ヒーロー(について)インタビュー ⑦
* * *
僕はいつも通りにバスに揺られて、基地に向かっていた。
初めてのステージショーから二週間ほどが経ち、いやな思いをしたこともあったけれど、それ以上にたくさんの大切なものを知ることができた。
僕は今まで以上に、ヒーローの活動にやりがいを感じていた。
仕事に向かうのが楽しいなんて、イバライガーに出会うまでなかったことだ。
バス停で降り、基地までの道を徒歩で向かう。
暦は梅雨明の七月。もうすっかり夏だ。
そうだ、基地に行く前にコンビニに寄っていかないと。
そう思いついて、僕は基地のすぐ近くにあるコンビニへと足を向ける。
コンビニの自動ドアをくぐろうとして、僕はそれに気づいて足を止めた。
コンビニの壁際に張りつくようにして、二人の人が立っている。
やせ形の背の高い男の人と、ふっくらとした小柄な女性。
タケさんとマキさんだということはすぐにわかった。
二人は向き合って、なにやらひそひそと話し込んでいる。
何の話をしているのか、声が小さくて僕には聞き取れない。
だが、その異様なまでに深刻そうな様子。
時折、言葉を途切れさせては、じっとお互いの顔を見つめ合う、その言いしれぬ熱っぽさ。
これは……。
(……これは、もしや――)
思ったところで、タケさんが立ちすくむ僕に気づいた。
タケさんの視線に気づいてマキさんも僕の方を振り向く。
「あ……」
「
驚きのあまり硬直してしまった一瞬。
僕は慌てて両手で目を覆い言った。
「何も見てませんから!」
「はい?」
気の抜けるようなタケさんの声が聞こえたが、僕は聞いてないふりをして訴える。
「何にも見てないし聞いてませんから!
二人が何かいい雰囲気だったとか思ってませんから!
何なら僕はお二人のことなんて知りませんから!
いっそ僕も早川龍生なんかじゃありませんから!」
「いやいや、タツキング?」
「ちょっと、龍生くん落ち着いて。
何か絶対誤解してるでしょ」
タケさんとマキさんがそう言ったが、僕は目をしっかりつむったまま、力強く拳を握って言ってやる。
「大丈夫です、僕はお二人のこと応援します!
基地内恋愛禁止とかあっても、僕は大恩ある先輩方の味方ですから――」
「だから誤解だって! タツキングの妄想力パネェ……」
「龍生くん一回ちょっと黙って!
それで目も開けてこっちの話聞きなさい!」
言われて、僕は目を開けて二人を見やる。
大袈裟に溜息をついてマキさんが言った。
「まず、龍生くんが思ってるようなことはないから」
「基地内恋愛、禁止じゃないんですか?」
「そこじゃない。
あたしとタケくんがいい雰囲気とか、そういうことはないから、まったく、全然、一ミリも!
皆無、絶無、必滅!」
「いや……そこまで全力否定されると俺の心にヒビが入りそうなんだけど……。
でも、確かにそういう関係じゃないから、俺たち」
「そうなんですか?
何か、すごく深刻そうに話し込んでたから、てっきり……」
「それは……」
言いよどんで、マキさんはタケさんの長身を見上げる。
視線を受け止めかねたように、タケさんはそっと目をそらした。
「何かあったんですか?」
「あたしも、ついさっきここでタケくんと会ったばっかりなんだけど。
ここにしゃがみ込んで、すっごく落ち込んでるみたいだったから何かあったと思って。
それで今、話聞いてたところだったんだけど……」
そして、またマキさんは語尾を濁して黙り込む。
その様子だと、マキさんはもうタケさんから事情を聞き出したところなのだろう。
わけは知ってはいるけど、自分の口からは言いづらいという風に見えた。
だから、僕は矛先を変えて、タケさんの方を見て言う。
「タケさん、何かあったんですか?」
「…………」
いつも明朗快活なタケさんらしくなく、表情を曇らせて、僕が尋ねるのにも即答しない。
これは本当に何かあったらしいと察して、僕は真面目になってもう一度尋ねてみる。
「何かあったなら話してもらえませんか?
何か問題があって、僕にできることなら手伝いますし。
それとも、僕は聞かない方がいい話なんですか?」
「いや……入ったばっかのお前に、こういう話は聞かせない方がいいのかもしれないけど。
でも、もしかしたら、みんなすぐ知ることになるかもしれないし……。
そんなら、あらかじめ話しておいた方が、ショックも少ないかもだし……」
ぐずぐずとした言い方に、僕はただ首をかしげるしかできない。
僕は黙って、タケさんが心を決めかねている様子を見守り、待った。
ややあって、タケさんは意を決した顔つきで僕に真っ直ぐ向き直る。
そして、短く言った。
「俺たち、もうヒーローできなくなるかもしれない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます