第56話 交渉?

時野が千勢の道場を訪れると、道場内では、テーブルマナーについての講義が行われていた。

20時という事もあって、生徒は大人の女性ばかりだった。


「随分と変わった講義ですね?」

時野が講師である千勢に声を掛けた。


「あら、時野さんいらっしゃい。」


「良かったら、案内係役しましょうか?」


「お願いできるかしら?」


「喜んで。」


【こないだゲームでもやったよな俺】


そう思いながら、無事案内係役を務め果たした。


「時野さん、案内係のお仕事向いてるんじゃない?」

講義が終わった後、千勢に言われた。


「そうですか?他に職が見つからなかったら考えてみます。」

そう言って時野は、笑った。


「今日は、私に用かしから?」


「ええ、千勢さんと、後は千鶴ちゃんに。」


「あら、また千鶴にデートのお誘いかしら?」


「いえ、デートじゃなく飲み会?みたいな。」


「あらあら。さすがに時野さん。攻勢が半端ないこと。」


「・・・。」


「千鶴は、ここには住んでないけど、約束はしてるの?」


「ええ。」


「そう、じゃあお茶でもいかがかしら?」


「頂きます。」


千勢は道場と家がひっついた大きな家に住んでいた。

息子夫婦とは暮さず一人きりで。


「千勢さんは、お一人なんですね。」


「主人が亡くなってからは、ずっと一人よ。今更、息子の世話になんかなれますか。」


「お嫁さんと仲が悪いとか?」


「そんな事はないわ。いいお嫁さんよ。私の元教え子だしね。実の娘なんかよりよっぽどいいわ。」


「娘さんも居るんですか?」


「直樹の姉がね。結婚してからは、旦那の転勤であちこち飛び回ってたから、今は何処へいるのかも知らないわ。」


「それはまた・・・。」


「まあ孫の方は細目に連絡くれるから、それだけで十分だけどね。」


「何よりですね。」


「まったく。」

二人は、お茶をすすった。


「さっきの礼儀作法の教室なんですけど、ああいうテーブルマナーもやったりするんですか?」


「ああ、あれは生徒さんで、デートに行くらしくてね。要望があったのよ。」


「生徒さんたちはOLさんですか?」


「そうね、夜の時間は、OLさんが多いわね。」


「子供さんとかは?」


「うちは、本人が嫌がる人は断ってるの。親御さんで躾けて欲しいってのが、多いんだけどね。本人にやる気が無い人は、お断りね。」


「義務教育じゃあないし、当然ですね。」


「ええ。」


「おばあ様、いらっしゃいますか?」


「居間にいますよ。」


千鶴が、居間に入ってきた。


「こんばんわ、時野さん。」


「千鶴ちゃん、こんばんわ。」


「オフ会の件なんですが、カンピオーネも来るんですよね?」


「もちろん来るよ?」


「うーん・・・。」


「カンピオーネさんっていうのは?」

千勢が聞いてきた。


「千鶴ちゃんが負けた相手ですよ。」


「あら、千鶴、いいんじゃないの?彼を知り己を知れば 百戦殆うからずですよ?」


「飲み会ですよ?役に立ちますか?」

千鶴が千勢に聞いた。


「普段の佇まいというのも、知ってれば何かしらの役に立つことがあるものよ。」


「ちなみに千鶴ちゃん、場所はイタリアンで、参加費は俺の奢り。」


「参加しますっ!」

即答だった。


「時野さん、私に用事ってのは?」


「実はですね、VFGXの会社に一度一緒に行って貰いたいと思いまして。」


「私に?」


「はい。」


「むっ、時野さんは、運営の回し者だったんですかっ?」

千鶴が睨みながら言ってきた。


「いやいや、全然違うから・・・。釣りやり過ぎて呼び出し食らって、定期的に脳波測定してるだけだよ。」


「さ、さすが釣り仙人ですね・・・。」

千鶴は呆れてしまった。


「あれからゲームやってみました?」


「キャラクターってのを作ったくらいかしら。後は色々マナーが多くて勉強中ですよ。」


「マナーですか?そこまで難しくありませんよ?」


「マナーは大事ですっ!」

変な所で頭が固い千鶴だった。


「じゃあ今度、自分がエスコートしますよ。」


「お願いしようかしら?」


「時野さん、Lvいくつですか?」


「1だよ?俺、戦闘したことないし・・・。」


「おばあ様に釣りでも教える気ですかっ!」


「最初の町は、案内出来るかなと。千鶴ちゃんだとそういう案内もせずに、即、対戦って感じじゃない?」


「うっ・・・。」

図星だった。


「それで千勢さん、会社の方は、そんなに大したことじゃないです。質問があって、それに答えるだけです。」


「そうねえ、時野さんも一緒だし、一度お伺いしてもいいわ。」


「帰りに、美味しいケーキをご馳走しますよ。」


「それは楽しみね。」


「う・・・。」

羨ましいと思った千鶴。


「千鶴ちゃんは、イタリアンが待ってるよ。」


「そうでしたっ!イッタリアン~♪」


こうして、千鶴はオフ会へ、千勢は来月の報告日に同行する事になった。

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