第73話 残念美少女、遠足に行く15 

「ドン! どうしてここに?!」


 ドンの腕から飛びおりたミーちゃんが、私の胸に飛びこむ。

 

「クキュ~」


 少し会えなかったからか、ミーちゃんは私の胸に頭をこすりつけている。


「ミーちゃん、よく来たね」


 撫でてやると、ミーちゃんは喉を鳴らし気持ちよさそうに目を細めた。


「少し前から空で見てたんだ。修行だからお姉ちゃんが本当に危なくなるまで手を出しちゃだめだって、トゥルースさんに言われてた」


 あのジジイめっ!

 

「ドン、ハイエク先輩に、治癒魔術掛けてくれる?」


「うん、いいよー」


 地面にうずくまっている先輩の身体が、白く光る。


「ど、どういうことだ!? 痛みが消えた……。あなたは、確か平民科に新しく来た先生では?」


「ドンだよ」


「ああ、先輩、とにかく一度、壁の中へ戻りましょう」


「そ、そうだな。しかし、どうなってるんだ。さっきまで俺は……」


「さ、さあさあ、先輩、急いで急いで。みんな心配してると思うし」


「あ、ああ、そうしよう。ドン先生、ありがとうございます」


「気にしないで~。ええと、何か忘れてる気がするんだけど」


 ポチ(カニ)たち『おーい! 空からほうり投げておいて、後は放置ですか!?』 


「あ、そうそう、お姉ちゃん、カニさんたちも連れてきたよ」


 よく見ると、倒れたオーガの下から、カニがぞろぞろ出てくる。


「あれ? ポチじゃない」


 ポチ(カニ)たち『やっと気づいたんかい! ビリビリの時点で気づけよ!』  


「そうか、オーガは全員『♂』だったのね!」


 ポチ(カニ)たち『驚くとこ、そこ!?』 

  

 ◇


 防御壁の中に入ると、生徒たちが出迎えてくれた。


「ミーちゃん! どうしてここに!?」


 メタリはミーちゃんに夢中ね。だけど、友人の無事を喜ぶってないの?

 一応、私も危なかったんだけど、


「うわーっ! カワイイわね! メタリさん、そのキャティ、私にも触らせて!」

「本当! なんてカワイイの!」

「モフモフのふわふわ~!」


 女子生徒たちから触られまくったミーちゃんは、かなり迷惑そうだ。


「かわいいな」

「だねえ」

「ちょこちょこ歩くところがいいね」


 ポチ(カニ)さんたちは、男子生徒の注目を集めている。

 

「くすぐったいんだな」


 ポチ(カニ)たちは、なぜかナティンが気に入ったようで、十匹が五匹ずつに分かれて彼の両肩に乗り、ダンスのようなものを踊っている。


「君たち賢いんだな」


 ナティンにそんなことを言われ、ダンスが激しくなっている。

 後で動けなくなっても知らないわよ。

 その横では、抱きあうハイエク先輩とラサナが。

 リア充、うっとうしいわね。


 ◇


「フォ、フォレストタイガー……」

「オーガ……」


 ハイエク先輩と私は、先生たちが宿泊するロッジに連れていかれ、スタンピードについて説明しているところだ。

 現れた魔獣の名前を聞き、先生たちがまっ青になり、言葉を失ったところだ。


 教師用のロッジには大きな木製テーブルがあり、そこに先生方が座っている。戦っている時、私が壁の中に投げこんだ二人の先生は、その姿が見えなかった。


 沈黙を破り、シシン先生が話しだす。


「スタンピードは、後になるほど強い魔獣が襲うとされています。

 第二波がフォレストタイガーとオーガだとすると、第三波は……」


 先生方が、ぶるりと身体を震わせた。


「第三波があるとしてですが、俺では力不足です」


 ハイエク先輩が、落ちついた声でそう言った。

 それまで腕を組み、目を閉じ黙って聞いていたトゥルースさんが口を開く。

 

「ハイエクよ。これも修行だ。次も出なさい」


「し、しかし、師匠、俺では――」


「ははは、なにも戦えとは言うておらんよ。お前は防御壁の所で見ておればよい」


「どういうことでしょう?」


「今回は、レイチェル一人で戦ってもらう」


「そんなっ!」

「無茶です!」


 ハイエク先輩とシシン先生が同時に声を上げる。


「ふぉふぉふぉ、ハイエクよ、レイチェルの戦いは見ておったろう」


「は、はい。しかし、いくら彼女でも、第三波を一人でというのは……」


「足手まといなんじゃよ」


「えっ!?」


「他に誰かいると、その者を守るためにレイチェルは全力が出せん。たとえそれがお前だとしてもな」


「そんな! レイチェル、お前は一体――」


「ここでぐじゃぐじゃ言っても始まらん。とにかくその目でこの娘の戦いをよく見ておくのじゃ」


「……」


 シシン先生が、まっ赤な顔で立ちあがった。


「レイチェルさんを、一人でそんな目に遭わせるわけにはいきません!」


「ほう。では、先生。あんたがスタンピードを凌いでくれるのか?」


「そ、それは……」


「あんたらは、ここで待っておれ」


 有無を言わせぬ口調でそう言うと、トゥルースさんはパンと両手を打ちあわせ立ちあがった。


「ツブテ嬢ちゃん、次が来るまでゆっくり体を休めておくといい」


 彼はそう言うと、ロッジから出ていった。 


 ◇


 ロッジに帰るまで、私はハイエク先輩と並んで歩いた。 


「レイチェル、本当に大丈夫か?」


「多分、なんとかなるでしょう」


 今は、ドンやポチもいるからね。

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