葡萄食ふ 中村草田男

 葡萄食ふ 一語一語の如くにて



 始めて見たときは正直言ってあまり凄さが解らなかったんですが、一語一語味わううちに印象深く思えるようになった一句です。


 「普段はあんまり意識していない葡萄の味を、言葉を噛みしめるように食べているよ」という意味なわけですが、私はこの句の裏に、様々な言葉を生きるために取りこんできた、中村さん自身の凄みを感じ取ります。


 こんな句を詠むということは、中村さんの日常においては、「葡萄を味わう」よりも「言葉を味わう」ことのほうが身近にあったんだと思うんです。

そうでなければ、「一語一語の如く」という文句は生まれてこない。


 でも更に深く考えていくと、中村さんが特別なわけでもなく、私たちは皆もしかしたら食べた時の味に先んじて言葉が出てきているのかもしれません。

そうと意識することは、普段は全くないですが。


 例えば「普段は意識しない言葉を、葡萄の一粒一粒を味わうように噛み締めてます」という俳句があったとして、はたして上句とどっちが凄くみえるでしょうか?皆さんはどう思われますか?


(草田男さんの俳句は、フランス堂文庫『炎熱ー中村草田男句集』から。『炎熱』ってタイトル、でらかっこいい)




 


 

 


 

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