークが視界に入った。
「ルーク!!」
ルークの元に駆けていくと、ルークの前に一人の女性が厳しい表情で立ちはだかった。
もう一人の女性はルークの腕に抱きついたままこちらを睨みつけている。
「止まりなさい! なんですか、貴方は!」
「シリウス・アステール、ルークの友人です」
僕がそういうと女性は怪訝な顔をしてルークに問いかけた。
「……ルーク様、本当ですか?」
「……いや、ただの知り合いだ。シリウス、俺はお前の相手をしているほど暇じゃねぇんだ、帰れ」
は……?
「ルークさまぁ早くお部屋にいきましょーよぉ」
「……あぁ」
ルークは僕と一度も目を合わせること無く、控室に入っていった。
「だ、そうです。帰りなさい、下郎」
強く扉を締められ、廊下が静寂に包まれる。
「あー……なんだ。シリウス君、君のお友達は中々刺激的だね」
「……そうですね」
シオン先輩の軽薄なフォローが、やけに優しく感じられた。
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