第43話 迷宮
学園は、週に五日間授業があり、二日休みがある。この世界でも月や週という概念があり、一ヶ月が三十日、一週間が七日と、地球とほとんど同じである。
この暦を作ったのは初代国王だと言うが、ここまで一致していると地球との関係性を疑ってしまう。
僕が転生してきているくらいだ、自分だけ特別だとはとても思えない。
初代国王は転生者だったのではないかという気がしてならないが、何百年も昔の人だから確かめようもないし、気にしてもあまり意味はないだろう。
休日、いつものように朝の鍛錬を終え、寮の食堂で朝食を摂る。
前世では週休二日どころか年休二日くらいだったお陰か、未だに週に二日も休むことに不安を感じてしまう。
寮で朝食を摂り、簡単に身支度をして冒険者ギルドへ足を向ける。
入学前にギルドには加入しており、一応Dランク冒険者ということになっている。
「あっ! シリウス君、おはようございます! シリウス君は働きものだね~。平日は学園で学びながらもモンスターを納品してくれて、休日もこんな朝早くから依頼を受けにくるなんて…… あれ!? もしかしてお姉さんに会いたいからとかじゃないわよね??」
受付嬢のセリアさんは冗談めかしながらクネクネしている。
「寮にいても身体がなまっちゃうので。セリアさんに会いたいってのもありますけどね!」
「もーぉ!! シリウス君は社交辞令が上手なんだから!!」
セリアさんは照れつつもバシバシと肩を叩いてくる。
実際セリアさんは笑顔が素敵なお姉さんで、冒険者内でも高嶺の花として人気の受付嬢だ。
話してみると元気を分けてもらえるような気さくな人なんだけどね。
「あはは。ところでセリアさん、この付近の森の魔物の分布は大体分かってきたんですが、もうちょっと上位の魔物とも経験を積みたいと思っているんです。何か良い依頼ありませんかね?」
「うーん…… 確かにシリウス君の実力じゃ、この街の周りの魔物じゃ物足りないかもしれないわね。かと言って学園があるから長期依頼はやめておいて方がいいわよね。そうなると、そろそろ
「
「ええ。セントラルには大型の迷宮があるのよ。かなり探索が進んでいるから、上層から中層なら比較的安くマップも手に入るし、かなり安全に探索できるはずよ」
迷宮とは地下にアリの巣のように広がっている空間で、その中には魔物が自然発生するようになっている。
迷宮は放っておくとスタンピードが発生し、迷宮から魔物が溢れ出てくるそうだ。
過去にスタンピードで滅びた国や街は数え切れないくらいあり、それを防ぐために国が兵士や冒険者に依頼を出し、迷宮の魔物を討伐しているのだ。
上層ではスタンピードを防ぐために冒険者が魔物を間引き、下層では国の迷宮攻略兵団が最下層目指して日夜死闘を繰り広げている。
最下層にはダンジョンコアと呼ばれるものがあり、その所有権を得ると迷宮を支配することができるそうだ。
迷宮を支配できれば魔物の生成を止めることも可能だし、素材を得るためにスタンピードが起きない量の魔物を生成して迷宮を存続させることも可能だという。
ダンジョンコアの入手は冒険者の夢の一つでありロマンとしてよく語られるが、未だダンジョンコアを支配出来ている迷宮は、ほとんど無いらしい。
「では、迷宮の魔物討伐依頼を受けさせてもらってもいいですか?」
「りょーかいよ! と言っても、魔物のランクによってポイントと報奨金が国から出るだけなんだけどね! はい、迷宮は西門を出て真っすぐ行けばすぐに分かると思うわ。頑張ってね!」
本では読んだことあったが足を踏み入れたことのない迷宮に心を躍らせつつ、依頼を受注して冒険者ギルドを後にする。
西門を出ると、少し先に洞窟の入口があり、その周りに露天の簡易テントが多く出ていた。
入口に一番近い場所には受付らしき物があり、中に入る冒険者たちが受付の兵士にギルドカードを提示しているようだ。
そして受付の周囲には簡易的な武器防具の店舗や薬屋、雑貨屋、屋台などが並んでおり、冒険者たちで賑わっていた。
地図屋で上層と中層のマップを購入し、受付の兵士に話しかけてみる。
「すいません、冒険者ギルドで迷宮の魔物討伐依頼を受けてきました。迷宮に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ん? 坊主、冒険者かい。ギルドカードを見せてごらん」
人の良さそうなお兄さんが、しゃがみこんで目線を合わせて対応してくれた。
ギルドカードを懐から出して提示する。
「ほぉ、その歳でDランクか。まぁそのランクであれば上層くらいなら大丈夫だろうけど…… パーティは組んでないのかい?」
「はい、一人です。ダメでしょうか……?」
確かに周りを見回すと、あまり一人でいる冒険者はおらず大体パーティを組んでいるようだ。
「ダメってことはないが…… まぁ、ギルドが依頼を出しているからな…… 一人だと、何かあった時危ないからな。あまり下の階層までは行かないようにな、お兄さん心配だからさ。坊主は一階層からのスタートだな」
お兄さんは僕の頭をポンポンと軽く叩き、少し困ったような笑顔をした。
「一階層以外からもスタートできるんですか?」
「あぁ、坊主は初探索だからこの一階層の入口からしか入れないけどな。この迷宮は十階層ごとに迷宮転移盤っていう魔導具が設置されているんだ。自力で到達した階層まではここから転移できるって仕組みだ。勿論帰りにも使えるぞ」
「へぇー…… 転移魔術ってかなりの魔力を消費するって聞いたんですが、そんな凄い魔導具があるんですね!」
「あぁ、本来の転移魔術はそうらしいな。詳しくは知らないが、この迷宮転移盤は迷宮の特定階層でしか使えないっていう制約を設けることで消費魔力を減らしているらしい。それでも国が支給している魔石を定期的に交換しないといけないけどな。昔は迷宮から見つかる古代魔導具しかなくて激レアだったんだが、つい最近に時空魔術を開発したお偉い魔術師さんが作ってくれて普及したらしいぞ」
時空魔術を開発した魔術師って、まさか……
「へ、へぇー…… それはすごいですね…… い、色々と教えてくださりありがとうございました!」
「おう、気をつけていくんだぞ!! ほれ、これは初迷宮の坊主に餞別だ、頑張れよ!」
そう言ってお兄さんは
「ありがとうございます!! 行ってきます!」
お兄さんに手を振って迷宮の入口に入る。
そんな浅い階層では終わらないだろうなという、若干の申し訳無さを感じながら。
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