第52話 残念美少女、寄宿舎に入る



 放課後、私はアレクに案内され、教員棟までやってきた。アレクによると、この建物には教師の宿舎と研究室があるそうだ。


 本校舎よりかなり古い造りの教員棟は、ホラー映画の撮影に使われそうなほど、暗く怪しい雰囲気を漂わせていた。

 アレクもなんだか落ちつかないようだ。 

 ドンの部屋は、暗い通路の一番奥にあった。

 アレクがノックすると、すぐにドアが開いた。


「お姉ちゃん!」


 ドンが私に抱きついてくる。


「ボ、ボク、これで失礼します」


 アレクは二三歩後ずさると背中を向け、だっと駆けだした。

 どうしてかしら?


「さあ、ドン。約束通り、ケーキ食べよう!」


「わーい!」


 ◇


 教員の研究室は八畳ほどで、壁には本棚と机があり、小さな窓から外の木々が見えた。

 奥には狭いながらベッド付きの一部屋もある。 

 お湯を沸かす魔道具があったので、それでお茶を沸かした。

 水とお茶葉は、いつもゴリラバッグに入れているからね。


「ドン、先生の仕事はどう?」


 お茶とケーキを部屋の中央にある丸テーブルに置き、向かいあって木の丸椅子に座る。


「う~ん、ボク、お姉ちゃんと一緒が良かった」


「そうね。でも、学園にいる間はしょうがないでしょう。毎日、私がここに来てあげるからね」


「本当? 絶対だよ!」


「当たり前でしょ。私はドンのお姉ちゃんなんだから」


「お姉ちゃん……」


 ドンが涙ぐんでいる。

 私は話題を変えることにした。


「ねえ、ところで先生って何するの?」


「カリンガっていう先生のお手伝いをするみたい」


「ふうん、カリンガ先生ってどんな人?」


「う~ん、よく分からないけど、あまりしゃべらない人だよ」


「まあ、おしゃべりな人より、ドンには向いているかもね」


 この予想が見事に外れるとは思ってもいなかった。


 ◇


 教員棟を後にした私は、夕日に照らされた校庭を通り、寄宿舎へ向かった。

 女子の寄宿舎は、校舎の東端ひがしはしに位置する。教員棟に比べると新しく、ふんだんに使われている魔術灯で明るかった。

 学級委員長のメタリが、寄宿舎の中を案内してくれる。

 ブロンドの髪を肩のところで切りそろえた小柄な少女は、しきりにドンのことを知りたがった。私と彼は、遠い親戚という設定だ。


「私、田舎の出だから、あんなに綺麗な人なんて初めて見たの」


 メタリは真面目そうな顔を赤くして、そう言った。

 

「親戚っていっても、あまり会ったことがないから、よく分からないわ」


「そう? 先生の事、もっと知りたいわ。なにか分かったら教えてね」


「ええ、いいわよ」


 口先だけで、そう答えておいた。


「でも、黒髪って珍しいわね。レイチェルさんの出身地では、沢山いたの?」


「う、うん、何人かいたかしら」


「この国では黒髪っていうだけで尊敬されるから、うらやましいなあ」


「えっ? そうなの?」


 そういえば、どこかでそんな話を聞いた気がする。

  

「仲良くしてくださいね」


「こちらこそ」


 宿舎の部屋は普通二人一部屋らしいが、私の部屋はなぜか個室だった。

 各寄宿舎に二人ずついる先生の一人が、産休で里帰りしているそうで、私はその部屋をあてがわれたそうだ。

 部屋は六畳ほどで、ベッドと机だけが置かれており飾り気がない。

 ただ、大きな窓からは森が見えるし、慣れると住みやすいかもしれない。

 私は暗くなってきた部屋でベッドに座りくつろいだ。

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