ゆきんこさんの「僕たちの恋物語」を書き直してみる

ハイロック

第1話「突然」

 朝は嫌いだ。

そもそも眠って起きるという動作が好きな人間がどれだけいるというのだろう。

出来ればずっと眠っていたい。

眠り姫の話を聞くたびに、せっかく気持ちよく眠っていたところを、キスで目覚めさせるなんて迷惑な奴がいたもんだと思ってしまう。とんだくそ王子だ。

 

 そして今僕の意識は完全に起きている。


 だが一向に身体は布団から出ようとしてくれない。これは僕が悪いのではなく、身体が悪いのである、僕の意思は布団から出ようとしている。

 目覚ましはけたたましく鳴り響き、僕を布団から追い出そうとする。しかしそれもあと1分ほどの辛抱だ、間もなくこいつも黙るだろう。

  

 しかしこいつが黙ったところで、次には朝の番人がやってくるだろう。

 朝の番人とはそうすなわち僕の母親のことである。あの母親は物理的に僕を起こそうとする、なんとも迷惑な話だ。そしてあらわれたら最後、番人から逃れるすべは僕にはない。あっという間に僕を天国から地獄に引きずり落とすだろう。


 と思っていたところで思い出した。そうだ、今日はその番人は現れないのだった。あの番人は夫婦で仲良く1週間ほど旅行に出かけるといっていた。どこだったか、サイパンだかタヒチだかダナンだか……、南国に行くとか言ってた気がするが、とにかく僕たちを置いてあの番人は出かけてしまったのだ。

 

 なぜ夏休みでも何でもないこんな時期に子供を置いて出かけてしまうのか、不満たらたらではあったのだが、おかげで今日の朝はいつまでもでいれるわけである。そう考えるとあながち悪いことではない、いっそのこと今日はずっと布団とともに過ごしてみるのも悪くはない。

 学校なんて知ったことか……。


 のはずだった……。


 番人は現れないはずだったのだが……。


 ―――ガチャ。


 僕の部屋のドアノブを回す音が聞こえた。

 おかしいそんなはずはない、母親は確かに昨日でかけたはずだ。まさかそう見せかけて、実は嘘だったか。くっ、俺の朝の平穏は今日も破られてしまうのか。

 足音がゆっくりと近づいてくる。

 ―――トン、トン、トン。


 おかしいな、いつもよりも足取りが重い。それに音も小さい気がする。

 

 そして足音は枕元で,止まった。

 僕はゆっくり目を開けてその朝の番人の顔を見る。

 朝の番人は母親ではなかった。


 僕の部屋には最も似つかわしくないもの、そうJKであった。


 「お、お前はいったい誰だ、け、警察を呼ぶぞ」

 僕は起き抜けの声で精いっぱい虚勢をはってみた。

 

 その少女は間抜けな顔の僕を見ながら、あきれたように口を開く。

 「……お母さんから何も聞いてないの?私は橘真美たちばなまみ、よろしくね小浮気隆司こぶきたかし君」


 何やら今日の僕の朝は波乱ぶくみなものになりそうだった。









 

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