第10話 怪談ライダー
若い時分、あたしの体験した話なんですけどね。
そのころ仲間内でツーリングっていうんですか、バイクに乗るのが流行ってましてね。あたしは免許も持ってないもんだから、バイク雑誌見ては、あ~でもない、こ~でもないって羨ましがってたんだ。
そいでね、夏休みにバイトを幾つも掛け持ちして、お金貯めてね。合宿ってんですか、群馬の田舎の方に、泊まり込みで免許取りに行ったんですよ。
晴れて試験に合格しましてね、お目当てのバイクあるんだけど、少しお金が足りないんだ。そうすると、友人のMっていうのがね、
「淳ちゃん、うちの従兄弟がもう乗らないバイクあるから、格安で譲ってもらえるよ」
って言うんですよ。
ま~このM野っていうのは金にうるさい奴でしてね。たぶん自分が譲ってもらったのを、幾らか上乗せして儲けようっていう、そんな魂胆なんだな。
それで、あたし幾らか聞いたんだ。そうすると、思ったほど高くないんだ、これが。そのうえ、型は古いけど、あたしが欲しいな~、乗りたいな~って思ってた車種と同じなんだ。
それであたしは思い切って買いましたよ。なんか不都合あるようだったら、すぐに文句言ってやろうってつもりなんですがね。でも、ぜんぜん調子良いんだ、これが。
ろくに手入れもされてないのを掴まされるかもって身構えてたから、あたし嬉しくなっちゃってね。前野すまねえな~、疑って悪かったな~って言いながら、毎日乗ってたんですよ。
免許も取って、バイクも手に入れたから、バイトのほうも減らしてましてね。そのころ、彼女いなかったかな。だから、土日も暇なんだ。夜に走るのも面白いってんで、どこにあてがあるでもなく、ぶ~らぶ~ら出掛けたんだ。
住宅街は迷惑だし、大きい幹線道路は長距離トラックが多くて危ない。だから、峠ってんですか、山の方走ってみることにしたんだ。
あ~、それじゃあ展望台まで行って、コーヒーでも飲んで帰ってくるかってんで、ぶぅんって吹かして山道を登り始めたんだ。辺りはま~っ暗で街灯も少ない。夏も終わり掛けのころだから風が気持ちいんだな。い~気分でバイク走らせてたんだけど、あたしふと妙なことに気が付いたんだ。
山を登り始めてから、車もバイクも一台もすれ違わなかった。土日の夜なんか、人気のある峠だと、走り屋が集まるもんなんだ。そこはそんなに有名じゃなかったにせよ、一台も通ってないってのは変なんだ。
おかし~な~、何なんだろな~って首を捻ってたら、あたし思い出した! そこコースとして有名なんじゃない、怪談の方で有名な峠だったんですよ!
なんでも事故で死んだ、首のないバイク乗りの幽霊、首なしライダーが出るって噂なんですよ! だから人がいないのかってんで、あたし慌てて引き返したんだ。
道が空いてて貸し切り状態なのをいいことに、調子に乗ってだいぶ登ってたんだ。帰りは冷や汗もんですよ! あ~怖い怖い! 早く下んなきゃってね。
その時、後ろに微か~にライトの光が見えたんだ。上の方から誰か降りてくる。ライトが一つだから、バイクなんだな。まさかな~って思いながら走ってると、その光どんどん近付いて来るんだ。
尋常な早さじゃない! 人があんなに速く走れるわけがない! この世のものじゃないんだ!
なんでも首なしライダーに追い抜かれると事故に会うってんで、やだな~怖いな~ってがたがた震えながらバイクを走らせてると、もう向こうのライトが届くまでの所に追い付かれてるんですよ。
がたがたがたがた震えながらミラーを覗くと、無い! 本当に首がないんだ!
神さま~たすけて~怖いよ~なんまんだ~なんまんだ~って、がたがたがたがた震えてると、もう相手のエンジン音がすぐそこで聞こえる!
もうそいつ、並ぶとこまで来てるんだ! あたし必死になって叫びましたよ!
「変身!」
声帯認証でベルトのギアが作動し、5ナノセカンドであたしの身体をスーツが被う。コマンド入力でDM粒子のチャージを済ませ、やつが並んだ瞬間バイクから跳びましたよ!
「ライダーキック!」
首なしライダーはバイクごと崖下に落ちながら爆発四散。
恐ろしいことに、あたしのバイクも反対側の崖の壁面にぶつかって大事故になりましたよ。
ええ、古い話ですがね。怪談にも、本当のことがあるんだな~っていう、そんな話です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます