第145話 怒られました

【いきなり何しちゃってくれるんですか!ミラちゃんの連絡先は、

 知ってますが、クレインちゃんは知らないんですよっ!】


春子から、苦情のメールが速攻で入った。


「やっべ、春子さん怒ってる。」


千鶴の連絡先を調べようとスマホをいじっていたら、その千鶴から、

電話が掛かってきた。


「何ですかあれ?」


挨拶もなくいきなり、ちょっと怒ってるような口調で。


「千鶴ちゃん、怒ってる?」


「少し怒ってます。」


「ご、ごめんなさい・・・。」


時野としても、まったくのイレギュラーだった。

まさか釣った魚が攻撃してくるなんて、夢にも思わなかった。


「とりあえず、私のメアドを春子さんに教えて貰っていいですか?」


「はいっ!直ぐにっ!」


時野は、言われた通りに、千鶴のメアドを春子にメールした。


「ふう・・・何とか落ち着いたかな・・・。明日、ケーキ買って行こう。」


そう思いながら、ベットに仰向けになった。

そして、手を上にかざし、感触を思い出す。

あの大物とのやり取りを。

その日、時野は、興奮して中々寝付けなかった。子供か・・・。



翌日、時野は、波田運輸サービスにフォンデのケーキを持って訪れた。


「こんにちは、時野さん。筋肉痛の方は大丈夫ですか?」


いつものにこやかな春子さんだった。

昨日、2件の引っ越しの仕事をしてるので、春子は筋肉痛になってないか

聞いてきた。


「全然大丈夫ですよ。俺もまだまだ若いかなあと。」


「あのなあ、年取ったら2日目から出るんだよ。筋肉痛は・・・。」


この日は、社長の波田も会社に居た。


「ま、マジで?」


「肉体労働なんて、何年もやってないだろうに。」


波田に言われて、考えてみれば、そもそも肉体労働自体無縁の人生だった。


「今日はしっかり、筋肉でもほぐしておくんだな。」


「そうしとく。春子さん、これお詫びのケーキです。」


「あら、いいのに。そんなの。」


「お前、何か悪さでもしたのか?頼むから山中さんが出てくるような事は、

 しないでくれよ?」


「どんだけ、信用ないんだ俺は・・・。」


「女性に関しては、お前の信用は0どころか、マイナスだっ!」


「・・・。」


「社長、そんな色気のある話じゃないんですよ。ただギルドルーム内で、

 全員瞬殺されただけです。」


「お前・・・。何やらかしてるんだ?」


「事故だよ。事故っ!俺は釣りしてただけなんだから。」


「何釣ったんだ?」


「オオカミウオ。」


「ほう。噛みついてきたのか?」


「水のブレスを吐いてきました。お蔭で私達3人は、瞬殺です。」


「いやいや、春子さん、俺も死んでますから。」


「もしかして、ギルドルームに実装した釣り堀の主か?」


「多分、そうだと思う。」


「ふむ。ゲーム内が騒がしくなりそうだな。黙ってた方がいいぞ?」


「そうなのか?」


「ああ、とりあえずはな。」


「まあ、誰にも言ってないから大丈夫だ。ねえ、春子さん。」


「・・・。」


「春子さん?」


「えっとー、もう聖騎士団には言っちゃたんで、攻略ギルドには

 伝わってるかと。」


「いつのまに・・・。」


呆れる時野。


「それにクレインちゃんも居たし。」


クレインは、攻略ギルド「野武士」に所属しているし、きっとベルラインには、

情報が伝わってるはずである。


「まあ仕方ないな、時野。釣ったのはお前だから、お前が責任とればいい。」


「何の責任だよ?」


「攻略ギルドって知ってるよな?」


「ああ、クレインちゃんやグランマさんが入ってるようなギルドだろ?」


「そうだ。そういうギルドは、攻略を主体に置いてるのはわかるな?」


「ああ。」


「じゃあ攻略ギルドが、オオカミウオの攻略に乗り出すのは、お前でもわかるだろ?」


「何となく。で、俺に何の責任をとれと?」


「現状で、そのオオカミウオを釣れる人間がお前以外に居るのか?」


「・・・。」


「頑張れよ。」


波田は他人事のように適当に励ました。


「俺だって、釣れたのは偶々なんだが・・・。」


時野は、冷汗をかいた。

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