確信

私は今日も、


いつものように、


ピアノをひいていた。


あれから少女は、


1度も来ていない。


窓から外をのぞくと、


子供たちが遊んでいる。


ああ、


私もほんとうなら、


遊びに行くのがフツウなんだ。


そんなことを思っていた。



そのとき、


ドアがあいた。


...少女がいた。


私はうれしくてうれしくて、


破裂しそうだった。


やはり、


一緒にいてくれる人がいるのも、


楽しいと思った。


たとえ相手が人間だとしても。



私ははじめての、


この世界にきてはじめての、


心からの笑顔になった。


「たまたま通りかかったんです。


今日もピアノ、


ひいてるかなって。」


少女が遠慮がちにいった。


「そう、今からひくところだよ。」


声のはずみをおさえながら、


私は答えた。


ガタガタしているピアノの椅子に腰を下ろすと、


私は少女に聞いた。


「弾いてほしい曲ってある?


あ、でも私、(そういえばこの世界の曲、私、知らないんだった)


....知ってる曲がほとんどないんだよね。


でも何か、


メロディだけでも歌ってくれれば、


あとは私の想像でひくよ?」


少女は嬉しそうに手をたたくと、


「じゃあ、


...この出だしの曲!」


そういって口ずさみ始めた、


メロディを聞いて、


私は耳を疑った。


「ここらへんから、


ピアノでひいてもらえます?」



少女が言った。


私は、


倒れそうなくらい、


驚きで声がでなかった。


「あのぉ、


なにか、


大丈夫ですか。


あ、良かったら、


違う曲にしますね。」


「...いや、


いいのいいの。


ただ、


その曲...」


震えた声で私は言った。


「あなた、


あなたはやっぱり、


椿の家の世界にいたんだと思う。」


そう、


これで間違いはなかった。


何とも言えぬ予感は、


見事に的中した。


少女が口ずさんだのは、


パールがよく歌っていた、


椿の家の者ならだれでも知っている、


『さらしな』という歌だった。

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