第125話 剣の道は遠けれど

グランマとクレインの朝練は今日も行われた。

もはや勝つ術が見つからないクレインは、一度も勝つことができない。


「クレイン、薙刀の弱点を探ってるようだけど、やめなさい。」


「・・・。」


「剣道には、一つも役に立たないわ。」


「・・・。」


剣道で戦ってる限り、薙刀には勝てない。

それは、クレインも重々に承知していた。

剣道においては、相手も同じ武器を使っている。

違う武器を想定した戦い方は、剣道には無かった。


「私が一つだけ忠告するとしたら、突きに頼り過ぎよ。」


クレインは、リアルで突きが使えない分、ゲーム内では、突きを多用する傾向があった。


「リアルでは、転じ小手を使ってるでしょ?どうしてゲーム内では、使ってないの?」


「それは・・・。」


転じ小手とは、突きや面に見せかけて小手に行く技で、クレインのリアルでの得意技だった。

但し、リアルでは、突きを使ってない為、面か小手の2択になる。

2択と3択では、相手の対応の仕方は、天と地の差が存在する。

クレインが、ゲーム内で転じ小手を使えば、大きな武器になるとグランマは、思っていた。


「小手は、リアルでは一本ですが、ゲームでは、大したダメージには、ならないと思いまして。」


「相手の動きに制限は付けれれるでしょ?大技なんて、当たらなければ、意味ないでしょう。」


「・・・。」


グランマの言う通りで、返す言葉も見つからなかった。


「いい機会だから、ゲームは私に任せて、剣道に専念しなさい。」


「でも・・・、全日本は当分先ですし。」


「ねえクレイン、リアルで突きが使えたら、日本一になれると思ってるの?」


「は、はい・・・。」


「私は、そうは思わないわ。あなたは、リアルの方が強いのよ。」


「でも、ポリースさんには、リアルでは負けますが、ゲーム内では負けません。」


「それは、体格の差でしょ?ゲーム内では、間合いの差は出ても、重さの差はないでしょう?」


「それは、そうですが・・・。」


「ギルバルトさんに聞きましたが、あなたのギルドは攻略ギルドらしいわね。」


「はい、でもデュエルギルドの連中には負けません。」


「それは、武術を嗜んでる人がいないからでしょうね。」


「武術ですか?」


「恐らくあのカラットさんのは、武術でしょう。」


「前に聞いた時は、空手と聞いてますが?」


「空手と言っても色々ありますからね。彼がやってるのは、スポーツの空手道ではなく、空手の方でしょうね。」


「違うんですか?」


「200年前に空手で熊や牛と戦ったという話もあります。」


「く、熊・・・。」


「本当かどうかは知りませんがね。このゲームをやってる大半の人は、武術どころか、武道をやってる人も少ないんでしょうね。」


「そうかもです。」


「スキルというものも何種類か見せて貰いましたが、対戦では使えそうもないわね。」


「はい、隙が多すぎます。」


「それ故に、対戦では、自分が身に付けてる技がものをいいます。」


「私のは、武道だから、武術には勝てないんでしょうか?」


「例えば、私が太刀を使えば、あなたには勝てないでしょうね。そういう事よ。」


「・・・。」


納得は、確かにするのだが、それでも納得したくない気持ちもあった。

クレインが子供の頃から夢見てるのは、大剣豪である。

大剣豪であれば、例え相手が何の武器であれど、勝ち続けるのが、大剣豪と勝手に思ってた。


「おばあ様は、ご自分がデュエル大会に出たいだけなのでは?」


クレインに言われ、その気持ちが無いでもなかった。


「それもあるわね。でもね、私の夢の一つは、あなたの日本一なのよ。」


「私が日本一になれば、千夏さんが引退すると?」


ギクっ・・・。

孫に本当の夢を見透かされてたグランマ。


「ま、まあ千夏もいい年でしょ?」


「おばあ様は、早くひ孫が抱きたいだけでは?」


既に薙刀の奥義を伝授してるグランマにとって、最後の夢がそれだった。


「私だって、いつまで生きれるかわからないでしょ?それくらい夢見たって。」


開き直ったグランマ。


「おばあ様は、私が突きを使っても千夏さんには勝てないと思いますか?」


「あら?あなた他の人も突けないのに、千夏が突けるの?」


「・・・。」


クレインこと千鶴は、小学生の頃から小さかった為、それを補うべく突きを練習していた。

もちろん高校の大会でも禁止されてる為、練習試合でも使う事がなかった。

村元千夏が、高校生の時、つまり川俣千夏だった頃、彼女は、千勢の家に帰省していた。

高校時代から、全日本に出ていた千夏は、突きを使う相手を想定する為、千鶴に突きを使ってもいいと許可していた。

不幸は、様々な要因が重なって、起こるもので。

小学生なのに、大人顔負けの突きを放つ千鶴。

高校生ながら、日本一になれるほどの実力を持つ千夏。

小学生離れした鋭い突きに、高校生離れした反射神経が、千夏に大けがをおわせてしまった。

確実に喉元に向けて放たれた突きが、とびぬけた反射神経で、避けた為、鎖骨の部分に、それも防具の下にめり込んでしまったのだ。

幸い出血は、大したことはなかったが、鎖骨の部分にまだら模様の傷跡を残してしまったのだ。

以来、千鶴は、突きを放つことが出来なくなってしまった。

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