第16話 噂
ゴブリンの襲撃から一週間後、安全のため休止されていた教会が久々に開放された。
元気を持て余した子ども達が教会へ行きたがって困っていた親達の声があったこと、また狩人衆により村の安全がある程度確保され、あれから一週間村にゴブリンが現れることがなかったこともあり、神父様が開いてくれたらしい。
ララちゃんと教室に入ると、騒がしい教室がシーンと静まり、皆がこちらを見る。
そしていきなり人が殺到してきた。
「シリウス君、ゴブリン倒したって本当!?」
「シリウス、魔術見せてみてよ!」
「シリウス君、怖いから帰り私を送っていって!」
皆が凄まじい勢いで群がってくる。
あの日のことが噂になっているようだ。
このままじゃ席に座れないじゃないか!
「ちょ、ちょっと待って皆! 僕はほとんど何もしてないよ! 父さんと母さんが倒してくれたんだよ!」
嘘はついてない。
ゴブリンリーダーに関しては。
「くっくっくっ…… ほとんどのゴブリンを魔術で倒したくせに何言ってんだよシリウス」
ルークが楽しそうに煽ってきた。
こいつ……
「ルーク君はああ言ってるよ!!」
「私にも魔術教えて!」
あぁもう収集がつかない!!
ララちゃんなんて皆に教室から押し出されて目を回してるし。
「いやいや、本当に大したことしてないから! と、通して! 皆席に戻って!」
となんとか席に辿り着いたところで、シスターリアーヌが教室に入ってきた。
「はーい皆さん! 席についてくださいね! ララちゃんも早く教室に入ってきなさい」
「ふ、ふぁい……」
ララちゃん、ごめん。
そして、昼休み。
僕らは庭でお弁当を食べていた。
朝のように群がられることはなくなったが、チラチラとこちらを見ている人が多い。
まったく、楽しみが少ない田舎の村だからか噂が広がりすぎている。
「お疲れ様、シリウス。朝から大変だったわね」
「くくく、困ってるシリウスを見るのは楽しいなぁ」
「はぅ…… 朝から大変でしたぁ……」
「ルーク、覚えとけよ……」
上級生には狩りを手伝っている先輩や魔術を使える先輩がいるが、僕らの学年でゴブリンを倒せるレベルっていうのは、やはり珍しいようだ。
しかし僕自身勉強中の身だし、人に教えるのは難しい。
また魔術は使い方を誤れば非常に危険なものだし、未熟な子どもに教えるのはよくないだろう。
大人達がある程度の年齢まで教えてくれないのも、そういうことを考慮してのはずだ。
「でもあの戦いは本当に凄かったわよ。只者じゃない奴とは思ってたけど、あそこまでとはね……」
「……魔力も魔術の威力もすごかった」
「あぁ、シリウスがいなかったら今頃どうなっていたか…… 感謝している」
「改めてそういうこと言われると恥ずかしいので、この話やめません?」
一週間も経ったのに改めて凄いとかありがとうとか言われるのはなんだか照れくさい。
結局最後は父さんと母さんに助けられたわけだしなぁ。
「……ぁぁぁぁぁ……」
ん?なんか叫び声と地響きが近づいてきているような……幻聴かな?
「シリウスさまぁぁぁぁぁぁ!!」
いや、現実だ。
ジャンヌさんが叫びながら走ってくる。何か緊急事態でも起きたのか?
咄嗟に『魔力感知』で周囲を探るが、周りには村人しかいなさそうだ。
そういえばゴブリンリーダーと戦った後から、探知できる範囲が僅かに広がってる気がする。
「シリウス様! お久しぶりですわ!! 先日は私の命をお救いいただき、ありがとうございました。本日、よろしければ我が家に来ていただけませんか? 私の両親もシリウス様に是非お礼させていただきたいと申していますわ!」
走ってきたジャンヌさんが僕の手を握り、捲し立てる。
遅れて追いついてきたアネットさんとジェイムズさんが肩で息をしている。
「え、えーっと…… 僕は大したことをしていないので、お気になさらず……」
「いえ!! 大したことですわ!! 是非我が家に!! そして私の婿に!!」
いきなり何の話をしているんだろう?
ぶっ飛びすぎて理解が追いつかない。
「待て待て待て待て! 落ち着け、ジャンヌ! シリウス君が困ってるぞ!」
「そ、そうよ、落ち着いてジャンヌ。シリウス君、ごめんなさいね。この子あなたに助けられてからずっとこんな調子で……」
要するに、ゴブリンの奇襲からの救出っていう急展開にショックを受けて錯乱状態ってことかな?
「は、はぁ…… えーっと、ごめんなさい。今は危険な状態なので、寄り道せずに帰ってきなさいって言われてて……」
「シリウス様がいらっしゃればゴブリンなんて恐るるに足らず! ですわ!」
「いや…… そういうわけにも……」
「あーもう、ごめんねシリウス君。こいつ連れて帰るから、気にしないで!」
ジャンヌさんはジェイムズさんに引きづられて帰っていった。
「シリウス様ぁぁぁぁぁ……」
台風みたいな人だったな……早くショックから立ち直れることを祈ろう。
「シリウスー、モテモテじゃねーか!」
ルークがからかってくるが、ショックで錯乱しているだけでそういうのじゃないだろ。
ジャンヌさんに失礼だぞ。
「シリウス君が…… モテモテ…… モテモテ……」
ララちゃんは俯いて何かをぶつぶつと唱えている。
何か悩みでもあるのだろうか、心配だ。
帰り道は、狩人衆の人が警護しながら家に送ってくれた。
はぁ、今日は噂に振り回された一日だったな、疲れた。
まぁ人の噂も七十五日って言うし、暫く経てば皆飽きるだろう。
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