第7話 消えて光るから点滅なんだ
いい加減、疲れた。
といっても、液晶の前で私が必死に検索ワードを考えて、検索結果とやらを閲覧し、ネットの海のどこかに沈んでるであろう、情報を探し出すのに疲れただけだが。
だけとはいえど、結構な重労働だった。全然知りたい内容には当たらなかったし、まさに内容が無いよう、だった。と、まあ、こんなことをちゃんと頭で考えてしまい、それをさらに脳内で発し、さらにさらに、その言葉に自らツッコむ、というまでにおかしくなりかけている、ということだ。おかしくなったとはまだ認めたくない自分がいる。おかしいのは元からかもしれないし。
液晶との、というか海との決闘、いや健闘、いや問答の結果としては、彼の、塔堂くんのつぶやきから類推してこんなところだろう。
・むかしのアスタ国である40代の男性が住居と思われる、集合住宅の窓から落ちた。
・自殺か他殺か、事故かなどは分からない。
・時刻は夜明けから早朝と言われている。
・男の名前は不明。身分は貴族というのが定説。
・場所は小さな通りと言われている。
これだけの情報しかないが、海外のこと、しかもかなり昔のことにしては、よく調べられた方だと思う。でも、あれだけの時間、夜から始めて3時間程度もして、この分量は褒められたものではない。はぁ、とスマホに向かってため息をついて、今の自分は溜め息さえスマホに吐くほどなのかと思い、まあ、両親が働いていれば仕方がないかと思いつつ、一人、夜スマホ相手に溜め息はなんかな、と思った。
二回目の溜め息のために息を吸っていると、というか吸おうとした途端、スマホに文字列が浮かんできた。
「そういえば、私の瞳は明日新月を認知することができます。」と。
掲示板の内容の更新だ。急いでアクセスすると、やはりそうだ。塔堂くんが更新したのだ。
なぜに今、このタイミングで。と思いつつも、内容からすると、あすこちらアスタ国では、新月ですということだろうか。たしかに、今じゃないと、というか、帰国してからでは意味を成さない内容だろう。しかし、そんな、同じ時間に月を見れない相手にそんなことを知らせる必要はあるのだろうか。普通はない。
そう思って、一分ぐらい、目を閉じた。が、思い出した。彼は普通なんて言う、ナンセンスな一般人の尺度では、一般人が基準となっている定規、いや物差しでは測れない。
そう思いなおして、頭をフル回転させる。回転させすぎて止まらなくなるかと思った時、あることに思い当たった。
新月は男が飛び降りたことと関係があるのではないか。むかし、アスタ国で。
「アスタ国 男 飛び降り 伝説 新月」と後ろに問題のキーワードを入れてみる。
検索結果がまばたきが終わるころには、終わっていた。いくつもヒットしている。それも見つけられなかった、細かいサイトやブログたちが。
目でそれらを追って行って、たどり着いた結論は、先ほどのものよりも格段と質が上がっていた。追加で分かったことはこんな感じか。
・男が飛び降りたということ自体は伝説、言い伝えの域を脱しないが、寓話として、アスタの人々には定着している。
・教訓といった類のものは秘められていないが、願いが叶う、というのが、目的だったのでは、とされている。その、死ぬ直前に願いが叶うことを「冥土の土産」と呼ぶ人もいる。
「冥土の土産」何とも言えない不気味さと魅力を放っている単語である。そう思った後、塔堂くんが好きそうな類のロマンチックな話だとも思った。
そして、一瞬不吉な考えが頭をよぎったが、僕は眠気に負けた。
その眠気をツイッターの通知の音が、連れ去った。
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