第3話「歯車」
あれから、すっかり俺はバーレスクに通う日々が続いた。
といっても東京まで電車で2時間かかる地域に住んでいるので、とてもじゃないが毎日などいけない。それでも1週間に2回は行ってたんじゃないかと思う。
初めのころはそれこそ、そこまで頻繁に通うつもりはなかったが、気持ちを抑制しながら店に通っていたのは本当に初めだけだ。
気づけば虜だった。それはバーレスクの虜であったし、もちろんレニの虜であったのだ。
それと反比例するかのように、ナナとの距離は離れていった。会うことも少なくなっていき、LINEすることすら減っていく。
『最近全然会えないね』
そんなLINEのメッセージが頻繁に俺に届いていた。
『すまない、今仕事が大切な時期なんだ』
残業が多いという理由で、俺は奈々と会えない理由を説明していた。もちろん、地方公務員の俺にそんな彼女と会えなくなるくらいの残業があるはずはないのだが。
『久しぶりにDENにいきたいよぉ』
行きつけのレストランのお誘いも断らざるを得なかった。何せバーレスク通いが続く俺には金がない。ナナとレストランに行く金があるならば、バーレスクにつぎ込みたい。
問題はナナの誕生日だった、どうやって避けたらいいだろうか。もし誕生日に会うということになれば、それなりの場所で祝わなければならないし、プレゼントも買わなければいけない、正直そんな金があるならば、バーレスクのリオンを買うべきである。
思考はすべてバーレスクを中心に回っていた。
そして、ナナの誕生日には、俺は出張だということにした。他の市町村との会合があってどうしても避けられないというありえそうで絶対にない理由をでっちあげて、ナナには説明した。
ならば別の日に祝ってという話になりそうなものだが、幸いなことにナナからその提案はなかった。すでにナナの方にも俺に対する気持ちがなかったのかもしれない。
そもそも、ナナには不満ばかりだった。付き合いたての2,3年は、お互いの誕生日を祝いあって、記念日とかも大切にしていたのに、気づけば誕生日を祝うとかプレゼントを買うといったことは一方通行なものになっていた。デート代を出すとかも俺が一方的に出すのが当たり前だし、昔は俺の家に来てくれて、片付けが苦手の俺の部屋を片付けたりとかもしてくれていたのに、それも最初の2,3年だ。それから先は全然部屋にも来てくれなくなった。
おかげで今ではすっかり俺の部屋は荒廃的なものになってしまっていた。
初めてバーレスクに行ってから6か月、とうとうナナからの連絡がなくなった。基本ナナとはほぼ毎日少なくともLINEのやり取りをしていたのだが、ここ一週間それがない。しかも連絡がないことに気が付いたのも、1週間たった今だった。
通常であれば何かあったのかもしれないと不安になるのかもしれない。
いや、俺だってそれは思ったのだが、それ以上にきっと愛想をつかされたのだろうと判断した。ナナはあれで結構美人でモテる女だ、だから他に男ができたんだろう。おれはそれでいいと思った。
だから、ナナからの連絡は来なかったが、俺はそれに対して何らのアクションも起こさなかった。
はっきりいって俺には今、レニしか見えてなかった。
バーレスクでは、ショーが始まる前にもお楽しみがあって、ダンサーはショーが始まる前にお客さんのところを回っておしゃべりをしてくれる。別に指名とかがあるわけじゃないけれど、明らかにレニ推しの俺のところには必ずレニは来てくれてその喋りの時間が何より楽しかった。
しかし、そんなレニに対しても不満があった。
最近、明らかにショーに出る回数が減っていたのだ。特に新作のショーである、バーレスクでは3か月に一回、新作のダンスが作られてそれを披露することになってる。だから、俺のようにヘビーローテーションでお店に来る人間でも飽きないで済むのだ。
ところがその新作のショーで、レニを見ることがない。
何度通っても、新作のショーではレニは登場しないのである
俺ははっきり言って、レニを見に来ているのに……。
一度、ショーが始まる前の時に、酔ってしまっていたこともあって、はっきりレニに言ったことがある。
「レニちゃんは、可愛いしさ、こうやって話してても面白いよ。でもさ、俺はレニのショーを見に来てるんだよ。ショーがないんだったら、キャバクラと変わんないじゃん。それはもうお客に対する裏切りだよね?」
かなり厳しい口調で俺はレニにそう言ってしまった。
言葉の裏には、俺は自分の彼女を捨ててお前に会いに来てるんだぞという思いがあるのかもしれなかった。
「ごめんなさい……。」
レニは罰の悪そうな表情で、それだけを言った。理由は特に語ってくれなかった。
二人の間では重い沈黙が続いた…‥。
そして他のお客さんのところにもいかなきゃいけないから、とレニはその場を立ち去っていった。
ああ、やってしまった。今のはレニを深く傷つけてしまったかもしれない。チップタイムの時には山ほどのリオンを用意して、言い過ぎを謝ることにしよう。
しかしその日のチップタイムにレニが現れることはなかった、他のダンサーに聞くと、レニは体調が悪くなって途中で帰ってしまったらしい。
とはいうものの彼女もプロで、その日以降に会った時には、さして気にする様子もなくふるまってくれていた。いつも通りの笑顔の素敵な明るいレニちゃんだった。
しかし事件は突然訪れた。俺のレニへの思いを根幹から揺るがすような出来事が、なんとテレビの画面の中で起きたのだった。
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