第16話「絶望の誕生日…」
「あぁ……それじゃあな」
トラウゴッドに見送られてアーデルベルトが店を去るうちに裏口からコッソリと赤茶髪の青年『フラット』は店を去った。
「…………すまない……」
◇
足が少しふらつく帰り道。
ふと気がつけば何者かによって囲まれていた。
「なんだ……おまえら」
ふらつく視界、倒れないように壁に手をついて通路に立っている人達の方へと向く。服の色、服装からアーデルベルトは彼等がここの軍である事と判断する。
「軍が俺に何か用か? ……違ったらすまん、ちょっと調子が悪いんだ」
少し笑うような声が聞こえた気がする。
不調から来る幻聴かと疑ったが、どうやらそうではないようだ。
再びグラリとくる大きな波。アーデルベルトは首を振って意識を呼び覚ます。
「ダメだ……は、やく家に帰え――」
ゆっくりと前へと進もうとすると一番先頭に立っていた帽子をかぶった男が言った。
「アーデンベルト・グロックス。貴殿には我が軍への召集命令が下されている。ご同伴願えますか?」
「今日中じゃないとダメか?」
「はい、今日中にお連れしろとの命令です」
「わざわざ来てもらったのは悪いが、今日は先約がいるんだ」
アーデルベルトはゆっくりと軍人の横を通過して去っていこうとした。
その瞬間に軍人は首を振ってゆっくりと口を開く。
「そうですが……出来ればしたくはなかったのですが」
隊長である男が手を上げると兵士たちはアーデルベルトに銃口を向け、ゆっくりと近付いてくる。
「急にそれとは手荒にも程があるんじゃないのか?」
「先約がある貴方には申し訳ありませんが、今日中に連れてこいとの命令です。少々手荒でも構わないと言われていますので……」
「ずいぶんと乱暴な奴等だな、たった一人の為に一班を用意するとはな」
「このくらいやらなくては貴方一人捕らえるのはなかなか厳しいですのでね」
「そうか……じゃあ」
前方に立つ兵の銃先を掴むと首に一撃を入れてライフルを奪い取ると銃口を向けつつ、マガジンを外して地面へと捨てる。
そして怯んでいる兵を投げ飛ばし、後方に立つ兵士らにぶつけると側に立っていたもう一人を投げ倒す。
道の開けた先へ進もうとする直前、脚に銃弾が撃ち込まれてアーデルベルトはその場にしゃがみこんだ。
「全く恐ろしい人ですね。薬が聞いていないのですか?」
隊長はサイレンサーを付けた拳銃を手にし、ゆっくりとアーデルベルトに近寄っていく。
「薬……だと?」
「ええ、あなたの恐ろしさは知れ渡っていますからね。事前に薬を盛らせて頂きました」
「いつだ、いつ……酒場? いやトトがそんなこと、するわけは……とすると……」
「今考えている方で恐らく合っていると思いますよ。あなたに薬を持ったのは貴方の友人でありお仕事仲間でしたね……確か名前は……そう、フラットさんでしたね」
「クッ」
「おい、お前らいつまで寝ている。早く取り押さえろ」
「了解!!」
アーデルベルトに数人の兵士がとびかかる。
「触るな!」
しかし、彼は左腕一つで彼らを突き飛ばした。
その刹那、空気の抜けたような音が聞こえ、機械の左腕の機能が停止する。
「本当に恐ろしい方です。本来ならあの薬は口にしてすぐに昏倒してしまうほど強力なものなのですがね。……しかし貴方にはどうしても来ていただかなくてはなりませんので」
隊長は手にした拳銃のマガジンを付け替えるとアーデルベルトに向けて引き金を引いた。
「さて、お前らいつまで寝ている!? さっさと彼を運ぶんだ!」
歪んでいた視界が暗くなっていきアーデルベルトは眠った。
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