第122話 学祭終了

「さあ、いきなり盛り上がってきました。恐らく男子がランクインしたのは、K大始まって以来かと思います。」


大いに盛り上がる会場。


「続きましては、2位の発表です。得票数2640票。」



「め、めぐたん居なければ勝ってた。」


「めぐたん言うなっ!もしかして俺のあだ名で定着するのかそれ?」


剣持が心配げに聞いた。


「お、俺が言わなくても、て、定着すると思う。」


尾崎に言われ、定着するんだろうなあと、内心で諦めた。



「絶対的センターっ!」


「「へ?」」


「風祭敦子っ!さすが、あっちゃん。1年生ながら、堂々の2位です。」


誰が1位やねん?と尾崎と剣持は首を傾げた。

会場にまばらにいた観客も、首を傾げる者も多かった。


そんな中、学祭実行委員長と未菜だけは、1位が誰かを確信していた。

そう、小っちゃい奴。



「残念ながら、あっちゃんは、お仕事の関係で会場に来ておりません。情報によりますと、めぐたんが会場に居るようです。よかったら上がってきてくれませんか?」


もちろんMCの呼びかけを剣持は、無視した。

尾崎は、他人のふりをしていたが。


「めぐたんは、恥ずかしがり屋さんなのかな?残念です。それでは、気になる1位の発表です。得票数、なんと5840票!」


「「お、多っ。」」


「チーたん、来たあああっ」


「千鶴、来たあああっ」


様々な思惑が会場を包み込む。



「第1位 刈茅未菜っ!堂々の2連覇達成です!おめでとうございます、未菜さん。」


MCが未菜にマイクを向けた。


「???」


意味が分からない未菜。


「「???」」


意味が分からない尾崎と剣持。


「言い間違えじゃないのか?」


ポジティブな委員長。


「えー、宜しかったら一言、お願いできますか?」


「は、はあ。どうもありがとうございます。」


棒読みだった。

会場から拍手が巻き起こる。


「百合姫、おめでとう~。」


「王子様~。」


「あなたに会えてよかった~。」


男女入り混じった黄色い声援の中、未菜にとってこっぱずかしい声援もあった。


「よかった、本当によかった。」


心底喜ぶ剣持。


「これで、おれのめぐたんは、帳消しだよな?」


「だ、だといいね・・・。」


こうしてミスK大は、無事終了した。

未菜が舞台袖に行くと、花束を持った女性が待機していた。

裏方スタッフ一同が集まっていた。


「おめでとう、刈茅さん。」


そう言って、花束を渡す美人なスタッフ。


「ありがとうございます。」


「一応、これは一年間ご苦労様っていう花束なんだけどね。」


「そうなんですか?」


「私は、1年から裏方やってるんだけど、本当に刈茅さんの活動は、素晴らしかったわ。刈茅さんの前のミスK大なんて何もしなかったのよ。」


所詮、名誉職のミスK大。

ノーエントリー制ということもあり、イベントに出演するかしないかは、本人の自由。

しかもミスK大という名目でのイベント出演は、ノーギャラである。

交通費と弁当が出る位だ。

それで、土日が潰されては、たまったもんじゃない。

ミスK大のイベントスタッフは、イベント研究会や学祭実行委員、他文化系サークルが交代で、活動する。

彼らにとっては、好きでやってるから、土日が潰れるのは問題ではなかった。

未菜の場合は、綺麗なお姉さんに頼まれれば二つ返事で受けてしまう為、活動が物凄い事になってしまった。

K大は、職員を含めれば地方の市よりも人口が多い。

その周りには、たくさんの商店街や幼稚園、保育園があるわけで。

商店街に至っては、K大生や職員が出入りしてる為、百合姫は、美人のお姉さんが頼めば断らないと言う噂は、すぐに広まった。

理由はともあれ、1年間頑張った未菜に対して、スタッフ一同が用意した花束だった。


「本当に一年間、お疲れ様でした。そして、また一年間よろしくね。」


「あのう、よかったらメルアドでも?」


「ごめんなさいね、刈茅さん。私、彼氏いるの。」


「がーーーーん。」


ショックを受ける未菜。

しかし・・・。


「ま、マジでかっ・・・。」


「俺、本気だったのに。」


未菜よりもショックを受けるスタッフが二名居た。

告白する前に失恋してしまったわけだが。

きっと彼らは、枕を涙で濡らしながらも寝る事はできないだろう。


「刈茅、これはマカダミアナッツだ。」


そう言って、委員長が綺麗に包装された箱を渡した。

委員会を含む、裏方スタッフがヒソヒソ話を始める。


「刈茅さんってアレ好きだったっけ?」


「特に好きって訳じゃあないはずよ?」


イベントスタッフとして同行してる人も多く、未菜の好物は皆、知っていた。


「ありがとうございます。」


喜んで受け取る未菜。


実は、千鶴の大好物であり。

千鶴が食べるであろうと見越した上でのプレゼントだった。

裏方、皆のお金で、千鶴の好物を買うとは学祭実行委員長、恐るべし。



後日談。


とある不気味な物理研究室にて、怪しい二人組が何やら話をしていた。


「それにしても、刈茅の得票数はおかしいだろ?」


学祭の監督教授でもある福山が言った。


「一応、調べてみましたが、不正らしいものはなかったです。」


学祭実行委員長の織田が答えた。


「どういう輩が投票してたんだ?」


「2~4年が万遍なくですね。」


「は?4年?」


「ええ。」


「内定組か?」


「そういうわけでも、ないみたいですが。」


「内定貰ってない奴が何やってんだ・・・。」


「まあ日曜日ですし、息抜きでは?」


「しかし、何が人気あるんだろうな?」


「人気ではないでしょうねえ。多分、お礼票とか、そんな感じです。」


「は?」


「色んなイベント参加してますからね。顔は広いでしょう。」


「意外に、ずる賢いんだな、刈茅は。」


「いやあ、本人は、なりたくないみたいですよ?」


「無欲の勝利というやつか・・・。あっちゃんは残念だったなあ・・・。」


「先生は、あっちゃん範囲内でしたね。そういやあ。」


「絶対的センターだぞ?」


「しかたないでしょ?学祭にも来てないし。」


「芸能人だぞ?」


「遠くの芸能人より、近くのガチが選ばれたようですね。」


「これだから、若い奴らは・・・。」


福山教授は落胆した。

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