第80話 アンデッド
休日、朝から迷宮の四十階層に来ていた。
勇者との戦いに向けて少しでも経験値を稼いで強くなっておきたいからだ。
最近はそろそろアンデッドとの戦いにも慣れてきたので、五十階層を目指してもいいかなと思っている。
つまり、この迷宮の最深到達階である四十九階層を更新するということだ。
四十階層は地図が販売されておらず、自分でマッピングしていかなければならない。またやっかいなアンデッドの巣窟だということもあり、今までほどサクサク進むことができないでいた。
ちなみに現在は四十四階層までマッピングが済んでいる。
今日の目標は四十七階層だ。
慎重に進んでも徹夜すれば余裕で到達できるだろう。
前世では三徹くらい余裕だったため、一晩寝ない程度で集中力を失うことはないはずだ。
アンデッドエリアであるため臭いは若干気になるが、一日もいれば慣れてくるため問題はない。
いや、体に染み付くという問題はあるが……トルネ商会で買った風の魔石で多少は軽減できていると信じたい。
そういえば確か迷宮攻略兵団が現在攻略中なのが四十七階層と聞いていたな。
冒険者が次の階層への階段を見つけることを重視して進むのに対して、迷宮攻略兵団は各階層を完全マッピングして進んでいるらしい。
それに比べて僕は一人であるため、討伐速度や進行速度を自由にできて早く進むことが出来る。
一人では辛くなってくるとは思っているが、今のところはまだ問題はなさそうだ。
◆
「ハァッ!!」
遠くからこちらに歩いてくるゾンビ二体に『
そこら中に落ちているグールとゾンビの魔核を拾っていく。
アンデッドは倒すと体が灰になって魔核だけ残るので、普通の魔物より効率良く狩っていくことが出来る素晴らしい魔物だ。
対アンデッド戦闘のコツも完全に掴んでいる。
先程放った『
アンデッドは魔核を破壊しないで戦う場合、非常にしぶとい。
しかし魔核を破壊してしまうと稼ぎがゼロのため、冒険者は可能な限り魔核を傷つけないように戦うことになる。その欲のせいでアンデッドの犠牲になる者も少なくはないのだが。
ちなみにアンデッドの魔核の位置は、基本的にアンデッド前の生物の心臓の位置に存在する。
そこで思いついたのが、魔核を破壊せずとも魔核と体の接続を切り離せば良いのではないか、ということだ。実際それは大当たりだった。
例えば先程のように、魔核の上と下の胴体をスッパリ斬ってしまえば、コントロールできる部位がなくなりアンデッドは消滅する。
また開発した『
もうお分かりだろう。魔核が穴に入るように『
魔核を切り離さなければ中々死なないアンデッドには最適な魔術である。
そうやってサクサクアンデッドを倒して経験値と魔核をザックザク稼いでいると、人影が見えた。
最初はゾンビかグールかと思ったのだが、どうやら違うようだ。
黒い魔術師風のローブを着ており、そこから見える肉体は普通の人間のものであった。
これには正直驚いた。
まさかこの階層に一人で入るような人間が僕以外にいるとは。
容姿からして迷宮攻略兵団ではなさそうに思える。
そして彼がかなりの魔力を内包していることが感じられる。正直父さんに匹敵するかそれ以上までありそうだ。
Sランク冒険者か何かだろうか。
向こうもこちらに気づいており、会釈をされたのでこちらも軽く会釈を返す。
「おぉ、このようなところで冒険者に出会うとは……しかもソロかい? すごいね」
「僕も驚きました。まさか僕と同じ様にソロでこの階層に冒険者がいるとは思いませんでした」
そういうと男は人好きのする顔でニッカと笑った。
「はっは、私達はソロ仲間だな。私はタナトと言う。君は?」
「シリウスと申します」
「シリウス君か……ふむ、シリウス君。先程の戦いを見ていたが、中々やるね。いや、やる人間でなければここまでソロでこれるはずもないか」
このタナトさん、見た目は渋い壮年のおじ様って感じなのだが、メチャクチャフレンドリーである。
「僕なんてまだまだですよ」
「いやいや、大したもんだよ。ちなみに君は何階層を目指しているんだい?」
「今日中に四十七階層に行って、明日に戻ってこようと思っています」
タナトさんは顎に手を当ててふむふむと小さく頷いている。
「うん、もし君が良ければ一緒に四十七階層まで行ってくれないかい? 道中入手した魔核は君にあげよう。いやね、その年齢でここまで来られる強者の戦いを近くで見たくてな。どうだろうか?」
タナトさんの誘いについて思案する。
正直、二人で行くと僕が倒す魔物の数が減るため、経験値的には若干不味いだろう。
その代わりに探索速度は増すため、そこまで大きく減ることはないと思うが。
一緒に行くメリットとしては安全、探索速度の増加、そして一番は高位の魔術師の戦いを間近で学べることだろう。
タナトさんは僕の戦いを見たいと言っているが、僕もタナトさんの戦いは気になる。
――よし、一緒に行こう。
「はい、是非一緒にいきましょう。よろしくお願いします」
「ありがとう。こちらこそよろしく」
タナトさんは爽やかに白い歯を覗かせた。
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