みんなでクイズするって、面白いですよね!
「えっと、大した物はできませんが、何かご馳走しましょう」
目に止まったのは、ワゴンで売られているたい焼きだ。
「あれでいいかな?」
僕が言うと、女性陣はちょっとガッカリしたような顔をした。
「いいんじゃないかな。福原だし」
「まあ、しょーただしな。許してやるか」
湊とのんから、称賛なのか侮蔑なのか分からないコメントが飛んでくる。
「晶ちゃんにしては太っ腹だわ」
僕にしてはってどういう意味なの、やなせ姉。
「ご馳走になります、福原くん」
唯一、嘉穂さんだけが真っ先に列へと並んだ。
たい焼きを食べて寛いでいたら、夕方まで遊んでいた。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「なんか、ごめんね。僕の思いつきで慌ただしくなっちゃって」
「でも嬉しかったです。友達同士とクイズって、ホントに面白いんですね!」
嘉穂さんは、実に嬉しそうに語った。
「おい、しょーた」
唐突に、のんが僕に詰め寄る。その顔は、どこか心配しているような顔をしていた。
「お前、大丈夫か?」
いきなりそう尋ねられて、僕は戸惑う。
「別に、どうもしないよ」
「でも、今日のお前、どこか様子がおかしかったぞ?」
どうも、こいつの野生的な勘が働いたらしい。
僕は肩を落とす。先ほど、嘉穂さんに話したことを、みんなに伝える。
「オイラが越してくる前の前だな」
「へえ、結構、繊細なんだな、福原って」
ほっといてくれ。
「ワタシも、その話は昌子から聞いていたわ。声を掛けられないくらい落ち込んでいたって。関係者じゃないから、何のアドバイスもできなかったけど」
「ありがとう。けど、もういいんだ。気を遣わなくても」
あいつとは、違う道を進むって決めたんだ。
それが、僕の目標だから。
「晶太くん、自分を責める必要なんて、ありませんよ」
嘉穂さんは、力強く僕に意見する。
「だって、誰よりもお二方を気に掛けたいたんですよ。二人だって、納得した上で対立したんですから」
「ケンカした方がよかったってこと?」
「そうじゃなくて!」
僕が言うと、嘉穂さんはブンブンと首を振った。
「ケンカするくらい本気だったんですよね? なら、晶太くんだって本気だったんですよ。でないと、そこまで落ち込まないでしょ? もし、晶太くんが本気じゃなかったなら、二人のことなんてどうでもいいはずですもの」
嘉穂さんに説得され、僕は黙り込む。後悔、不安、謝罪、色々な思いが僕の心を駆け巡る。
「うん、そうだよね、ウチもそう思うよ」
「しょーたが落ち込む必要はないよな?」
二人からも同じ答えが返ってきた。
「僕は、もう悩まなくてもいいんだな?」
「はい。晶太くんは十分苦しみました。今後は、クイズを楽しんでいいんです」
「元気が出たっぽいわね」
やなせ姉が安心したような顔を見せた。
「じゃあ、ウチは帰るよ。なあ、のん。ちょっとまだ買ってない物があるから、ついてきて」
「おー? いいのか、しょーた? まあ、いいか。じゃあなー」
のんの腕を引いて、湊は帰って行く。
「さーて、ワタシも帰るわね」
今度はやなせ姉までがそう言い出す。
心細くなって、僕がやなせ姉を引き留めようとした。
「しっかりね」
そう言い残して、やなせ姉が帰っていった。
「あ、えっと」
僕は、ポリポリと頬をかく。
「帰りましょうか」
二人きりになってしまう。
でも、ウキウキという気分じゃない。
特別な会話もなく、僕たち二人は歩道をゆっくりと歩く。
沈黙が僕たちの周りを支配する。
「実はですね、この本、昌子先輩に勧めてもらったんですよ」
嘉穂さんが文庫本を差し出す。
「姉さんと話せたの?」
「はい。メールでオススメを教わりました」
そうだったんだ。いつの間に仲が進展していたのか。
「面白い人ですね、昌子先輩」
「アホなんだよ」
「でも、楽しそう」
「まあ、退屈はしないけど、ずっといるとしんどいよ?」
素直な感想を話したつもりだが、実に羨ましそうな顔を、嘉穂さんは見せる。
そんな楽しいモンじゃないぞ。家事なんか何もしないし。
「じゃあ、夕飯の支度がありますので、これで」
「気をつけて」
嘉穂さんが手を振って向こうへと歩き出す。
さて、今日はこれから編集作業だ。僕は帰ろうとした。
「あの」
嘉穂さんが、僕の方へ振り返る。
笑顔が僕の目に焼き付く。
「みんなでクイズするって、面白いですよね!」
その笑顔は夕陽に照らされて、より輝きを増す。
◆
帰ってくると、リビングで姉がお茶を飲んで寛いでいた。
「ところでさ、晶太」
お茶をすすりならが、姉が尋ねてくる。
「何だよ?」
「お前さあ、あの三人で、どの子がタイプなんだよ?」
お茶を吹き出しそうになった。
「ノーコメントだ!」
どら焼きに記された『×』のマークを、姉に見せつける。
だが、危機は唐突に、現実となって僕たちの前に立ちはだかった。
(第五章 完)
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