問題 甘酒は、夏の季語?

 ルール上、番組研は相談してもいいことにしていた。


「○じゃないのか?」

「わたしも○かな、って」


 のん、嘉穂さんの意見を、湊は腕を組みながら聞く。


「うーん。○率が高かったから、そろそろ×っぽいんだよね」


 湊の推理も有り得る。これが○×の怖いところなのだ。

 確率でも当てられてしまうだけに、迷いが生じる問題となると、思考が麻痺してしまう。

 ここでいかに知識に裏付けされた解答を出せるか。

 それも、クイズ解答者としての資質が問われる。

 

「ワタシも、×だと思います」


 やなせ姉が、青いゼッケンのレスラーを選び、運んでもらう。


 見た目よりも軽いのか、レスラーは軽々とやなせ姉を運ぶ。

 やなせ姉が、ギャラリーに手を振る。


「さて、来住選手は×を選択しました。果たして正解かどうか? あーっと!」


「きゃああ!」


 やなせ姉に待っていたのは、泥のプールだった。

 茶色くなったやなせ姉が泥から這い出る。


 正解は○だ。拳銃の所持は一九四八年、つまり昭和二三年まで適用されていた。残念。


「うーんごめーん」


 ビキニを泥まみれにして、やなせ姉が帰ってくる。なのに、美しさは全く損なわれていない。泥が滴ってもいい女とはこのことだ。


 ここに来て、番組研が始めて土を付けた。聖城先輩が一歩リードである。


「どんまい、先輩。ウチらも間違ってたんだから」

「気にするな、やなせ姉。間違いは誰にでもあるものなのだ」

「先輩、落ち込まないで下さい」


 一人失格したとはいえ、番組研の様子は明るいものだ。

 

「早く海へ行きましょう。泥を落とさないと」


 嘉穂さんが、やなせ姉を海へ連れて行く。


「ありがとーねー」


 浅瀬から海へとダイブし、やなせ姉は身体を洗う。


「さて、これでまず一人が脱落しました。聖城先輩、今の心境はいかがなものでしょう?」


 先輩は首を振る。


「特に、気にしていません」


 そういう割には、妙にソワソワしている。

 緊張しているだけか? はたまた余裕が生まれて早く終わらせようとしている?


 僕には、聖城先輩の心理は分かりかねた。

 だが、容赦なく問題は出題される。


「お見事。扇子は昔、メモ帳として使われていました。正解は○」


 先輩は次の問題で難なく正解を出し、マットに身体を預けた。

 

 番組研は未だ、先輩というクイズの巨獣との対決を余儀なくされる。

 またも、のんの出番となる。


「問題。『鳩が豆鉄砲を食ったような』ということわざは、鉄砲が伝来する以前からあった」


 ○ゼッケンのレスラーへ向けて、のんが走って行く。


「さあ○へ行った。しかし、赤いレスラーは真っ先に泥の中へ!」


 運ばれていった先は泥プールだ。のんの軽い身体が、泥のプールへと投げ飛ばされた。勢いが強すぎたのか、レスラーまで泥の中へ落ちてしまう。


「のわーっ!」


 レスラーの下敷きになり、のんが泥の中でもがく。だが、起き上がれない。


「そんなわけねーだろ! 当然、正解は×です!」


 レスラーに手を引かれ、ようやくのんが泥から這い上がる。

 全身泥まみれで、のんは退場していく。やなせ姉と並んで、バシャバシャと海水を浴びた。まるで犬の水浴びだ。レスラーと一緒に、陸へと上がっていく。


 ここで、一気に二人が脱落した。とはいえ、番組研の面々に悲壮感はない。


「問題、禁酒法時代を描いた映画『アンタッチャブル』に登場する、実在の捜査官エリオット・ネスは……アルコール中毒だった。○か×か?」


 先輩は、これも悩む。腰に手を当てて、意を決したかのように駆け出した。駆け足で○のレスラーの元へ。

 

 その通り。正解は○だ。

 先輩が、白いマットの上でホッとした表情を見せた。


「聖城先輩、今の心境は?」


 安堵した顔が、一瞬にして緊張した面持ちへと戻る。


「いやぁ、難しいです」


 思わずといった感じで、苦笑いが浮かぶ。コメントにまで頭が働かないらしい。


 今のは運で正解を勝ち取ったのか。はたまた知識を絞り出して正解を得たのか。

 僕には分からない。しかし、先輩の首が繋がったのは確かである。

 

「正解です。たしかに、任天堂の人気キャラ、マリオの本名は、『マリオ・マリオ』です」


 湊が正解し、番組研の望みを繋いだ。


「問題 モナコの街並みを再現した超豪華客船、ストリート・オブ・モナコに設置されている施設はどれ? A、ゴルフ場。B、レース場。さあどっち?」


 時間いっぱいまで思案した結果、聖城先輩はBを選ぶ。

 放り投げられた身体は、マットの上へ。


「正解しました。ゴーカートができる会場があります」


 限られた面積でレースなんてできるのかに、悩んでいた模様である。

 

 嘉穂さんの手番となった。


「問題。甘酒は、夏の季語である。○か×か?」


 これには、聖城先輩も立ち尽くす。本当に分からないらしい。一歩一歩考え込みながら、○のゼッケンを付けたレスラーの前に。

 レスラーが嘉穂さんを乱暴に担ぐ。まるで不正解一直線かのように。


「あっとこれは、勝負あったか?」

 

 皆が、不正解なのか? と固唾を飲んで見守る。


 悲鳴を上げながら、嘉穂さんが涙目になった。

 しかし、無事マットへ。正解ということだ。


「甘酒は江戸時代、夏に飲まれていました。夏バテ防止の効果があるとされています。よって正解は○です。いよいよ、三巡目に突入致します。勝負はまだ分かりません!」

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