ヒーローとゆかいな仲間たち ④
ふわふわした足取りで、僕は家路についた。
舞い上がってしまって、正直、自分がどうやってバスに乗って駅から歩いてきたのか思い出せない。
「叔父さん、おかえりなさい!」
アパートに帰り着いて、その元気のいい声にようやく僕の意識は現実に戻ってきた。
「
「待ってたんだよー。
今日、イバライガーの基地に行ってきたんでしょ?
どうだった、どうだった?」
興奮を抑えきれない様子で食いついてくる莉子ちゃんは、中学校の制服姿で、スクールバッグも持ったままだ。
今日は平日、おそらく学校が終わって、家に帰らずそのままここに来たのだろう。
面接の結果が気になったのか、単に基地の話が聞きたいのかはわからないけれども。
「とりあえず上がって。中でゆっくり話するから」
莉子ちゃんに急き立てられながら、部屋の鍵を開ける。
居間に上がって、一杯の麦茶で落ち着いたところで、僕はなるべく平静な調子を心がけて言った。
「面接、合格だったみたいだよ。
明日また来てって言われた」
「おお! おめでとう!
これで無職からは卒業だね」
「うん、ありがとね」
「それで? 基地の中ってどんな感じだった?」
すかさず聞いてくる莉子ちゃんの態度に、僕は思わず苦笑した。
やっぱりそっちが目当てか。
「地下室とかあった?
ジャーク反応を測定する装置とか、瞬間移動できるマシーンみたいなのとかあった?」
瞳を輝かせて前のめりになっている莉子ちゃんに気圧されながら思う。
これは誰もが一度は妄想することなのか、僕の思考が中学生レベルということか、それとも血は争えないということなのか……。
莉子ちゃんの妄想に応えられるようなものはなかったかな、と思いつつ、僕は不意にそれを思い出した。
「そういえば、イバライガーに会ったよ」
「え、イバライガーいたの!?」
「うん、びっくりしたよ。
はじめ見たときは、スーツが飾ってあるんだと思ったからね。
知らずに見てたら、いきなりしゃべって動き出すからさ」
びっくりした拍子に悲鳴を上げて尻餅ついた部分は割愛した。
「いいなー、叔父さんいいなー。
私も基地の中入ってみたいなー」
言いながら、莉子ちゃんはだだっ子のようにテーブルを揺らす。
麦茶の入ったコップが危なっかしく揺れるが、僕はそれを気分よく黙認した。
ふふふ、どうだ、うらやましかろう。
ヒーローの基地はファンにとって夢の場所だからな。
存分にうらやましがるがよい。
大人げないことを思いながら、調子をよくして僕は言う。
「ほんと、ドッキリでも仕掛けられたかと思ったくらいびっくりした。
わざわざあのためだけにアクターさん来てたのかなぁ。
だとしたら、本当にサービス精神旺盛というか、遊び心があってお茶目というか……」
「叔父さん」
「はい?」
「だからね、イバライガーに中の人はいないの」
「え、いや、でも莉子ちゃん」
「い・な・い・の!」
「……はい……」
反論を許さない口調に、僕は黙るしかできなかった。
夢を壊すなということなのだろうか。中の人に関する莉子ちゃんの態度は強硬だ。
釈然としない気分を麦茶で流し込んだ僕に、莉子ちゃんが、
「あ、そうだ」
と言って、スクールバッグの中から取り出したものを僕に差し出してきた。
「これ、叔父さんにあげようと思って持ってきてたの」
「これ、缶バッチ?」
差し出されたのは、イバライガーの缶バッチだ。
デフォルメされたかわいらしいイラストの描かれたそれは、先日のショーでも販売されていた、イバライガーのグッズのひとつだった。
「叔父さん、イバライガーのグッズ持ってないでしょ?
だから、私のコレクション分けてあげる。
私からの就職祝いってことで」
「うん、じゃあ、もらっておこうかな。
ありがとね」
缶バッチを受け取ると、莉子ちゃんはうれしそうに笑った。
せっかくだから、明日、基地に行くときにカバンにつけていくことにしよう。
そういえば。
笑う莉子ちゃんの顔を見返して思う。
倒れて寝っ転がっていた僕の前に現れたのはイバライガーだったけれど。
そこまで引っ張っていってくれたのは、実は莉子ちゃんだったんだな。
そう、思いついたから。
「ありがとね、莉子ちゃん」
改めてそう言うと、莉子ちゃんは怪訝そうな顔をした。
「? どういたしまして」
首をかしげる仕草が妙に子供っぽく見えて、僕はつい笑ってしまった。
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