第10話 とある病人の憧恋歌

当時の私は、病気と手術を前にして苛立っていてあの人に酷い言葉を投げつけてしまった。


「私、あなたの事が大嫌いですの!」



私は、高校に入学して直ぐ、病気を患った。

病名は、ウィルス性肝機能欠乏症。

全身の気だるさから、何もする気が起きず、筋力も衰えていった。

長期入院が必要になり、入院する前に両親達の会話を聞いてしまった。


「お願いします。先生、なんとかなりませんか?」

父がすがるような声で電話をしていた。


「あなた、どうでした?」

電話が終わった父に母が話しかけた。


「駄目だそうだ。」


「そんなっ、あの娘は、これからじゃないですか。」


「先生がどうしようもない、諦めてくれと。」


「うううう。」

母親が泣き崩れた。

私は、たいして衝撃は受けなかった。

この気だるさと、筋力の急激な衰えは、ただ事ではないのは、自分が一番わかっていたから。


入院して暫くして、肝臓の一部切除の手術説明を受けた。

主治医は循環器内科の先生だが、手術は外科の先生が行うという。

若くて綺麗な女の先生だった。


「こちらの先生はね。丁寧で傷が少ない事で有名なんだよ。」


「よろしくね。」

主治医にそう説明を受けた。

寝たきりで、動く事も億劫な私は、傷が残ろうが関係無いと思った。

死んだら関係無いでしょ?と。




「随分気落ちしてるようですね。あれでは手術できませんよ?」

外科の女医が主治医に話した。


「入院してからずっと塞ぎ込んでるんですよ。」


「病気からですか?」


「いえ、そこまでの難病じゃあ、ないんですが・・。」


「心療内科の先生に見て貰っては?」


「そうですね、体力だけでも回復してもらわないと手術できませんし。」


「私も、たまには顔を出します。」


「申し訳ありません。外科の先生にお手を煩わせて。」


「いえ、女同士の方が話しやすい事もあるかもですし。」




手術の日程が中々決まらない。

まあ私としては、どうでもいい。

最近、心療内科の先生と外科の先生が、直直、顔を出すようになった。

どちらかというと女の外科の先生の方が話しやすかった。

ある日、小さくておどおどしたような心療内科の先生が、ゲームを奨めてきた。

筋力の衰えもあり、何事にも億劫な私にゲームを奨めるなんて、見た目通り駄目な先生だ。


そう思っていたんだけど、結局、私はゲームをやってみる事になった。

VR機といって、手足を動かさなくていいゲームらしい。


私は、ゲームの世界の中に入り驚いた。

筋力の衰えで動くのも億劫な私が、ゲームの中では普通に動けるのだ。

しかも、モンスターとかを倒したり出来る。

現実で、こんなモンスターとか出たら、直ぐ殺されちゃいそうだけど。


それから、野良PTというのを組んで冒険をするようになった。

毎回、違う人間とPTを組んだりするのだが、所謂、外れというものが多々あった。

私がいくら、回復や補助をしても、簡単に前衛が沈んでしまう。

しかも辛うじて生き残った弓使いや魔法使いが、私の事を「使えない」とまで罵る事があった。


「蘇生使えない僧侶なんて意味無いよね。」


そういう輩もいた。

は?何、蘇生って。生きたくても生きれない人間が居るなんてコイツらには、

わからないんでしょう。


それから私は、極力会話をするのを辞めた。


そんなある日、もの凄くバランスの悪いPTで冒険する事になった。

前衛二人、これはむしろ贅沢といえる。

近接戦闘三人・・・。

始めてなんですけど、こんなの。

しかも、戦闘になると、めちゃくちゃだった。

特に近接の二人は一切言う事を聞かない。

狂ったように攻撃を繰り返す双剣。

でも、たまに盾の後ろに回避するので、その時に回復や補助が出来たが、もう一人は、完全にお手上げ。

何、あの人・・・、延々と攻撃してる・・・。


そんな、はちゃめちゃなPTが、なんとかなったのは、盾二人のお陰だ。

敵の攻撃にじっと耐える盾の人の後ろ姿は格好よかった。


「よかったら、名刺交換しないか?」

最後に、そう声を掛けられた。


「話掛けないで下さい。」

私は、そう答えた。

このゲームは、まだβ版で正式サービスは始まっていなかったし、サービスが始まる頃に、私は・・・。


暫くして、野良PTを探してた私は、声を掛けられた。

振り向いてみると、あの5人が居た。


「よかったら、一緒にどうだ?」


このPTに居ると、とくかく忙しかった。

約1名は、無視しといていいので、辛うじて私は自分の仕事を全うする事が出来た。

そんな、はちゃめちゃな冒険中も、あの人の背中は頼もしかった。

名刺交換はしないと決めていたが、この5人とだけは名刺交換をした。

それでも戦闘後の話とかには、一切参加しなかった。


いよいよβテストも終わりが近づいた。

最後にドラゴンを倒そうと言う事になり、作戦会議が行われた。

さすがに参加しないとまずいかなと思い参加したのだが、

魔拳士のカラットさんは居なかった。

スーパー自己中らしい・・・。


ドラゴンの予測される行動や、各自の行動すべきこと等、事細かに打ち合わせが行われた。

双剣のパルさんが、大人しく聞いているのが不気味だった。

この人は、剣を抜くと人格が変わっちゃうのだ。

正直怖い・・・。


一通りの説明が終わったが、私には特質すべき点は無かった。

まだ会議は続きそうだったが、

「私のやる事は変わりませんね。それじゃあ失礼します。」

そうして帰ろうとすると。


「待て。」

いつもとは違う人が私を止めた。


「貴様はいつもと変わらないと言うが、ドラゴンの特性によっては、補助魔法は変わるのではないか?」


「特性?所詮火を吐くトカゲでしょ?」


「ギルバルド、今回のドラゴンは火だけか?」


「全方位の火を吐くと聞いている。」


「ほら、みなさい。その辺は心得てますので、ご心配なく。」


「テイルアタックがあると聞いたが?」


「あ、ああ、そういや尻尾に毒があるとか・・・。」


「それを先に言え!この屑がっ!!」


「・・・。」


「貴様の状態異常治癒に毒は無かったと思うが?」



「そんなに沢山のスキルがとれるわけないでしょ。」


「ならば、毒消しの準備が必要になってくる。会議は終わってない。さっさと座れっ!」


「お断りします。」


「貴様、PTを全滅させる気か?」


「私がやるべき事は、きっちりとこなしてみますわ。」


「自信過剰も度を過ぎると困りものだな。」


「私、あなたの事が大嫌いですの!」


「そうか。ならば私には回復も補助魔法もかけない事だな。無様に死ぬ姿を後ろから眺めていればいい。」


「馬鹿にしないでくださるっ!!私が僧侶で参加する限り、死者は出させませんわっ!」


「それは、頼もしいことだな。」


最後の戦いも無事に終わり、ついに私の手術の日程が決定した。



「というような日程になります。」

主治医が日程の説明をした。

今日は日程説明と言う事で外科の先生も居ない。

私と両親と主治医だけだ。


「先生、手術して私は何年生きられるんですか?」


「へ?」

困ったような顔をする先生。


「いや、何年って言われても・・・。」

答えようがないらしい。


「この手術って延命手術ですよね?」

私は、ズバリ聞いてみた。


「もちろん。」


「・・・」

あれ?


「手術っていうのはね。延命するために行われるんだよ。」

拡大解釈されたらしい。


「私、聞いたんです。父と先生の電話を。」


「へ?」

主治医はとぼけたような顔をした。


「電話・・・私と沙羅ちゃんのお父さんが?」


「何を言ってるんだ?沙羅?」

父まで聞いてきた。

これだから大人は・・・。


「もうどうしようもない。諦めてくれって電話してたでしょ。」

私はズバっと言ってやった。


「私がか?」

父はあくまでとぼけるつもりらしい。


「あなた、学校の先生とのでは?」


「あ、ああ、あれか・・・」

なんだか、話が変わってきた。


「沙羅には黙ってたんだが、学校へは休学届けを出した。」

父は、何を当たり前の事を?

1年以上も休むんだから、当たり前でしょ。


「なんとか、今の同級生と一緒に進級出来るように頼んでみたんだが。」


・・・。


「でも先生、私が後何年生きれるかわからないって。」


「何年と言われても・・・。事故とか違う病気で死んだりもするから、医者でも、そんな事は・・・。」

私の言い方が悪かったのだろうか?


以前、あの人に「貴様はコミ障だ。」と言われた事が・・・。


どうやら、私は、まだまだ生きれるらしい。

手術も順調に終わり、苦しい薬事療法とリハビリが始まった。


なんで、点滴が痛いのよっ!

この点滴を打つと全身がヒリヒリと痛む。

体内のウィルスを弱らせるためらしい。

リハビリも、今までベットで寝てたツケが回って、凄く厳しいものだった。

体力が全然なくて、何度もくじけそうになった。

その度に、あの人の姿が浮かんだ。


【なさけないな。貴様はその程度かっ!】


【いつも、いつも上から目線で頭にきますわっ!】

私は、そう心の中で答えて、立ち上がった。


父に頼んでゲームは続ける事になった。

正式版がスタートして、私は、恐る恐る名刺リストを開いた。

私は5人としか名刺交換をしていない。

そして、5人全員を確認した。


「よかった。」

直ぐにでも連絡を取りたかったが、当時の私はさすがにアレ過ぎた・・・。


「反省しないとですわ・・・。」

とりあえず、私は、野良PTに参加しレベルを上げる事に専念した。

このゲームは、レベルアップでのステータスアップは一切ない。

スキルポイントだけだ。

職業によっては、Lv1の人とLv50の人が戦っても大差ない場合がある。

が、私のような僧侶は、スキルポイントが無い事には、回復魔法が覚えられない。


「みんなに会うのは、ある程度スキルを覚えてからですわっ。」

でないと、あの人にも顔向けできない。


ある日、私は、ギルドが実装されるという話を聞いた。

ギルド申請には、5人の仲間が必要らしい。

あのメンバーが思い浮かばない事はなかったが、私としては、不遇な扱いを受けてる僧侶をなんとかしたいという思いの方が強かった。


落ち込んでる僧侶っぽい人をたまに見かける事がある。

私でさえ、野良PTで、


「お前のせいだ。」


「僧侶は使えない。」

だの、言われる事が多々ある。


自分から話しかけた事はないけど・・・。


「こ、こんにちわ。」


「こんにちわ・・・。」


「どうかしましたの?」


「私、僧侶の才能ないって。」


「誰がそんな酷い事を?」


「野良で・・・。」


「許せませんわ。私、僧侶のギルドを作ろうと思ってますの。」


「僧侶のですか?」


「ええ。よろしければ一緒に立ち上げてみませんか?」


「私でいいんですか?」


「もちろんですわ。」


そうして、初めてのナンパというものにも成功して、私はギルドを作る事が出来た。


「サーラさん、僧侶だけでは、レベル上げが・・・。」

ギルドのみんなの心配がそこにあった。


「心配ありませんわ。私こうみえて顔が広いんですよ。」


「さすが、サーラさん。」

みんなが安心する。


さて困った。

どうしましょ・・・。

今更メールするのも・・・。


そんな時、一番ウザイ奴からメールが。

【ギルドを立ち上げた。久々に皆で集まらないか?】


あの人も来るかしら?

こないでしょうね・・・。

恐らくカラットさんも。

まあいいわ、ウザイ奴でも壁になりますし、シンゲンさんなら力を貸してくれるでしょう。


そうして、私は、昔の仲間達との会合へと向かった。

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