第32話 ゲーム過去編「ビショップ」

男はゲームを始める前から名前を決めていた。

ビショップと。

さっそくクレリック見習いで始めたものの、今までのゲームとは

勝手が違い、無理ゲーとしか思えない。

本体とソフトで、20万(税抜き)もする高額なゲーム。

そもそもソフト代が8万(税抜き)もするのに、そこから更に

月額課金なんて詐欺だろっと思いたいくらいでは、あったが・・・。

小遣いを必死に貯めて買ったゲームなので、簡単に辞めるわけにはいかない。

他のゲームをやるにしろ8万なんて、おいそれと出せない。

しかし、つけた名前が名前なので、ジョブチェンジするには、やはり、

キャラを一新した方がいいのだが・・・。

このVFGXは、非常にキャラクターを作るのに時間が掛かる。

VR機全般に言える事ではあるが、どのゲームも半日仕事になる。


「僧侶って、やっちゃったね。」

「名前から失敗しちゃったね。」

サービスが開始されてからは、日数が経っているため、初心者には、

昔ほどの風当たりの強さはない。

やっちゃった感満載ながらも、とりあえず初心者用の野良PT募集にのって、

少しずつレベル上げをしていた。

そんな時、初心者支援していた「森の住人」のGMウィリアムと野良PTを

組むことになった。

「僧侶難しくないですか?」

「凄く大変で、勝手も違うし戸惑ってます。」

「よかったら、僧侶のギルドを紹介しましょうか?」

「そんなギルドがあるんですか?」

「ええ。」

「色々聞いてみたいこともあるんで、お願いします。」

ビショップは、眠れぬ教会を紹介して貰うことになった。


「私が眠れぬ教会のGM サーラントと言います。」

「初めまして、ビショップと言います。」

「初心者の方ですか?」

「ええ、ジョブチェンジしようにも名前が・・・。」

「確かに。そうだっ。今から冒険に行きますが、一緒に行かれますか?」

「足でまといになりませんかね?」

「大丈夫ですよ。今日は大した冒険ではないので。」

「じゃあ、是非お願いします。」

こうして、ビショップはサーラントと共に冒険することになった。


「新人か?」

ベルラインが聞いた。

「ええ、ビショップさんです。」

「男性とは珍しいな?」

「も、もしかして焼きもちですの?」

「貴様は何を言っている・・・。」


「女性ばかりのギルドで大変だと思うが、頑張って。」

シンゲンがビショップに言った。

「え・・・。男は居ないんですか?」

「うむ。」

シンゲンが頷いた。

リア充死ね連中であれば、ハーレムだヒャッハーっと喜びそうだが、

ビショップは妻帯者だった。

【嫁にバレたら、殺される・・・。】

しかも、恐妻家。

幸いなことに、嫁はゲームに興味がない。


その日の冒険はシンプルだった。

壁役は、いつものごとくベルラインが。

敵のターゲットを取り、ジッと耐える。

サーラントが補助魔法と回復を絶妙なタイミングで掛けて、

アタッカー役のシンゲンが敵を一体ずつやっつけていく。

3人とも野良では見たことないような、凄さだった。

中でも、ベルラインは、女性キャラであるのに、より男らしく、

サーラントは美しかった。

それは、見た目の美しさではなく、無駄のない回復と補助魔法の

美しさだ。

このゲームは、回復は他職でも出来るし、ポーションがある。

野良では回復が被るなんてのは日常茶飯事で、下手したら、

僧侶の出番はない場合が多い。

スキルスロットの関係から、魔法を入れても1つか2つ。

しかも魔法使いのようにスキルが100には、ならず、60まで。

スキル60にするには、スキルポイントを60振らなければならず、

最初から魔法にそれだけのポイントを振ることは不可能だった。


「サーラントさんは、回復と補助だけですか?」

「そうですの。」

「ふむ。」

ビショップは、回復には自信があった。

以前のゲームでは、四ツ目とか言われたりしてた。

四ツ目とは、四つ目があるという意味で、僧侶にとっては褒め言葉だった。

が、このゲームは、回復のターゲットも自分でとるし、

呪文も自分で発動しなければならない。他のゲームのようにコマンドを

選ぶものではなかった。

初日から、目を回し、何をしていいか、わからない状態だった。


「当ギルドは、僧侶の派遣を目的としてますの。

 男性の方に居て頂ければ、心強いですの。」

「そう言っていただけると・・・。

 もう少し、僧侶頑張ってみます。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

そう言って、サーラントはニッコリと笑い、手を出した。

ビショップはヘラ顔で、握手した。


最後に解散する前に、ベルラインがビショップを呼び止めた。

「一つだけ忠告しておいてやろう。」

「はい?」

「先ほどのようなヘラ顔は、教会内ではしない事だな。」

「どうなります?」

「全員が敵となるだろうな。」

「ど、どういうことですか?」

「眠れぬ教会は、サーラントのファンクラブだと思えばいい。」

正確にはベルサラなのだが、ベルラインは、そこはスルーした。

「き、肝に銘じておきます。」


ベルラインから忠告を貰ったビショップは、それからギルド内で注意深く

行動した。

そして、ベルラインの言ったことが真実であることが確認できた。

で、女性ばかりのギルドルームでは、もちろん男性の居場所などなかった。

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