第83話 接触
いつもの如く鯉の記録更新に勤しむタイマー。
世間では、釣りが、閉ざされた門に関係するのではと噂されているが、そんな事とは、まったくつゆ知らず。
そんなタイマーに、ある釣り人が接触してきた。
「ちょっといいですか?」
「はい?」
一瞬、またマナーとかそう言った話じゃないだろうなと思ったが、
相手が、見た目にも釣り人とわかったので、それはないと安心した。
「あまり、周りの状況とか気にならない人ですか?」
釣り人は、そう言ってきた。
「そうですねえ。自分が楽しめればいいかなと思ってますが?」
「釣りのリストとか確認しないんですか?」
ウィンドウで、釣り情報を確認すれば、魚種と自分が釣った数が、確認できる。
他に確認できるのは、星がついてるかどうかと、最大記録と釣ったキャラ名。
「むっ、全部星がついてますね。」
全ての種類が99匹釣れたことを意味していた。
他人が99匹以上釣ってれば、薄い星が、自分が釣ってれば、くっきりと明るい星が表示される。
「まあ、それも重要かもしれませんが、鮒を見てもらえますか?」
「あっ!」
最長記録63センチとあり、キャラ名はタイマーの物ではなかった。
「ふふふ、鯉に夢中になりすぎでしたね。」
男は、勝ち誇ったように言った。
「いいですねえ。63センチって凄いじゃないですか。」
タイマーは純粋に称賛した。
「諦めますか?」
「いえ、是非、挑戦させてください。」
「仙人と言えども、抜けますかね?」
釣り人は、ニヤッと笑いながら言った。
「まずは、鯉の自己新してからになりますけど。次は鮒頑張ります。」
タイマーは嬉しかった。
釣りは、黙々と一人で釣るのも楽しいのだが、人と競うともっと楽しい。
「まあ気長に待ってますよ。」
現在の仙人の鯉の記録は、116センチ。
釣り人は、川でずっと釣ってたから、わかるのだが、そもそもメーターオーバーの鯉自体、めったに釣れない。
仙人が自己新するのは、当分先になるとふんでいた。
「まあ、せいぜい鯉の自己新頑張ってください。」
男は、上から目線で言って、去って行った。
「燃えてきた~っ」
タイマーはライバルの登場に、メラメラと炎を燃やした。
当たりの選別作業に戻ったタイマーは、時折、鮒の当たりにも反応してしまうようになった。
「あぶない、あぶない。」
今までは、漠然と鮒の当たりを、見逃していたが、当たりである程度の大きさ判別が出来るように、集中していった。
タイマーの鮒の記録は、56センチ。
あの時の当たりは、繊細な物だったが、掛けた瞬間の強さは半端なく強かった。
通常、鮒は、直ぐに餌を吐きだす魚である。
リアルでは、ほんの僅かな浮き当たりを取って、釣る魚なのだが、このゲームの鮒は、ジワーッと引いて行く傾向がある。
ゆっくり、ゆっくりと引いていくので、当たり自体はわかりにくい。
が、入れ替わり立ち代り鮒が変わるので、素人でも釣れる。
ジワーッと引く時間が長いと大物の鮒の確率が高いとタイマーは、経験から判断していた。
引いていく秒数を数えながら、短い秒数を捨てていく。
もちろん鯉の一気に持ってく引きには、瞬間であたりをとり、引きの強さで、大きさを判別していった。
二兎を追う者は一兎をも得ずとは、よく言うが、釣りの場合、同じ竿で、同じ仕掛けで釣る時は、この限りではない。
そして、今までにない強烈な引きが、タイマーを襲った。
間違いなく鯉だ。
どっかのゲームみたいに、竜の化け物に転生したりはしない。
一度、掛けてしまえば、タイマーにとっては、造作もない。
この時点で、タイマーには2つの選択肢がある。
15分、やり取りするか、相手を弱らせ釣り上げるか。
ブラッククリスタルロッドの前に、鯉も10分で、根を上げてしまった。
そして、上がって来た鯉は、121センチ。
見事、記録更新である。
釣り上げると、即座に釣りリストが更新される。
「おめでとうございます。121センチなんて巨鯉がいるんですね。」
後ろで見ていた釣り人が、話しかけてきた。
サイズは、自分のウィンドウで確認したらしい。
「メーターオーバーは、いるんですけどね。120越えは、自分も初めて見ました。」
満面の笑みで答えるタイマー。
「私は、釣りギルド「ツレルン」のGMヨンペイと言います。」
「どうも、タイマーです。」
「実はタイマーさんにお願いがありまして。」
「はあ、何でしょう?」
「私を弟子にしてくれませんか?」
「へっ・・・。」
「実は、私、現在シマアジ以外は、全部99匹以上釣ってまして。」
「そ、それは凄い。アンコウやキンメも?」
川の5層で釣れる2種をタイマーは聞いた。
「ええ、海の3層で釣りました。」
「いやいや、そんな凄い人を弟子になんて出来ませんよ?」
「いえ、これも全てタイマーさんのお蔭なんです。」
「・・・。」
タイマーには、まったく身に覚えのない事だった。
「川にしろ、海にしろ層があるなんて、タイマーさんが発見するまで、誰も気づきませんでした。」
「自分も、川でずっと釣ってて偶然なんですが・・・。」
「普通は、直ぐにでも海に行きますからね。更には、この堅松樹ロッドのお蔭で、格段に釣れ安くなりました。」
「それは、私と言うより、ロッドメーカーさんのお蔭かと。」
「私のギルドもロッドメーカーさんにお世話になってまして。というより堅松樹のロッドは、ロッドメーカーさんしか作れません。」
「そうなんですか。まあ、あの人は、本職でもあるんで。」
「そのロッドメーカーさんに、タイマーさんが居なければ、堅松樹のロッドすら、作ることは無かっただろうと教えて貰いました。」
「はあ・・・。」
タイマーは、思い出した。もっと感度が欲しいと要望したことを。
「是非、弟子にして頂き、シマアジの釣り方を伝授して頂きたく。都合が、よすぎるのはわかってますが、弟子入り資金として100万ゴールドを用意してきました。」
「ひゃ、ひゃ、百万っ!!」
物凄い金額にタイマーはびっくりした。
「そんな大した額じゃあありませんよ?百万じゃあ、そのロッドなんて買えませんし。」
タイマーの現在の財産は2万ゴールド。
最初にカラットに貰った10万ゴールドがジワリジワリと餌代で消費していた。まあ、無くなればカラットから、貰うつもり満々だったが。
「シマアジの釣り方なら、弟子入りしなくてもレクチャーしますよ?」
「いえ、百万ゴールドは、是非受け取ってください。」
「・・・。」
「これは私、個人のお金ではありません。うちのギルドと攻略ギルド等の投資したお金です。」
「投資ですか?」
「ええ、私が、シマアジを99匹釣れば、何かしらのイベントが発生すると、ちまたでは、噂になっています。攻略ギルドからすれば、イベントの為の先行投資と言う訳です。」
「なるほど。私が受け取らないとマズイんですかね?」
「不味いです!」
ヨンペイは、キッパリと言った。
鮒の記録保持者と違って、低姿勢であり、タイマーは好感が持てた。
「わかりました。鯉も記録更新したことですし、きっちりと伝授します。」
「ありがとうございます。実は、私も攻略ギルドから、速く達成しろとプレッシャーが掛かってて、タイマーさんに弟子入りを断られたら、どうしようと冷や冷やしてました。」
「本当に何かしらのイベントとかがあるんですかね?」
「何かしらが発生するのは、間違いないです。ただ、それが攻略ギルドの連中が望むものかどうかまでは、責任もてません。」
「それはそうですよね。」
「その辺は、攻略ギルド側にも納得させてますんで、問題はないです。」
「今日は、時間もあまりないので、明日からビシビシ行っていいですか?」
「是非、よろしくお願いします。師匠っ!」
「師匠って、なんかこそばゆいです・・・。」
「先生の方がよろしいでしょうか?」
「じゃあ・・・師匠で。」
先生も、師匠も嫌と言えば、仙人になりそうだったので、タイマーは、師匠で妥協した。タイマーさんと呼んで貰えれば一番いいのだが・・・。
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