クイズ 『○○と××の違いは?』

「さて、始まりましたクイズ番組研究会。本日は『違いの分かるクイズ番組』と題しまして、全問フリップ問題形式となっています!」


 出場者紹介を終え、早速問題へ。


 長机に座る解答者全員には、B5サイズのホワイトボードとマーカー、手の平サイズにちぎったメラミンスポンジが、人数分用意されている。

 全部百均で買ってきた物だ。これに解答を書いてもらう。


 やなせ姉が、問題を読み上げる。

 

『問題。ハイキングと、ピクニックの違いは?』


 三人がマジックを走らせる。

 書いては消してを繰り返し、嘉穂さんのペンが止まってしまう。

 あれ、スポーツ問題は苦手だったっけ?


「荷物の量が違う」と、見当違いの答えを出して、嘉穂さんは不正解となった。


 湊は「山に登るかどうか」と書いて不正解。


「ウチの親戚は、よく山に登るんだ」

「登山が趣味なんですか?」

「そうそう。帰りはスッキリした顔で帰ってくるよ」

「その『山登り』って隠語じゃねえか! 意味が違うわあ!」


 最後にのんがフリップを出す。『ピクニックは弁当が出る。ハイキングは歩くだけ』と書かれていた。


……ある意味で正解かもしれない。


 やなせ姉と相談して、正解とした。


「ハイキングは歩くことが目的。ピクニックは弁当を広げるのが目的でした。小宮山選手、これは意味が分かっていましたか?」

「ピクニックで食べるお弁当の方がうまい! と思っただけなんだな」


 何も考えていなかっただけらしい。


『次の問題。冷麦と、そうめんの違いを書いて下さい』


 悩んだ末に、嘉穂さんは、「太さ」と書いた。


「では、名護湊選手」


 湊も、「太さ」と筆記している。


「冷や麦の方が若干もちっとしてるから、太さかなー。どっちが太いかはわかんない」

「実はですね。小宮山選手解答をどうぞ」


 のんも「太さ」と書いていた。


「三人とも同じ答え。これはですね。全員正解なんです」


 ホッとした表情が全員から浮かんだ。

 が、僕が首を振ると、笑顔が消える。


「ですが! 誰一人として、どっちが太いかを明記していません。よって、どちらが太いのかをちゃんと答えて正解とします」


 えー、と言った顔を湊が見せた。

 三人が、そうめんと冷や麦のどちらが太いのかを書く。


「さて、津田選手と名護選手、素麺の方が太いと書きました。では小宮山選手、どうぞ」

「冷や麦の方が太いのだな!」


 大正解。これまた、のんが一歩リード。食べ物系は強いな。


「そうです。そうめんは冷麦より細いのです。よって、小宮山選手のみ正解」


 案外、のんが健闘している。トップになったのは初めてだ。

 のんはその後も、一点リードを維持し続けた。

 対照的に、まるで嘉穂さんが振るわない。

 解答を出す時の迷いもなく、何ら問題はなかった。字も綺麗だ。

 しかし、間違う。さして難しい問題ではないと思っていたのだが。


「どうしたんでしょう。津田嘉穂選手、緊張しすぎでしょうか?」

「え? ああ、何でもないです」


 平静を装っているが、取り繕っているのが丸わかりだ。


「フリップ問題は苦手とか?」


 湊がフォローのコメントを入れる。


「そういうわけでは、ないんですけど」


 手をパタパタさせて、嘉穂さんが誤魔化す。


『問題。保育園と、幼稚園の違いは?』


 のんは、「制服があるかないか」と書いて不正解。

 湊は、「通っている子供がマセているかどうか」と書いて不正解だった。実に失礼な解答だ。

 嘉穂は「管轄が違う」と書いて、正解を出す。


「保育園の管轄は厚生労働省ですぅ。幼稚園の管轄は文部科学省ですぅ」


『次の問題です。「自首」と「出頭」の違いは?』


 のんがフリップを出す。


「説得されたかどうか!」

「違います」


 湊が答えを出した。


「罪の重さじゃないかな?」

「それも違いますね」


 最後に、嘉穂さんが解答する。


「犯人が分かっているかどうかです」


 犯人が分かる前に出てくると自首。分かった後に出てくると出頭。

 見事、嘉穂さんが正解した。


『最終問題です。サイダーとラムネの見分け方は?』


 これは、三人とも止まった。

 嘉穂さんは「ラムネの方が甘い」と書いて、不正解。

 のんは、「ビー玉が入っているかどうか」と答えて、不正解となった。

 最後に、湊がフリップを出す。


「原料じゃないかな」

「正解! 湊選手正解!」


 サイダーの語原は「シードル」というりんごを発酵させた「お酒」なのである。

 一方、ラムネの語原はレモネードという。


「へえ、お酒だったんだ」

「さて、ここで大番狂わせ。今回の優勝は湊選手です!」

「え、ウチ?」


 この勝負、実は一点差で決着が付いた。それまで三人とも横並びで、最後に湊が正解を出したのである。


「では優勝した名護湊選手、今のお気持ちを」


 本来喜ぶべき所のはずだ。


「え、えっと。そこまで想定してなかったなぁって」


 けれど、湊はやっちまったといった顔をする。

 ボケ役を好む彼女にとっては、あまり喜ばしい事ではないのだろう。


 ただ、僕は嘉穂さんの不調が気になっていた。


 他の三人も、どうも気にしているようだ。

 カメラを止めて、嘉穂さんの元へと歩み寄る。


「嘉穂さん、具合悪かった?」

「ふえ?」


 声をかけるまで、嘉穂さんは心ここにあらずという状態だった。僕が呼びかけたことで、慌てて意識をこの場に戻した様子である。


「な、何でもありませんよ?」


 手をバタバタさせて、嘉穂さんが弁解した。


 やはり、調子が悪かったのかなぁ……?

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