「狂騒曲バーレスクTOKYO」

ハイロック

第1話「あれから7年」

「もうさ、俺ら36だぜ、さっさと結婚しろよ。なんだかんだ結婚はいいぞ」

 今日は友人と久々に酒を飲みに来ている。最近はもっぱら駅前の個人が経営するような店で一杯やることが多い。


 若い時分は、お金の関係もあって安いチェーン店に行くようなことが多かったが、30も後半になると多少高くてもいいから、おいしいものを食べたいという思考に変わってくる。要はまぁ歳をとったということなんだろう。

 

 そして、話の内容も職場の同僚と飲むなら会社の愚痴ということになるんだろうが、高校の同級生だとやはり結婚の話が避けられなくなってくる。特に俺みたいな独身は目の前のマサみたいな既婚者を相手にすると、やたら結婚を勧められるのだ。さっきのセリフはもう何度聞いたかわからない。


「そんなこと言うけどさ、マサが嫁のことを早く死なねぇかなとか、家帰りたくねえとかいうから、俺だって結婚に踏み出せねえんだ。俺が結婚しないのはマサのせいでもある」

 すでに空になったグラスの氷をくるくる回しながら俺は語る。そう、あまりに周りで結婚したやつで幸せそうなやつが少なすぎる。


「でもよぉ、もう7年になるんだろう。いい加減結婚しないと、相手だっていなくなってくるぜ」

 言いながら、マサは追加のアルコールを注文するために手を上げて店員を呼ぶ。確かにそろそろ結婚しなきゃいけない歳だ。

「7年じゃない、9年だよ。まあな、結婚を考えてはいるんだよ。さすがにこのままってわけにはいかないからなあ」


 そう俺には一応9年付き合ってる彼女がいる。こっちの浮気が原因で別れそうになったり、相手のずぼらさに俺が嫌になったりとはあるものの、なんとかずっと続けてきたのだが、今一つ結婚には組み切れずにいた。


 一つには出会った時以上の情熱がないということもあるし、今の関係がお互いにとって楽ということもある。確かに年数的には結婚しなきゃまずいんだろうが、しかしまぁいざ結婚となるとこの女でいいのかという思いは強い。

 それはきっと相手もそうなんだろうがね。


「こういう言い方をするのはさ、俺としても心苦しいんだけどさ。もうさ、ナナちゃんのことはいいんじゃないかと思うんだよ。まだ30代だしさ新しい恋を探すのも一つの手じゃないか」

 マサはもちろん俺と彼女のことを、彼女はナナというんだが、よく知っている。付き合い始めた時はマサの嫁と一緒に4人で飲みに行ったりもしたものなんだが、ここ7年くらいはすっかりそういうこともなくなった。というかマサはよく考えるとここ7年丸々ナナと会ってないんじゃないだろうか。


 そして会うたびにこんな話をするところを考えるに、マサははっきりいって俺の彼女のことを好きじゃないんだろう。いつも他の女にしろというようなことを言ってくる。

 ―――そういやナナもマサと会いたいなんてことは絶対言わないしな。


「そうは言うけどさ、俺にだって恋愛感情もそうだけどそれ以上に情っていうのがあるんだよ。結婚する気がないから、じゃあ次の女でってわけにはなあ」

 そういって追加で運ばれてきたハイボールをグイっとのどに流し込む。こういう話をするときは、やはり何か胸につかえるものがあって、飲まずにはやってられないのだ。


 それにしても、このマサっていう男はなかなかひどい男なのだ。今の嫁と結婚してもう10年近くたつのだが、はっきり言って愛妻家とは程遠い。

 それなりに嫁を大切には思ってるのは知ってるのだが、少なくとも俺はマサの浮気相手を5人は知っている。アリバイ工作にも何度もつきあわされた。ふらっと嫁を置いて東京に遊びに行って朝帰りってことも一度や二度ではない。

 そんな男が結婚を薦めてきてもまぁ説得力に欠けるってやつだ。


「そうだ、お前バーレスクTOKYOって知ってるか?」

 飲み始めて1時間もしたころ、ふいにマサは、つまみのイカをほおばりながらそんなことを聞いてきた。


「……バーレスク?何か聞いたことあるような気はするな……」


「あれだよ、六本木のショーパブで、エロいダンスとか披露する奴だ、最近は結構テレビとかでも特集されてるんだが、最近俺はすっかりあれに夢中でさ。どう、今度一緒に行かねぇか?」


 ……ショーパブねぇ、なんか全然興味ないなぁ。それにエロいダンスを見に行ってどうするっていうんだ、その先に何かあるわけじゃないし、ムラムラするだけだと思うけど。

 まあなにより、エロいダンスを見に行くのにナナが許可するわけがない。


「ま、遠慮しておくよ。ナナが怖いし、興味がない」

 俺は左手に空のグラスを持ったまま、にべもなくマサの誘いを断った。


「また、ナナちゃんかよ。たまには他の女っていうか、別にバーレスクで女探せってわけじゃなく、なんか気を晴らすためにこういう派手めなことを経験したほうがいいと思うんだよ。俺はマジでお前のこと心配してんだからよ」

 珍しく真剣な表情で俺に語るマサ。

 たかがショーパブに大げさだなぁ。


「そんなことを言いながら、どうせ俺をネタにそのバーレスクとやらに行く口実を嫁に作りたいだけなんだろ?」

 うすっら笑いながら、マサに返答する。


「ばれたか?…‥‥まぁそれは冗談としてさ、マジで家帰ったら一回YOUTUBEでバーレスク検索してみてくれよ。エロいだけじゃないこと分かるからよ。絶対行きたくなると思うぜ」

 なんだよ、そんなにバーレスクに行きたいのかこいつ。ぜひ一人で行ってほしいもんだがな。まあそうまでいうなら、検索くらいはしてみるか。


「まあまあ、じゃあ、見てみるだけ見てみようと思うわ。行く気になるとは思えないけどな」

 はっきり言って俺の返事にやる気はない。そんなに熱くなってるマサには悪いのだけれども……。しかし、マサにはその返事で十分だったらしい。


「絶対見てくれよ、特に千本桜な!あのPV見たらぜひ生で見たいってなるからよ」


 そういって、その日マサと別れた後、多少の酒が残った状態で、千本桜のPVを見ることになった。

 一切なんの期待もせずに……。


 そして1週間後、俺はバーレスクに行くことになる。


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