第4話 何が言いたいの・・・何も

 猫背の彼を見て、掲示板を思い出し、それに書き込むことに2秒後ぐらいに思い至った。なんて打とうか。今が伝わるような文章にしたいが、万が一他人が見ていたとして、掲示板から、発言者が僕、山代 かすみだとバレたくない。そう考えて、少しの間考えて、少しの間が抽象的すぎるって?じゃあ、限りなく具体的にしよう。楽しそうな女子大生二人組が、昨日のテレビ番組、なんとかナイトショーの話をして、大声でだ、通り過ぎた後に急いで走りたいのに、そんな体力を15年前に置いてきたであろうサラリーマンが、早歩きで歩いて、女子大生に阻まれているのを、横目で見たぐらいだ。その間ずっと僕は打つ文章を考えていた。結局この辺の固有名詞を入れることにした。

「アイナナ通りなうー」なんか軽い感じもするけど、哲学的なことを言ってみたりもする掲示板のいいスパイスになるだろう。それに大抵の人は「アイナナ通り」を海外だと思うだろう。まあ海外にあるのをパクった、いやオマージュしたのがこの田舎とも都会ともつかないここにあるだけなのだが。彼なら、こっちも本家も知ってるし、真意は伝わるだろう。そう思い投下した。というか掲示した?

 掲示して、また左腕の文字盤を見る。ちゃんと長針も仕事をしているようだ。掲示板を閉じて、また歩き出さなくてはならない。

 歩いていると、周りの景色や人がぼんやりと頭に入ってくる。別に頭でしっかりと咀嚼するほど、考えてもないのだが、流れて行っているわけではない。

「フィットネスクラブ シャルウィー」「黄金パスタ アウ」、おとぎ話に出て来ても違和感のないカラフルなお家。自転車で飛ばしていく三十路くらいの会社員。僕と同じくらいの年代であろう高校生の自転車二人組。キャリアウーマン初心者みたいな26歳ぐらいの女性。どの人たちも、生き急いでいる感じがする。別に急いだって、歩いたって今日は逃げないのに。なんて、またいつの間にか考えが哲学的になっていた。別に哲学が悪いわけじゃないけど、そんな生活が続くと哲学の世界にしかいられなくなる。現実は雑味だらけで到底生きていけない。目を背けたいなんてことになりかねない。

 そう思っていると、僕の前に雑味たっぷり、あるいは雑味オンリーの様相が現れた。全校生徒937人の、937は素数らしい、が高校が現れた。靴箱に三年生まで、全員が集まり、人口密度が異常だ。その異常地帯を早く抜けようとする僕の背中に、

「山代くん。おはよう。」と声が投げかけられた。

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