第16話 ゲーム過去編「謝罪」
「誠に申し訳ありません。」
男は土下座した。
【焼き土下座】や【倍返し土下座】の土下座俳優に劣らぬ素晴らしい土下座だった。
ここは、「眠れぬ教会」のギルドルーム。
サーラントをはじめ、ギルドルーム内にいる全員がドン引きした。
「あ、あのう、何のことでしょう?」
サーラントは困って話しかけた。
正式サービスが始まって、半年、教会も軌道に乗り始め、
今日は、ギルド「森の住人」との最初の顔合わせの日だった。
本来なら、「森の住人」のGMが来る所だが、男はGMでは無かった。
「今後、うちのギルドと教会さんが上手くやっていけるように、私個人が謝罪に参りました。」
「顔をあげてもらえませんか?」
男は、少し顔をあげて、理由を話した。
「実は私は、β時代にサーラントさんに「使えない」と暴言を吐いたものです。」
教会内のメンバーがざわつく。
眠れぬ教会のメンバーは、一度は必ず言われてる言葉だったから。
「そうでしたか、僧侶であれば一度や二度は言われることですし、β時代は、私も数えきれないくらい言われてて、誰に言われたかなんて覚えてません。だから、お気にせずに・・・。」
「いえ、そういうわけには、うちのギルドには、β時代の私のように偏見を持った人間は居りません。もし許して頂けるなら、私がギルドを辞めて、森の住人との取引をお願いしたい所存であります。」
取引とは、教会からの僧侶の派遣である。
僧侶は、冒険にお金がかかる。
MPの回復薬にほとんど費やさないといけない。
派遣された僧侶は、派遣費用からMP回復代を差し引いて残りは教会へ寄付する。
教会で貯まったお金は、新人育成のために使われるようになっている。
「それには、およびません。ぜひこのままGMさんを呼んで頂けますか?」
「わかりました。」
男は個人トークでGMを呼んだ。
「この度は、我がギルドのロッテルダムが大変失礼いたしました。私が「森の住人」のGM、ウィリアムです。」
土下座人間が二人になった。
「・・・。二人とも顔をあげてもらえませんか?」
土下座したまま、少しだけ顔をあげた。
「当ギルド、「眠れぬ教会」は、分け隔てなく僧侶を派遣したいと思ってます。中には僧侶を快く思ってない方もおりますが、必要とされる方には、出来る限りのことはしたいと思ってます。」
このゲームでは、蘇生魔法が存在しない。
簡単な回復魔法であれば、僧侶でなくても使えることができる。
それに回復薬も、あるので、僧侶が居なくても、そこそこの冒険は出来る。
正式版が開始されてから、僧侶無しパーティはザラだった。
そんな中でも、攻略ギルドと呼ばれる大手のギルドは、教会を支援した。
もちろんギルバルトやシンゲンの働きかけもあったが、それ以外の者たちも
率先して教会を支援した。
攻略ギルドの人間は、生粋のゲーマーである。
ゲーマーであれば、いずれ僧侶が必要になることは、必然だと思っているからだ。
何せ僧侶へのなり手が、圧倒的に少ないゲームだけあって、「眠れぬ教会」の存在は貴重だった。
「森の住人」のように付き合いが無かった中堅ギルドとしては、
土下座してでも、関係を結びたいと思うのは、しょうがなかった。
「どうぞ、ロッテルダムさんもギルドを辞めることがないよう。今後、両ギルドが良好な関係が保てる事を私は望みます。」
サーラントの言葉にウィリアムは感激した。
「是非、よろしくお願いします。」
二人は、顔が埋まりこむんじゃないかというくらいの土下座をした。
この瞬間、土下座俳優を超えた存在となった・・・多分。
話し合いも無事終了し、「森の住人」の二人は自らのギルドへ帰った。
ギルドルームにつくと、ウィリアムは、ロッテルダムに話した。
「聞いていた感じと全然違うが?」
「サーラントさんか?」
「ああ、あの人こそ女神様だっ!」
ウィリアムの目は、完全にハートマークになっていた。
「おかしいなあ、β時代はもっとツンケンしてたような気が・・・。」
「お前が暴言を吐くからだろっ!」
「いや、まあそうなんだけど・・・。」
「よし、決めた!ギルド内にある木材を半分教会へ寄付する。」
「俺は、反対する立場にはないが・・・。」
【全部と言わないだけマシか】
ロッテルダムは、そう思った。
「まずは、俺以外の副GM二人にも話をして、ギルメンにも説明してからにしないと。」
「それぐらいわかってる。」
それから、しばらくして、「眠れぬ教会」に新たな謝罪者が現れた。
「魔術結社ヨルムンガンド GMのミズガルドと申します。サーラントさんには、以前、大変失礼なことを言って申し訳ありませんでした。」
「ええっと・・・」
何のことかわからずサーラントは困惑した。
覚えられてないミズガルドは、少しムカついた。
「ロッテルダムも謝罪に来たと聞きましたが?」
「ロッテルダムさんとお知合いですか?」
「本当に覚えていらっしゃらないんですね・・・。」
「・・・。」
「私は、あなたに「使えない」と言ったことを忘れた日はありません。ずっと心に引っ掛かり今日まで過ごしてきたというのに。」
その言葉にカチンと来た者が居た。
「あなた何が言いたいんですか?」
副GMの一人、ルビアが、わってはいってきた。
「私は謝罪にきたのですが?」
「謝罪?うちのGMに突っかかってるようにしか見えませんが?」
「そんなつもりは、毛頭ありません。」
「そうですか?まあいいでしょう。うちのGMも覚えてないと言ってます。謝罪は不要ですので、どうぞお帰りください。」
「ちょ、ちょっとルビアさん、どうしたんですか?」
普段と違って、強い口調のルビアに、サーラントはびっくりした。
「どうやらお気に障ったようですね。私も感情的になりすぎました。大変申し訳ありません。」
そういって、ミズガルドは深々と礼をした。
サーラントに向けて一度、そして、ギルメン全員に向けてもう一度。
「こちらこそ申し訳ありません。ルビアさんも、普段は温厚な人なんですが。」
「いえ、それは、お互い主義が違いますので、しょうがないのですよ。」
「主義ですか?」
ミズガルドの言葉に、サーラントは首を傾げた。
「私は、ベルファンですし、そちらのルビアさんは、ベルサラでしょ。お互い感情的になるのは、しかたありません。」
「???」
サーラントには、まったく意味がわからなかった。
「私も感情的になりすぎました。申し訳ありません。」
ルビアも素直に謝った。
「こんな事になった後で、申し上げにくいのですが、当ギルドとも取引をお願いしたいのですが?」
「ご存じとは思いますが、当ギルドは、全員がベルサラの者です。ヨルムンガンドさんは、魔女の集いとも呼ばれてて、全員が女性で全員がベルファンだと聞いておりますが?」
ルビアが言った。
「全員が女性ということは、間違いありませんが、全員がベルファンでは、ありません。」
「まさか、ベルサラの人間も居ると?」
「ええ。個人の主義にまで、ギルドが口を出すつもりはありません。ギルド内でも揉め事が無いようにしておりますので、教会の方と揉めるような事にはならないかと。」
「そうあって欲しいとは思いますが?」
「私の事ですか?私は、サーラさんに覚えられてなかったので、拗ねてしまいました。GMとしては、まだまだ未熟な上、今後はこのような事がないように気を付けたいと思います。」
「いえ、こちらこそ、覚えておらず申し訳ありません。しかし、ミズガルドさんとルビアさんの話が私には、まったくわからないのですが・・・。」
「「どうぞ、サーラさんはお気にならさらずに」」
ヨルムンガンドとの話し合いも無事終了し、教会は、新たな取引先を得た。
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