「異世界」マジック・ソード・ゲーム

ハルク

第1話 転生……?


 階段を2段飛ばしする俺。


 俺はいつもと同じように、1番目に教室に駆けこんでいた。駆け込む必要性は全くないのだが、1番だと思うとつい駆け込みたくなってしまう。



 だが、今日は2番目だった。机の上に置き手紙があったのだ。そこには、女の子のような丸い字で、


『神谷怜雄れおくんへ  この手紙を持って、1人で屋上に来てくれないかな。待ってるよ。  山田アクリより』


 アクリというのは高校入学式のころ。だから約10か月くらい前に僕のクラスに転入してきたやつだ。


 とても気さくで話しやすい。だが、時として何を考えているのか分からないし、意味の分からない言葉を口走る変わった奴というのが俺の認識だ。


 そんなアクリは俺の後ろの席にいるせいか、俺とはそこそこ仲が良い。


 それはさておき、アクリが俺のことを屋上に呼び出す理由が分からない。


 だが、アクリは悪いやつではないことは確かだ。ここで無視するのはいつも優しくしてくれるアウンに失礼な気がする。


「仕方ない。ゆっくりしようと思ったんだけど。まぁ、いっか」


 俺は屋上へと向かった。


 教室は3階だから屋上へは1階分登るだけだ。俺はその階段を足早に上った。上り終えた後に少し歩いて、またちょっと階段を登れば屋上に出る。


 屋上への扉を開ける。2月ということもあり、とても寒い。登校中は走ってたからあまり気が付かなかったのだろう。冷たい風が顔に吹き付ける。冷たすぎて痛い。これはさっさと話しを済ませなくてはいけないと俺は感じた。


「やぁ、怜雄君。待ってたよ。こっちはと違って寒いね。すぐに話を終わらせなくちゃ。その前に確認させてくれ。君は神谷怜雄君だよね」


「おはよう。アクリ。何言ってるんだお前。俺は神谷怜雄だぞ。変な前置きはいいから、話を早く進めてくれ」


 向こうという言葉に違和感を覚えたかと言えば嘘になる。だが、彼は転校生だ。元居たところがあったたかったというのもあり得る。だから俺はスルーさせてもらった。


「うん。じゃあ早速本題に入るね。結論から言うね。・・さぁ、僕と異世界行こ! 」


「え、うん。・・・はぁ?! おまえ何言ってんのマジで!頭おかしくなったか、ついに。これはもうだめだな」


 異世界に行こうなんて正気じゃない。


「いやいや。違うんだよ。でも、ここで説明したらめんどくさいことになるしなぁ。う───ん。あっ、ここから飛び降りて僕と一緒に異世界に行きませんか」


「なに言い方変えてんの。嫌に決まってんじゃんか! つまりは俺に死ねと。俺にだって家族とか、大切なものがあるんだよ。無理に決まってんだろ。お前マジで何があった。俺でもよかったら話、聞くぞ」


 さらには死ねと言ってきたか。俺はアクリは一度少年院かなんかに入った方がいい気がした。


「君の心理の中にある大切なものも転生してくれるようになってるから気にしないでよ。ねぇ、だから早く飛ぼ」


 そういって俺の腕をつかむ。


「やだよ! 何言ってんの!」


 俺は必死に抵抗した。だが、アウンは結構力が強い。帰宅部であり、外部ですらないアウンのどこにそんな力があるというのだろうか。俺には不思議で仕方ない。


「仕方ないな。そぉれっ!」


 軽快な掛け声とともに俺はアクリに吹き飛ばされた。投げられた俺に容赦なく重力が襲い掛かる。だが、ギリギリ屋上からはとび出してない。落ちることはないだろうと安心する。


「よいっしょっと!」


 アクリが横から蹴っ飛ばしてくる感覚に襲われる。全身が震えあがる。


「じゃあ異世界へレッツゴー!」


 横ではアクリが楽しそうな顔をしながら俺と一緒に落ちている。


 あぁ。俺ここで死ぬんだ。


 必死に勉強して、皆に合格は不可能だと言われた桜桃高校に入学出来て、毎日楽しい日々を送っていたのに。付き合っている人も居た。そんな幸せな人生もここで終わりなのか。俺は死ぬ決意をそこでしていた。


 地面が目の前に迫ってくる。


 その瞬間だった。


 地面にぽっかりと大穴が空いて俺とアクリは飲み込まれた。すると、体感落下速度が急激に下がる。速度が自分の体の向きを制御できるまでに下がる。


 地面に足がつく。


 周りの景色は先ほどと全く違っていた。どこか懐かしいその風景。


 それを例えるならばゲームの中といったところだろうか。


「よーし! 着いた!」


 隣ではアクリが懐かしそうにニコニコと笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る