問題「ガウチョとは、何語?」

 食事を終えて、二度目の取材を行うことに。


「どこに行きましょうか?」

「適当にブラブラしよう。考え込んでても、ロクなアイデアしか湧かないよ」


 洋服売り場まで辿り着く。

 高級な物から、手が届きやすい価格の物まで、様々なタイプの衣装を着たマネキンが、ショーウィンドウに並ぶ。

 

「うっふうん」とか言いながらポーズを変えるマネキンまで立っていて。


……って、マネキンって喋ったっけ?


「何やってんの、お前ら」


 格安洋服売り場の試着コーナーの前で、湊とのんがファッションショーをしていた。セクシーポーズのつもりなのか、艶っぽい声を出してはしゃぐ。


「おや、珍しいね。こんな所で会うなんて」

「おお、しょーたじゃん。これ似合う?」


 二人が穿いているのは、お揃いのダボッとした七分丈のパンツだ。


「そのパンツ、何て言うんだっけ?」

「しょーたも知らないのかー」


 あいにくファッションの知識は苦手なんだ。今後の課題かな。

 

「これはなぁ、しょーた……ガチョウパンツだ!」


 思わず、ガチョウが七分丈のパンツを穿いて走り回る映像が浮かんだ。


「ガウチョパンツだよ」


 間違えたのんの代わりに、湊が正解を教えてくれた。

 湊は肩の出たシャツに、キャメルカラーのガウチョを穿いている。

 大胆にもヘソ出しという服装だ。

 帽子のツバの上には、デカイサングラスが鎮座している。

 

 のんはラグビーの選手みたいな柄のTシャツに、真っ白のガウチョだ。

 例の日本一有名な選手のポーズで決める。


 一歩間違えると一気にダサくなるファッションなのに、二人が着ると絵になるから不思議だ。


「二人とも可愛いです!」

「うん。正直、何も言葉が出ないと」


 事実、とてもよく似合っていた。文句の付けようがない。

 湊の私服姿は初めて見たが、こんなにセンスが良かったのか。

 のんの方も、子供っぽさを残しつつ健康美を醸し出している。

 湊のコーディネート力の賜だろう。


「見とれちゃダメだよ、福原」

「そうだぞー蹴るぞー」

 なんで蹴られないといけないのか?

 

「問題。ガウチョとは、ズバリ何語でしょう?」


 お返しとばかりに、僕は即興で問題を出す。


「ラテン語だぞ!」

「アメリカ語!」


 どっちも不正解!

 なんだよアメリカ語って。

 

「ポルトガル語だ!」


 僕が答えを言うと、「そっちかー。惜しかった」と二人とも悔しがる。

 いやいや、一ミリも惜しくなかったからな!

 

「嘉穂たんも着ていかないかい? 買わなくてもいいから」

「そうですね。せっかくですし」


 ガウチョが置かれているコーナーへと、嘉穂さんが向かう。アップリケが施された、ベージュのガウチョをチョイスした。


 鏡の前で、嘉穂さんがガウチョを腰に当てて考え込む。


「おお、似合うかも」

「ナイスな選択なのだ」


 二人の反応もいい。


「これ、可愛いです。これにします」


 実際、僕もこれは嘉穂さんにはピッタリだと思う。


「ちょっと着替えますね」と、更衣室へ。


 その間、僕は湊とのんに包囲される。


「ところで、お二人は何をしていたのかな?」


 大袈裟に湊が問いかけてきた。


「取材だよ。言っとくけど、やましい事なんてしてないからな」

「誰も聞いてないんだよなあ」


 湊がニヤけ顔をする。

 これは、墓穴を掘ってしまったか。


「昼飯は済んだのかー? オイラ達は先に食ったぞー」

「オシャレなバルで食事したんだ。前菜のバーニャカウダが最高だったな」


 あれって、ニンニクが入ってたよな。女二人だから平気か。

 

「バーニャカウダは何語だ?」


 再度、即興で問題を作り上げる。


「イタリア語!」

「ピエモンテ語!」


 くやしい! どっちも合ってるなんて!


「正解だよ。なんだよピエモンテ語を知ってるとか……」


 バーニャカウダは、イタリアを代表する料理だ。ピエモンテ語で「熱いカウダソースバーニャ」という意味である。



 ああもう! 二人のドヤ顔が、なおさら敗北感を煽る!

 

「ああ、僕らも済ませたよ」

「ここのご飯は全部おいしいからなー」


 のんは至って普通の問いかけをしてきた。

 コイツにとっては僕たちは普通に遊んでる風に見えたのだろうな。


「楽しんでるならいいけどな。オイラたち、邪魔しちゃったかー?」

「そんな事ない。二人だと会話が続かなくってさ。何を話していいか分からない」

「クイズの話でいいじゃん」


 のんの言葉も、もっともなのだが。


「まあ、取材中だからね。でも、コツを教えるとそのまま答えになってしまうから、僕からは話しづらいんだよ」

「難しいな。もう告白はしたのかい?」

「すすす、するわけないだろ!」

「何だぁ。つまんない男だな、キミは」


 ほっとけ! 僕はそういうんじゃないから!


「でも、腹減ってるならちゃんと『腹減ったぞ』って告白しておいた方がいいぞー」


 実に平和的なアドバイスが、のんから飛ぶ。こいつの脳では、色恋ネタはまだ処理しきれないのだろう。


「あのー、お待たせしましたぁ」


 嘉穂さんが、着替えを終えて僕たちに近づく。

 なるほど、こうなるのか。


 アップリケ満載で子供っぽい服でも、童顔の嘉穂さんが着ると実にフィットする。

 ちょっと出ている足首もポイントが高い。

 かわいい。思わず声が漏れそうになった。


「ホラ、ウチの睨んだ通りじゃないか」

「ホントですね。ありがとうございます、湊さん」

「さて、どうする? ウチら、着て帰るけど」

「値札見たら、セール中みたいでめっちゃ安いんですよ。買ってきますね」


 語尾に音符でも出てきそうなトーンで、嘉穂さんがレジに向かう。


「わたしも、着て帰ることにしました」


 ガウチョパンツのまま嘉穂さんが店から出てきた。


「あ、そうだ。あやせ先輩もいるんですよね!」


 突然、嘉穂さんがスマホを出して、やなせ姉を呼び出す。


「あのですね、今からちょっと余興をしようかと思うんですけど、いかがですか? OKですか? はい。ではお待ちしています。西畑くんも是非ご一緒に」


 笑顔で、嘉穂さんがスマホを切る。


「何をやる気だー?」


 のんが聞くと、嘉穂さんがガッツポーズを取った。


「特別部活動です! 晶太くん」


 嘉穂さんが、僕達に自分の考えたことを説明する。

 楽しそうなアイデアに、僕も手応えを感じた。

 

「それ、面白いかも知れない」


 実に面白い企画を、嘉穂さんはやろうとしている。


「でしょ? 課外授業で開放的になりますし」

「嘉穂たん、やるね。実に面白そうだよ」

「楽しみなのだ!」


 今日の成果も兼ねて、ひとつクイズ番組をやってやろうじゃないか。

 僕は、慶介に連絡を入れる。


「あ、慶介? スマホでいいから、撮影係を頼めるか? よかったOKか。じゃあ、合流しよう。場所は……」

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