第65話 魔族
「玉座の間につきましたな。国王陛下がお待ちになっております、お入りください。おっと、申し訳ございませんが武器は持ち込めませんので、こちらで回収させていただきますよ」
シャーロット王女が何かを言おうとしたが、それを制する。
何かあったとしても武器がないと油断させておいた方が良いだろう。
「かしこまりました」
入口に立っている兵士に
ヴェルデリッヒ宰相は満足そうに頷き、キィと扉を開いた。
魔力感知で感じてはいたが、扉を開いたことにより溢れ出す闇属性の魔力に思わず目を細めてしまう。
シャーロット王女も気づいているようで唇を噛み、顔を歪めている。
玉座には男性が一人座っており、その脇にメイド服の女性が一人、そして玉座へ伸びる絨毯の脇には鎧姿の騎士が立ち並んでいた。
そして姿は見えないが、『物理探知』で天井裏にも何人か潜んでいることがうかがえる。
周囲を見回し、軽く『洞察』をかけていく。
国王陛下も含め見事に皆洗脳状態であったが、一人だけ洗脳状態ではない者がいた。
その一人のステータスを確認したところで、緊張が走った。
《
【種族】サキュバス(隠蔽状態)
【ステータス】
体力:3500
気力:1600
精神力:5200
魔力:2900
【スキル】
『
》
……このメイドさん、魔族じゃないか…… しかも結構強いし……
恐らく『
シャーロット王女やリィン騎士団長を洗脳していないところを見ると、男性にしか効かないスキルなのかも知れない。
メイドサキュバスは地味な化粧をしているが妖艶さを漂わせており、また性的な魅力があふれる身体をしていた。
……これは『
思わずジッと見てしまっていたが、目を逸らし軽く頭を振って冷静になる。
隣のシャーロット王女から不穏な気配を感じるが、気のせいだろう。
何もやましいことはない、マゾクカシラベテイタダケダカラネ?
心の中で無駄に言い訳をしつつ王座の前まで進み、頭を垂れる。
「そなたがシャーロットを救ってくれたという者か。名をなんと申す」
「はっ。Cランク冒険者、シリウス・アステールと申します」
「……アステール?」
後ろからシャーロット王女の呟きが聞こえた。
あれ、言ってなかったっけ?
「ふむ、シリウスよ。よくぞ我が娘を救ってくれた、礼を言おう」
「身に余るお言葉でございます」
「ついては、そなたに褒美を進ずる。こちらへ参れ」
国王陛下の前に進み出る。
隣の騎士が、立ち上がった国王陛下に豪華な装飾が施された剣を渡した。
「これは我が国に伝わる宝剣の一つだ。娘を救った剣であるそなたにこれ以上相応しい物はないであろう」
国王陛下がスルリと剣を抜き、刀身が見えるように剣を高く掲げた。
「この宝剣は光を反射し、龍の文様を浮かび上がらせるのだ。そなたも龍のように強く、勇敢に我が国を護ってく…… れッ!!」
不意に、国王陛下が高く掲げていた剣をそのまま振り下ろした。
同時に国王陛下の脇に立っていた騎士が左右から同時に斬りかかってくる。
やはり仕掛けてきたか……!
しかしいくら不意打ちでも、その程度の剣速でどうこうできると思われているとは、子供だからって舐めすぎだっ!
「承知いたしました。国を、お護りしますッ!!」
『
三人の攻撃を難なく回避し、『
首を刈るつもりだったが、伸ばされた爪に受けられて左腕しか切り飛ばせなかった。
予想以上に素早い反応だ。
「な、なぜッ!!??」
サキュバスの隠蔽が解けメイド服から漆黒の衣に変わり、翼と尻尾が姿を現す。
「クソッ! ひれ伏せ人族!! 『
サキュバスの瞳が赤紫に光り、体に電流が走ったかのようにピリリと背筋が痺れた。
これが『
やばい! 操られる!!
……
……と思ったのだが、何故か普通に体が動き、サキュバスの首を跳ね飛ばしていた。
「グギャッ!? ナ、ナンデェ!?」
むしろこちらが聞きたいのだが……
《スキル『超耐性』より魅了耐性を自動発動しました》
あー、なるほど…… 『超耐性』さんが仕事してくれたようだ。優秀すぎる……
首だけになっても喋っていたので、頭を刀で貫きトドメを刺す。
「ガッ!? シュ…… ト…… サマ……」
よく分からない言葉を最後にサキュバスが息絶えた。
すると部屋に満ちていた闇属性の魔力は霧散し、国王や騎士達は糸が切れた人形のように倒れた。
魔物とは言えど、人型の生物の首を飛ばすのは予想以上にシンドいな……
元凶を倒したことで、安堵とともに胃液がせり上がってくる。
それにしても人族最大国家の中枢にこんな簡単に魔族の侵入を許すなんて、警備がガバガバなのか、魔族が優秀なのか……
今後の警備体制をもっと考えた方がいいだろうな。
吐き気を抑えつつ後ろを振り向くと、シャーロット王女が胸に飛び込んできた。
「わっ!? ……っとと」
「シリウス様ッ!! お父様を、国をお護りくださり、本当にありがとうございます……!」
シャーロット王女は僕の肩に顔を埋め、少し震えていた。
国王だけでなく騎士達まで操られていたのだ。いつ自分が殺されてもおかしくない状況であったことを実感したのだろう。
本当に致命的な状況になる前に解決できて本当によかった。
軽く抱き返してしばらく頭を撫でていたが、そろそろ床に倒れている国王が気になってきた。
「シ、シャーロット様、国王陛下が床に倒れたままです。どこか横になれる場所に移動いたしましょう」
「……別に、起きるまでそこで寝てても問題ありませんわ」
「いやいや!? ありますよね!? 僕が気になるんです! お運びしますので!」
「……ふぅ、仕方ありませんわね……」
シャーロット王女は渋々と僕から離れる。
助かった…… これ以上くっつかれてたら心臓が持たなかった……
頭を振り煩悩を払い、国王陛下を抱き抱える。十二歳の少年にお姫様抱っこされる国王陛下、背負うと足を引きずってしまうしこれしかなかった。不敬罪で処刑されなければいいけど。
「お父様ずるい…… 許しませんわ……」
シャーロット王女は何かを呟きつつ、王の寝室まで案内してくれたのであった。
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