第51話 覚悟
「分かった。 ……まぁ『闘気』を習得した者としていない者では、武器を持っている者と持っていない者くらいの差があると言われているくらいだからな。正直、高ランク冒険者になるためにはほぼ必須と言っても良いだろう」
確かに戦って分かったが、『闘気』はかなり強力な技能である。
『闘気』がなければディアッカ教官に勝てたかというと、それでもかなり厳しかったと思うけれども。
「習得の方法だが、まずはこの『闘気珠』に手を当てて気力を流してもらう。一定以上流すと、『闘気珠』の中で変質された気力が一気に体内に戻ってくる。これがかなりしんどいから、覚悟しておくように」
ディアッカ教官がかなりしんどいって、どれだけしんどいんだ?
怖い。
「それが終わると『闘気』を習得する準備は完了だ。後は自分がどのような力得たいかを想像しながら気力を練り上げ、『闘気』を構築してく。これには明確にイメージを持つ必要がある。迷いがあると『闘気』は構築されないからな。『闘気』は構築にはかなりの時間がかかる。強力な『闘気』を構築しようと思えば思うほど、時間はかかることになるからな。ちなみに私もいまだ、発展途上だ」
ディアッカ教官ですら発展途上とは…… 強力な『闘気』を構築しようと思うと果てしない時間が必要なのだろう。
「どれだけ強力な『闘気』を習得できるか、またどの程度の速度で習得できるかは個人の資質による。私の『
なるほど…… 個人の資質によってリソースが決まっていて、そのリソース内であればスキルを成長させることができるってことか。
資質があって諦めなければ時間をかければかけるほど強化していけるから、『闘気』を習得してからの年数はかなりのアドバンテージになりそうだ。
「さてと、では諸君には『闘気珠』に気力を流し込んでもらうぞ。ちなみに習得準備が整ったからと言ってすぐに『闘気』を構築しなければいけないわけではないから安心しろ。どのような『闘気』にするか、一年でも二年でも悩んでいいからな。後悔だけはしないようにしろよ。……ただし『闘気』の構築を始めるのは早ければ早いほど有利だから、そこは自分の中で折り合いをつけるんだな」
正直、いきなり『闘気』でスキルを身に付けろと言われても、困惑しかない。
すぐに判断しなくてもいいのは助かるな。時間を考えるとゆっくりもしていられないけど。
「まずはムスケルから行こう。ムスケルは既に『闘気』を習得してはいるから負担は若干少ないはずだ。すでに『
「了解である。いくであるぞ! フンッ!」
ムスケルは『闘気珠』に手を当てると、躊躇せずに気力を放出した。
放出された気力が『闘気珠』に吸い込まれていく。
暫く気力を放出し続けて明らかに疲労が顔に現れ始めた頃、唐突に『闘気珠』が輝いて気力が一気にムスケルへ逆流した。
「むおっ!? む、むむむあああぁっ!!」
ムスケルは逆流した気力により身体を輝かせ、痙攣しながら身体を仰け反らせて苦悶の表情を浮かべていた。
しかし『闘気珠』からは手が離れず、倒れることもできずに立ったまま輝きながらビクンビクンとしている。
……これ、大丈夫なのか……?
しばらくすると光が収まり、ムスケルの手が『闘気珠』から離れると同時に意識を失って倒れ込んだ。
死んでないよな?
「お、おい。これ、大丈夫なのか?」
おずおずとランスロットがディアッカ教官に問いかける。
「あぁ、大丈夫だ。これはまだマシなほうだな」
平然としているディアッカ教官を見て、僕とランスロットは青ざめる。
「じゃぁ次はランスロットな」
「……わ、わかった……」
物凄く嫌そうな顔をしつつ、『闘気珠』に近づくランスロット。
「……仕方ねぇ、覚悟を決めるか」
そういうと、ランスロットは少しずつ『闘気珠』に気を注ぎ始めた。そして……
「ガッ!? ぐ、ぐおおおおぉぉぉぐあああああッ!!」
先程のムスケル以上に苦しみ始めた。よだれを垂らし、白目を剥いている。
いや、これヤバすぎるでしょ!?
あまりの光景に言葉を失い、血の気が引いていく。
気力の逆流が終わり、同じく意識を失ってランスロットが倒れる。
「次はエアだな」
……
「あああああああ!! がっがああああッ!!」
同じくメチャクチャ苦しんでいるエアさん。
美少女が痙攣しながらのけぞっている絵面…… いやいやダメでしょこれ!?
「よし、次はシリウスだ。シリウス、覚悟しておけよ。お前の気力量を考えると…… いや、もはや何も言うまい」
「え!? いやいやいやいや!! なんですか!? 気力量によって苦しみは増えるんですか!? 教官!??」
ディアッカ教官に縋り付くも、目を瞑り首を横に振るだけで何も言わない。
……まじかよ……
呆然としていた僕だが、ディアッカ教官に背を押されて『闘気珠』の前に連れてこられた。
「覚悟を決めろ、シリウス」
「…………はい」
諦めて『闘気珠』に手を添える。
いくら辛いと言っても死ぬわけではない。一時の痛みに耐えれば『闘気』を習得できるのだ。もうやるしかない。
『闘気珠』に気力を流し始める。
カラカラのスポンジみたいに、グングンと気力が吸い込まれていく。
……明らかに二人よりも吸収時間が長い。もしかして気力量の何%を吸収とか決まっているのだろうか。その分逆流する時間(苦しむ時間)も長いのだろうか。
そんな事を思いながら気力を流し続けていると、残り20%くらいのところで気力が入らなくなった。
そして突然、一気に気力が逆流してきた。
「ぐ、ぐああああ…… あ?」
一瞬痛かった気がしたんだけど、全然痛くない。気のせい?
気力はドンドン逆流してきている感じがするのだが、特に苦しみは感じない。
《一定以上の疼痛を確認。スキル『超耐性』より痛覚耐性を自動発動しました》
あっ! そうだ!
なぜか最初から持っていたスキル『超耐性』に痛覚耐性があるんだった!
常に痛覚を遮断していると危険だから普段はオフにして、一定以上の痛みを感じると自動発動するように以前設定していたことを思い出す。
そこまでの痛みを感じることが今までなかったから完全に忘れていたな……
「……おい、シリウス? お前、大丈夫なのか?」
ディアッカ教官がメチャクチャ不審そうな顔をして問いかけてきた。
「あー…… 思ったより、大丈夫でしたね。僕、痛みに強いので……」
「いや、痛みに強いとかそういうレベルの苦痛ではないと思うんだがな……」
ディアッカ教官は解せぬといった顔をしているが、気力は逆流しているが僕は苦しんでいないという事実は事実であるため、納得いかないが無理やり自分を納得させているようだ。
そしてしばらくして、気力の逆流が収まった。
その頃にはムスケル、ランスロット、エアさんもまだ虚ろな目をしてはいるが、意識を取り戻していた。
身体に気力を通すと、何かがぽっかりと空いている感じがする。
無理やり体内に新しい容量を開けさせた、という感じだろうか。
これが『闘気』を習得するためのリソースなのだろうなと直感で感じる。
他の三人も手をグーパーさせたり、気力を身体に通してみたりして、何かを実感しているようだ。
「もう感じていると思うが、これで諸君の身体に『闘気』を取得する準備が整った。これからは自分との戦いだ。まぁ今後の授業でも『闘気』扱いなどを教えるし、もし行き詰まったり悩んだりしたらいつでも聞きにきていいからな」
そうして本日の授業は終わった。
ちなみに、魔術職のロゼさんとアリアさんは少ない気力量で『操気』の訓練を目一杯させられていたようで、気力が枯渇寸前で今にも気を失いそうなほどフラフラになっていた。
◆
寮に帰宅し、また身体に気力を巡らせる。
このリソースをどのように活用するのか、とても悩ましい。
ディアッカ教官のように戦闘を補助するようなスキルか、ムスケルのように身体能力を強化するスキルか、もしくは一撃の威力の高い必殺技のようなスキルなども考えられるな。
あとは自分の長所を伸ばすか、欠点を補うかということも悩ましい。
僕の長所は、雷魔術と『雷薙』による高速戦闘だ。
本来は対応される前に一瞬で倒すのが僕のスタイルだ。
接敵速度、回避速度、そして攻撃速度に更に特化させて気づかれる前に一撃で倒せれば、ある意味最も安全である。
欠点は攻撃力が『雷薙』に依存しがちであり、一撃で倒せない相手には決定打がなく苦戦を強いられることだな。
ディアッカ教官との戦いでも、気力の盾と教官を同時に斬り伏せられる攻撃力があれば問題なかったはずだ。
あとは、防御力の低さも気にはなる。
基本的に高速機動で回避するのが僕のスタイルだから、防具も軽量化を重視しており最低限の防御力しか無い。
また僕自身の体格も小さいため、大きな攻撃を直撃したら簡単に一撃で屠られてしまうだろう。
ディアッカ教官の攻撃も防げていればカウンターで勝てたかもしれない。
そう考えると、身体能力を強化するスキルは絶対に腐らないだろう。
しかしこれらは、努力でこれから補っていけるかも知れない。
『
……これはちょっとしばらく考察する必要があるな。
放課後も頭を悩ませ続け、一日を終えるのであった。
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