第4章 残念美少女、魔術学園へ行く
第1部 残念美少女、転入する
第50話 残念美少女、学園へ行く
アレク、ドン、そして私は、駅馬車に乗り、王都キンベラへとやって来た。
アレクの話だと、私たちがこれから行く『タルス魔術学園』は、王都の郊外にあるらしい。
お土産にポンポコ印のケーキを大量に買いこむと、王都と学園間を往復している専用馬車に乗る。
馬車は坂を登り、王都を見下ろす丘の上にある魔術学園に着いた。
学園は小高い丘の上に広がっており、その全てが見渡せないほど広かった。
大きな石造りの門があり、そこには警備のためだろう、ワンドを腰に差した青年が二人立っていた。
アレクが彼らに羊皮紙を見せる。
青年が頷き、私たちは門を抜け学園の中へ入った。
「ツブテさん、ドンさん、『タルス魔術学園』へようこそ」
門から少し歩くと、よく整えられた美しい庭園が広がり、その向こうにレンガ造りの立派な建物が見えた。
「アレク、ここに来るまで誰も学生を見なかったわね。今は休みなの?」
「いえ、逆です。今日は休養日でもないから、普通に授業が行われています。だから、誰にも会わなかったんですよ。この学園は、全寮制ですから」
アレクは勝手知ったる足取りで、校舎の中をどんどん進んでいく。
鐘の音がすると、静かだった周囲が急に騒がしくなった。
アレクと同じ青いローブを身に着けた学生たちが、通路に出てきたのだ。
その多くが、こちらを見て立ちどまっている。
「ねえねえ、すごく綺麗な人ね。新しい先生かしら」
「隣の女の子も、可愛いね。新入生なら、同じクラスにならないかな」
そういう声が聞こえる。
アレクは、近寄ってくる生徒をかき分けるように階段を昇る。
三階まで上がり、そこだけ絨毯が敷いてある区画まで来た。
アレクが大きな黒い木の扉をノックする。
「入りなさい」
落ちついた女性の声がする。
部屋は教室半分ほどの広さで、壁三面には書架が並び、残った面はガラスのようなものが入っており、その向こうには丘陵地帯の緑が広がっていた。
その美しい景色が背景となるように、大きな黒い机が置いてあり、二十台後半に見える女性が座っていた。
「学園へようこそ。私が学園長のヴェルテールです。ツブテさん、ドン先生、歓迎します」
ドン先生?
「ツブテです」
「ボク、ドンです」
「アレク、ご苦労様。あなたは、隣の部屋でお待ちなさい」
「はい、学園長」
アレクが部屋を出ると、少し
彼女を中心に、光の輪が広がった。
「これでいいでしょう。この部屋で話すことが外に漏れないよう、魔術障壁を張りました。魔術で中を覗こうとしたり、聞き耳を立てる不心得者がいますからね」
彼女は一つため息をつくと、机のこちら側に出てきて膝を着いた。
「ツブテ様、ドン様、あなた方二人は、国を救った英雄と陛下からうかがっております。ただ、学園で生活する上は、他の生徒と同じ扱いとさせてください」
「分かりました」
「どうか、救国の件はご内密にお願いします。あなたが、『青い悪魔』だと生徒に知られると、大変な騒ぎとなりますから」
「もちろんです」
「では、ツブテ様は平民クラスへ。ドン様は教師としての心得をお伝えしますから、このままここにお残りください」
「えーっ、ボク、お姉ちゃんと一緒がいい」
「ドン、学園長の言うとおりにしましょう。後で会いに行くから」
「絶対だよ、お姉ちゃん」
ドンが置いていかれる子犬のような目で私を見る。
「必ず行くから、心配しないで。買ってきたケーキ、二人で食べようね」
「わーい!」
学園長は呆れたような顔でそれを見ていたが、はっと気がついたふうに机の上に並べられたクリスタルの一つを手に取った。
「アレク、来てちょうだい」
すぐにノックの音がして、アレクが入ってきた。
「アレク、ツブテさんを教室に案内してあげて。あなたと同じ平民四回生がいいでしょう」
「分かりました」
「それから、手間をかけるけど、その後、職員ホールへ来てくれる? ドン先生を彼の研究室まで教頭に案内させるから。あなた、後でその場所をツブテさんに教えてあげて」
「はい、学園長」
◇
私は石張りの廊下を歩きながら、アレクに話しかけた。
「アレク、学園長って若いわね」
「ふふふ、ああ見えて、実はウチの母さんより年上なんですよ」
「ええっ!?」
「若いころは、『黒き魔女』として大陸中に名を轟かせていたそうです」
なにそれ、なんかワクワクする名前ね。
ポチ(カニ)たちがいたら、中二病って突っこまれそうだけど。
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