第48話 鍛冶屋
ある日の放課後、エアさんと共に武器屋を目指して街を歩いていた。
「それにしても、あえて斬れ味の悪い武器を買いたい、なんてね」
オススメの武器屋を教えてくれるというエアさんが、隣で苦笑していた。
「両親から貰ったこの『雷薙』は斬れ味が良すぎるんですよね…… 相手の剣を弾こうと思ってぶつけたら、そのまま切断しちゃうくらいの斬れ味ですから、模擬戦では使いづらすぎます」
「入学試験で『解析球』を斬っちゃうくらいだもんね。まぁシリウスの実力のせいってのもあると思うけど?」
「あれは『雷薙』のせいです。絶対そうです」
魔術でも『解析球』が粉々になっていたが、それは気にしない方向で。
そんなとりとめもない話をしていると、古めかしい、無骨な感じの店に辿り着いた。
看板もなにもなく、パッと見で店と判断して入るのには非常に勇気の要る建物だ。
「ここ…… のはずよ。私の父の友人がやっている鍛冶屋。私も父に教わってはいたけど、来るのははじめてね」
若干自信なさそうに話すエアさん。
見た目はただのこぎたな…… 古めかしい民家だ。
しかし煙突から立ち上る煙と建物内から響く金属を叩く音が、ここが鍛冶屋であると主張している。
恐らく間違いないのであろう。
ノックをしたり呼びかけても一切の反応がないため意を決して扉を開くと、いきなり武器だらけの棚だらけであり、その奥には一心不乱に金属を叩く人影が見えた。
その人影に近づくと、ずんぐりむっくりした体系のヒゲモジャのおっさんが居た。 ……これはどうみてもドワーフだな。
ドワーフ。よくアニメやライトノベルでも出てくる、お馴染みの種族はこの世界にも存在していた。
やはり例に漏れず物づくりを好む種族で、職人や鍛冶師などといった職業が多いらしい。
こちらに気づかずに金属を叩き続けるドワーフに近づき、おずおずとエアさんが話しかける。
「あのー…… すみません……」
金属を叩く音が非常に大きく、エアさんの声は全く届いていないようだ。
「すみません!!!! ガンテツさん!!!!」
ガンテツさんの耳元でエアさんが叫んだ。
すると、吃驚した表情を浮かべたガンテツさんがこちらを振り返り、首をかしげた。
「んお? おまいさんら、誰じゃ? 何しに来おった?」
「私は、エア・シルフィードと言います。父のフォレスに、腕のいい鍛冶師だとガンテツさんを紹介していただきました」
「あ? シルフィード…… フォレス? ……父? ……おまいさん、フォレスの娘っ子か?」
「えっと…… はい、そうです」
「なんと!!? はぁー…… あんな小さかった娘っ子が、もうこんなに大きくなったのか…… 時が流れるのは早いもんじゃのう」
「えっ!? 私……ガンテツさんとお会いしたことが……!?」
「うむ。まぁおまえさんがまだこーんな小さかった頃じゃからな、覚えとらんのも無理はないじゃろ。で、そのフォレスの娘っ子が何の用じゃ?」
「はい。私の友人に武器が欲しいという人がいて、ガンテツさんの武器はどうかと思って、見に来たんです」
エアさんの紹介を受け、ガンテツさんに一礼する。
「シリウスと申します。剣を探しており、是非拝見したいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ。じゃがおまいさん、立派なカタナをぶら下げておるじゃな…… カタナ…… あ????」
急にガンテツさんの視線が鋭くなり、腰に下げている『雷薙』をガン見していた。
「おい…… このカタナを何処で手に入れた……?」
急に身体から気力と殺気を垂れ流しながら、低い声で訪ねてくるガンテツさん。
炉が燃え盛っているのにも関わらず部屋の温度が急激に下がり、緊張が走る。
この人、カタナにどんだけの恨みがあるんだ!?
乾いた口を開き、慎重に回答する。
「これは母のミラ・アステールから譲り受けたものです。母は、父のレグルスから贈られたと言っていましたが……」
「ミラ…… 母……? レグルス……? おまいさん、まさか…… ミラとレグルスの子どもか!!??」
「はい、その通りです」
父さんと母さんの名前を聞いて、目を見開くガンテツさん。
あの二人、ガンテツさんに一体何をしたんだ!?
緊張感に冷や汗が頬を伝ったところで、不意に頭をポンと撫でられた。
「まさかこんな立派な子どもができてたなんてな。シリウスって言ったか、よく来たな」
ガンテツさんは、打って変わって優しさに満ちた表情をしていた。
「実はそのカタナ『雷薙』は、儂と師匠が打ったものじゃ」
「えッ!!?」
「ミラとレグルスはちょいちょい儂の工房にきては、武器を見ながらイチャイチャしておった。気に食わないやつらだった」
何やってんの父さん…… 母さん……
「しかしある日、とんでもない魔物の討伐依頼があやつらに来てな。生きて帰ることは難しいような依頼じゃった。そんな時じゃ、レグルスはとんでもない素材をうちに持ち込んで儂に土下座をしおった。妻を護る最高のカタナを作ってくれってな。
あまりにとんでもない素材で、あの頃の儂にはまだ扱いきれんかった。そこで師匠に頼み込んで、共に作り上げたのがその『雷薙』じゃ。未だに、儂がいままで携わった武器の中で最高傑作じゃ。『雷薙』を持ったミラは鬼神の如き強さで、その超難関依頼を無事に達成したそうじゃ。
それを見知らぬ子どもが持っておったからの。盗人かと思って思わず殺気をぶつけてしまったわい、すまぬの」
そういうことだったのか……
未遂の人間にぶつけるには、あまりに濃厚な殺気であったが……
「それが今、息子に受け継がれているとはの…… 嬉しいもんじゃ…… ところでおまいさん、剣を探していると言ったの。『雷薙』を持っていながら、それ以上何を求めているんじゃ?」
こちらの心の内を探るような、鋭い視線が突き刺さる。
「はい。斬れ味の悪い武器を探しています」
「……は?」
「あまり斬れない武器を、探しています」
「…………なんじゃって?」
「斬れにくい武器を……」
「いや、それは分かった。それは分かったんじゃが、何故わざわざ斬れ味の悪い武器をさがしておるんじゃ?」
「はい。『雷薙』は非常に素晴らしい武器なのですが…… 斬れ味が良すぎるんです」
「斬れ味がよくて何が悪い?」
「僕は今学園に通っているのですが、例えば模擬戦で相手の武器と刃を合わせると、そのまま相手の武器を切断して殺してしまいかねないんです」
「……ふむ」
「そのため、相手の攻撃を受け止められる程度に強度が高く、かつ斬れ味が悪い武器が欲しいんです」
「相手を殺さないために、手加減するための武器が欲しいということじゃな?」
「ぶっちゃけていうと、そういうことです」
「……大分ぶっちゃけたわね……」
「それなら、"
「黒鋼……?」
「黒鋼は、主にハンマーなどの鈍器系の武器に使われる金属じゃ。凄まじい硬度を誇り、黒鋼のハンマーはミスリルすら叩き割ることが可能じゃ」
「ミスリルより硬いですって!?」
「まぁミスリルはかなり強度を持っておるが、一番の強みは魔力伝導率じゃからな。一方黒鋼は魔力が全く伝わらん代わりに、物凄く硬い」
「魔力が伝わらず、強度が高い…… それ、戦士からしたら凄まじい素材じゃないですか?」
「そうじゃな…… しかし黒鋼には問題があっての、硬すぎるんじゃ」
「硬すぎならいいんじゃないの?」
「硬すぎて、加工が困難なのじゃ。じゃから、ほとんど塊で使えるハンマーくらいしか作れんのじゃ。ほれ、これが黒鋼じゃ。そんなに多く流通している金属ではないのじゃが、加工が困難すぎるお陰で安価なのじゃ」
黒鋼を手に取ると、想像以上にずっしりとしていた。
見た目は物凄く真っ黒である。恐らく光をほとんど反射していないと思われ、まるでブラックホールのように吸い込まれそうな黒だ。
コンコンと指で弾いてみるが、ほとんど音がしない。メチャクチャ硬く、凄まじい密度を感じる。
《
【名前】
【説明】
非常に硬度の高い、黒い金属。
魔力をほとんど通さない。
他の金属との親和性が高い。
》
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