第79話 入会希望者

「それでは、当初の本題に入らせて頂きます。新規入会希望者が、居ますので、いつものように投票によって、可否を決めたいと思います。」


サポート協議会の加入条件は、副GMと女性である事。

あとは、挙手による投票で2/3の賛成者が居れば無事、入会となる。

今迄から言っても、入会できなかった前例はない。


「入会希望者に、ワンデーゲストキーを渡していますので、今から皆さんの前で、挨拶をして頂きます。質問がある方は、挙手をして、質問してください。」


ターヤの説明が終わると、一人の女性が、会議ルームに入ってきた。


「皆さん初めまして、ギルド「バラサン」の副GMのローラです。」


彼女が登場した瞬間、多くの者がその美しさに心を奪われた。

ある者は、憧れ、ある者は嫉妬し、ある者は、呆然とした。

ローラの軽い挨拶が終わると、会議ルームはざわついた。


「なんで、今更?」


「今頃になって?」


「お静かに、質問がある方は挙手をしてどうぞ。」


ターヤが、言った。

一人が挙手をして聞いた。


「VFGX最大のギルドのローラさんが、何故に今更、入会を希望したいのか教えてください。」


現在、バラサンのギルメンは、上限マックスの250名。

更に50名以上の入隊希望者が居るという。

閉ざされた門が開けば、ギルドの上限人数が上がるという噂がある。

その噂を信じて、50名以上は、待ち続けているのだが。


「ごもっともな意見かと。私たちが思うに、閉ざされた門が解放されるのは遠くないと考えております。」


「「「なっ。」」」


「そんな情報あった?」


「初耳・・・。」


会場がざわついても、ターヤは静めようとしなかった。

ターヤ自身も驚いていたからだ。


「先日、釣りにおいて、あと1種を除いて、99匹以上の達成者が出ました。」


VFGXは、魚を釣ると何匹釣ったかカウントされる。

今の所、上限はわかってないが、4ケタ以上は確認されている。

その魚リストだが、99匹釣ると星がつくようになっている。

前から、全種99匹釣ったら、何かがあるとは言われていたが、層の存在が知られておらず、海の1、2、3層(川でいう4,5,6層)の魚が、殆ど釣れないので、半分諦めていたのだ。

一人が挙手をした。


「釣りが閉ざされた門に関係すると?」


「私どもはそう思ってます。」


「馬鹿らしい。そんな事がありえますか?」


ベルラインが挙手をした。


「ありえなくはない。虫の洞窟もあったしな。」


ベルラインの言葉に、全員が虫の洞窟を思い出した。


陰鬱な森の中に、封印された洞窟があった。

当初は、皆が競って、封印を解くのにやっきになっていたが、検討がまったくつかず、早々に諦めてしまった。

たまたま、虫好きの人間が、陰鬱な森の虫を全部標本にした時に封印された洞窟が、解放された。

以来、彼はインセクトドクター(ID)と呼ばれるようになったのだが。


「確かに、現在達成して無いような事は、釣りぐらいですが・・・。」


「まったく無関係というわけではないかもしれん。で、@1種は、いつ頃、99匹達成できそうなんだ?」

ベルラインが聞いた。


「それが一番の問題です。@1種は、シマアジなんですが、彼も苦戦してるようです。」


「仙人をもってしても、シマアジは厳しいんだ。」

誰かが挙手もせずポツリと言った。


「あの人は、とっくにシマアジは99匹達成してますよ。」


「あの人ねえ。」

パルコが、冷やかすように言った。


「ならば、仙人に達成して貰ったらどうなんです?」

ターヤが聞いた。


「それが、最近、鯉の記録更新に夢中なようで・・・。」


「何やってんだか・・・。」

パルコが呆れて言った。


「そのシマアジというのは、難しいんですか?」

別の一人が聞いた。


「そうですね。一番難しいと思います。」


「それでは、達成はいつになるかわからないな・・・。」

ベルラインが言った。


「彼も動くみたいです。仙人に接触するような事を聞いてます。」


「ちなみにその人は、バラサンの人なの?」

誰かが聞いた。


「いえ、ギルド「ツレルン」のGMです。」


黒い炎に身を焦がし、心の中で何度も、ギルバルトの名前を復唱してたルビアがここで、ようやく挙手をした。


「閉ざされた門の事はわかりました。それでローラさんが入会したいという理由を教えて頂きたい。」


「門が開いた場合、私どものギルドだけでは、門まで行く事は到底不可能です。」


「陰鬱な森を抜けるサポートが欲しいという事ですね?」


「そうです。最近は、女性の方々から、当ギルドは、あまり良く思われていない節があるようで。」


「堅松樹事件あったしね・・・。」

誰かがボソッと言った。


「それだけならいいのですが、攻略ギルドの方々からも、あまり良く思われてないらしく。」


「それは仕方ありません。あなたが持ってるロッドは異常ですので。」

ルビアが言った。


「R6の武器すら、殆ど無いというのに、たかが釣竿になんて。」

誰かが嫌味で言った。


「まったくないと言う訳でもないでしょ?パルコさんは持ってらっしゃるようですし。」


「うっ・・・。」


ローラから、突っ込まれるとは思いもしてなかったパルコは絶句した。

しかし、この会議ルームに、かの狂乱に文句を言えるものは一人も居なかった。


「ライトカーボンメタルを掘るには、護衛が必要になってくる。その護衛を一人で受けてるのが、カラットだ。同じギルドのパルちゃんが、ライトカーボンメタルを回してもらっても、何の問題もないだろう。」


ベルラインが釈明した。


「私も鋼の翼のタイマーさんから、頂いたものですので。」


「まあ、いずれにしても、うちの馬鹿共(ギルメン)は、何があろうとバラサンに協力するだろうがな。」

ベルラインが言った。


「うちの男どもも・・・。」


「間違いないでしょうね・・・。」

ギルメンに男がいるギルドの人間は、皆、同じ意見だった。


「これ以上、変な軋轢をうみたくないと思ってます。」


「他に質問がある方はいらっしゃいますか?」


ターヤが、全員に確認した。

誰も、質問が無く。


「それでは、ローラさんの入会に参加の方は挙手をお願いします。」


満場一致で、ローラの入会が決定した。

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