第81話 サイド:虫の洞窟
後日、ネットにソロ逃げの方法がアップされていた。
確率は100%では、無いものの、ソロで抜けれることは確からしい。
が、サトシにとっては、逃げても意味がない。
陰鬱な森で、何度も死ぬうちに、16種類の虫を確認した。
ネットを見ても、16種類がアップされてるので、恐らく、間違いはないだろう。
何にせよ、入口付近の弱そうな奴さえ、気絶させる事が出来ず、種類が判明しても、何の解決にもならない。
16種類の虫は、全て蜂系である。
中でも、陰鬱な森を死の森と言わしめてるのが、スタースズメ、マスタースズメ、ブラックスズメの3種類。
とにかく速さが半端なく、多くのプレイヤーを死に追いやっていた。
「まずは、マ~ヤンからだよな。」
マ~ヤンは、陰鬱な森の中では、一番遅い虫である。
しかし、蜂系の一種なので、侮ってると刺されてダメージ+痺れ状態を食らってしまう。
痺れ状態で、他の蜂系の毒を食らうと、相乗効果であっさり死んでしまう。
陰鬱な森を何度もデストライしていれば、マ~ヤン位は、倒せるようになってくるのだが、サトシの場合は、倒しても意味はない。
「弱点はわかってるんだけどなあ・・・。」
VFGXのゲームの中では、虫系の弱点は、殆どが単眼の位置になっている。
他の部分でも、気絶させる事は出来るが、単眼を狙うのが手っ取り早い。
蜂系の単眼は、人間の眉間の位置にある。
大きな目のようなものは、複眼であり、複眼の真ん中、つまり人間の眉間の位置に、単眼は3つある。
マ~ヤンは、蜂系モンスターの中でも小さく、人間の顔くらいの大きさだ。
単眼にピンポイントでヒットさせれば、恐らく即死するだろう。
気絶させるには、細かい事を考えず、顔を殴ればいいだけなのだが。
種類の確認の為、逃げながら森の奥へ行ったこともあり、ネットの情報も確認してるので、蜂系の動きは大体わかった。
ということで、一種類ずつ攻略していこうとしているのだが、未だに顔どころか、体にもパンチはヒットしないでいる。
「うん。やっぱり素手にしなくて正解だったな。」
自分のプレイヤースキルのなさに、ナイフを選んだことが間違いで無かった事が再確認できた。
「どうかしましたか?」
陰鬱な森で、ソロプレイヤーに話しかけられた。
基本、ソロプレイヤーは、皆、逃げなので、人に話しかける余裕はない。
「いえ、マ~ヤンを気絶させようと頑張ってるんですが・・・。」
「気絶ですか?」
「え、ええ。頭を殴れば気絶すると思うんですけどね。」
「なるほど。試してみてもいいですか?」
「え、ええ。」
「そっちでエンカウントして貰えませんか?支援に入りますんで。」
一人で、シンボルに当たった場合は、敵の数は1~2匹。
通常、他人のバトルフィールドは、ゴースト扱いで、すり抜けるだけだが、支援に入った場合は、パーティに入らなくても戦闘に参加できる。
但し、何のメリットもない。
ちなみに、支援の上限はパーティーと同じで6人。
6人パーティーには、支援する事が出来ない様になっている。
【この人って、あれだよな・・・有名人の・・・。】
サトシは、言われた通り敵にエンカウントした。
2種類の敵が出てきたので、サトシは、マ~ヤンじゃあ無い方を倒そうとしたが、サトシがナイフのスキルを使う前に、2匹とも気絶した。
「本当ですね、頭を殴ると気絶しました。」
「す、すみません。このままでお願いします。」
「はい。」
サトシは、失敗しない様に採集を実行した。
旨い事、2種類が、防腐した死体になった。
この時点では、バトルフィールドは消滅しない。
防腐した死体をアイテムボックスにしまったら、消滅するようになっている。
続けざまに、サトシは標本を実行し、2種類の標本を獲得する事が出来た。
「あ、ありがとうございます。カラットさんですよね?」
「はい、そうです。」
「初めて陰鬱な森の虫が標本にする事が出来ました。」
「見た事なかったんですけど、注射とか標本とかビックリです。」
「完全にネタ職なんですけどね。何となく続けてるんですよ。」
「この森の虫系って10類以上いますよね?」
「ええ16種類います。まあ、全部標本にしようと思ったら大変ですが。」
「時間がある時なら、お手伝いしますよ?」
「え、そんな悪いですよ。ネタ職なんで、これと言ったお礼も出来ないし。」
「お礼はいいですよ。陰鬱な森の敵を全種気絶させるのが面白そうなんで。」
完全なバトルマニアである。
サトシは、カラットと名刺交換をして、この日は別れた。
「あれが、かの有名なカンピオーネさんかあ。陰鬱な森のお助けキャラとも、言われてるのは、間違いじゃなかったなあ。」
それからも、サトシは、標本作りに没頭した。
一人の時は、いつも死んでしまい、気絶させる事さえ出来なかった。
それでも、諦めず、死んでも死んでも、陰鬱な森へアタックを続けた。
ようやく敵の動きに、体が馴染んだ頃、標本は10種類に達した。
もちろん、全てカラットが気絶させた物だったが。
「サトシさんも、ソロで森を抜けれるんじゃないですか?」
カラットが聞いた。
「そうだね。100%って訳じゃないけど抜けれるよ。でも先にある閉ざされた門は、まだ開かないんでしょ?」
「ですね。次のVUで、実装されるみたいです。」
この時の彼らは、知らなった。
実装されても閉ざされたままだとは・・・。
「そういや、森の中にも封印された洞窟があるみたいだね。」
「ええ、もう皆諦めてますよ。ヒントも何もありませんし。」
「正直、ここの運営は、不親切が売りだからね。」
運営側は、もっとユーザーに親切であるべきと思ってるのだが、
開発が暴走し続けてるなんて、ユーザーにはわからない事だった。
「カラットさん、いつもいつも手伝ってくれて申し訳ない。」
「好きでやってますから、気にしないでください。」
「俺、未だにマ~ヤンすら、気絶させれなくて・・・。」
「自分は、魔拳士ですから、殴るのは得意なんで。」
結局15種類の標本が集まっても、サトシは、一度も気絶させる事が出来なかった。
「しかし、あと一種類のマスタースズメ、中々出ませんね?」
「出て欲しくない時は、簡単に出るのにね・・・。」
サトシは、ボヤいた。
今現在、陰鬱な森で、マスタースズメに出会いたいなんて物好きは、他には居ないだろう。
この後、マスタースズメに出会うまで、3日掛かったが、なんとか標本にする事が出来た。
そして、ゲーム内にアナウンスが流れた。
「ただいま、封印された洞窟の解放条件が達成されました。鍵穴が設置されましたので、16種類のカギをお持ちの方は、鍵穴に設置してください。16種類揃いますと、封印された洞窟が解放されます。」
「カラットさん。鍵ってこれかな?」
「多分そうですね。」
「意味があってよかったよ。俺、カラットさんに何のお返しも出来ないと思ってたんだけど、16種類の標本全部貰ってくれる?」
「それなら、パーティー組んで一緒に行きましょう。」
「わかった。」
二人は、パーティーを組んで、封印された洞窟へ向かった。
洞窟の前には、物凄い人だかりが出来ていた。
標本を16個並べるような台が設置されていた。
人だかりは、それから3m位の間をあけて、台を見つめていた。
「誰だ、鍵もってんの?」
「野次馬だけじゃねえかよ。」
「鍵ってなんなん?」
「あの台に、鍵穴なんてねえじゃん。」
「勇者はいつ現れるんだ。」
「俺、@20分しかないんだが・・・。」
「俺なんか10分しか・・・。」
「めっちゃ行きずらいよね?」
サトシはパーティートークで、カラットに言った。
「気にせず行きましょう。」
カラットはそう言って、台の前に進んで行った。
「おいっ、あれカンピオーネじゃっ!」
「やっぱ勇者は、あいつかっ・・・。」
「後ろの人誰よ?」
「さあ?」
「サトシさん、番号が書いてますよ?」
「本当だ。そういや標本の説明に番号があったんで、何かなとおもってたんだけど。」
「じゃあ番号通りに並べましょう。」
二人は、手分けして、番号通りに標本を並べ始めた。
「あれが鍵?」
「てか、あれ何なん?」
「箱?」
「見たことねえよ・・・。」
「カンピオーネは、どっから持ってきたんだ・・・。」
「さあ?」
16個並べ終わると、洞窟が輝きだした。
「陰鬱な森に存在せし16体の生贄をささげし者たちに、虫の探究者の称号を与えよう。今、虫の洞窟がここに解放されたっ!」
洞窟から、何か声が聞こえて来て、光が弾けた。
「「「おおおーっ、解放されたっ!!!」」」
野次馬が、一斉に叫んだ。
さすがに、残り時間が少ない輩ばかりなのか、誰も洞窟に入ろうとはしなかった。
「カラットさん称号貰えた?」
「貰えました。サトシさんは?」
「俺も貰えたよ。しかし、称号だけとは申し訳ない。」
サトシは、長い間手伝ってもらったのに、申し訳なく思った。
「いえ、凄く面白かったです。虫の洞窟も解放されましたしね。」
「そう言って貰えると、助かるよ。」
「レベル解放とか、困ったことあったら、いつでも呼んでくださいね。」
「是非、お願いします。」
サトシは、心から、カラットに感謝した。
「すみません。ちょっといいですか?」
野次馬の中から、一人、サトシたちに話しかけてきた。
「なんでしょう?」
サトシが応対した。
「この標本みたいなのって、なんですかね?」
「えっと、標本です。」
「・・・。生産か何かですか?」
「いえ、標本ってスキルがありまして。」
「そんな、スキルが?ネットでも見た事ありませんが?」
「採集ってスキルを上げていくと、出てくるんですよ。」
「採集?生産ですか?」
「いえ、探検家のスキルです。」
「あのネタ職の?」
「ええ・・・。」
「カラットさんは、魔拳士というのは知ってます。という事は、あなたが探検家ですか?」
「はい。」
「私、家具職人のミーヤといいます。もしよかったら、標本を一つ売って頂けないでしょうか?」
「ひょ、標本をですか?」
今までは、全くのネタスキルで、標本は、倉庫にしまってるだけだった。
NPC売りは100ゴールドと、まったく苦労に見合わない値段となっている。
「出来れば、見栄えがいいのを。蝶とか綺麗なのがいいです。」
「レインボーアゲハなら、今ありますよ。」
そう言って、アイテムボックスから取り出し、ミーヤに見せた。
「おおおおおおっー。美しいです。お幾らでしょう?」
「売ったことないんで値段が・・・。」
煙玉が200ゴールドかかってるんで、サトシとしては数千ゴールド貰えればいいかなと考えていたが。
「今は、手持ちに4万しかありませんので、後日で宜しいでしょうか?」
「はっ?いやいや、4万あれば十分ですよ?」
「いえ、そう言う訳にはいきません。ちなみに私が、今考えてるのは、家具に標本を埋め込もうと思ってます。レインボーアゲハを埋め込んだテーブルなら、4、50万で簡単に売れますよ?」
「!!!!!」
ビックリ仰天の話だった。
「家具ってギルドルームにしか置けないんで、それ位は普通ですよ?」
隣で聞いていたカラットが言った。
「俺、ギルドに入ってないから、そういう情報は知らなくて・・・。」
「私も今後、末永く取引して頂きたいと思い、適正な価格で買いたいと思ってます。」
「そ、そうですか。では、レインボーアゲハの金は、全額カラットさんに渡して貰えますか?」
「自分はいいですよ?」
「いや、これ位はさせて貰いたい。」
遠慮するカラットに、サトシは、念を押した。
「今後も、色々助けてもらいたいと思うし、これ位しないと、次が頼みにくいんだよ。」
「それなら、しょうがないですね。」
カラットは折れた。
後日、カラットはミーヤから20万ゴールドを受け取った。
サトシは、ミーヤと名刺交換し、取引を始める事になった。
まさか、標本が金になるなんて思いもしなかったサトシだった。
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