第45話 残念美少女、褒美をもらう
この国初めての複合商業施設がオープンする日、街はお祭り騒ぎだった。
目抜き通りには大きな垂れ幕が何枚も並び、配られた国旗が家々の前を飾った。
人が住んでいない廃屋はとり壊され、街路樹は刈りこまれた。
見違えるように綺麗になった町には、とても多くの観光客が押しよせた。
宿泊施設が足りず、町はずれに臨時のキャンプ場がオープンしたほどだ。
昼前になり、街の外から、にぎやかな曲と共にパレードが入ってきた。
なんだ、あれは?
楽隊を引きつれたパレードは、数多くの騎士と、馬車が牽く山車から編成されていた。
山車の上にはキラキラ光るソファーがあり、そこにタリランさんが座っている。
彼の斜め後ろには、白いローブを着た、美しい初老の男性が立っていた。
私は、それを『アヒル亭』の二階にある自分の部屋から眺めていたが、タリラン国王と、ばっちり目が合ってしまった。
これは、まずいわね。
そう思う間に、国王が二本指を立て手招きする。
しょうがないわね。
私はマジックバッグとカニポーチを身に着けると、ドンを連れ宿の表へ出た。
「メグミ殿、どうぞこちらにお上がりください」
美老人が声を掛けてくる。
「あれ? セバスチンさん?」
彼の変わりように驚き、思わず言われるまま国王の横に座った。
ドンは国王をはさんで、反対側に座っている。
「私、この度、宰相を拝命しました」
ええっ!
名前は執事っぽいのにっ!?
ポチ(カニ)たち『突っこむところ、そこ?』
「ツブテ殿、今日はどうしても自分でお礼が言いたくてまいった。そなたが大げさな事が嫌いなのは分かっておるが、今日だけはワシの好きにさせてくれぬか」
王様は、小さなワンちゃんが甘えるような目をしちゃダメなんだよ。
もう、しょうがないわねえ。
「今日だけよ」
「おおっ! 許してくださるか」
「本当に、今日だけだからね」
「分かっておる。セバスチン、それ、計画通りに」
「はっ、陛下」
こうして、私とドンはタリラン国王の左右に座り、街をねり歩くハメになった。
◇
「国王陛下ーっ!」
「青い悪魔様ーっ!」
「きゃーっ、リアル・ドン様よーっ!」
そんな歓声が上がる中、ゆっくりと山車が進んでいく。
街中の道は、人で溢れかえっている。
なぜか、多くの人が青い紙吹雪を投げている。
「青い悪魔の伝説は、この街でも知られておるな。ワシの戴冠式は、凄かったぞ。王都中、青い雪のように、紙吹雪が舞っておった」
ひーっ、恥ずかしーっ!
戴冠式への出席をきっぱり断っておいて、ホントよかったよ。
◇
やがて、パレードは新しい商業施設の前に到着した。
大きな黒い布のようなものに覆われた商業施設は、横幅が町の一区画分あった。
セバスチンが合図すると、山車の下に控えていた黒ローブの男たち数人が、ワンドを取りだし魔術を唱えた。
それぞれのワンドから出た光が黒い覆いに触れると、それがさっと消えた。
現れたのは、石造り二階建ての大きな美しい建物だった。
綺麗な彫刻が随所にあり、磨かれた石がぴかぴか輝いている。私が目にしたどんな建物より美しかった。
「ワシとこの国の未来からのプレゼントじゃ。受けとってほしい」
ぐっ、痛いところを突いてくるわね。
国の未来から、なんて言われたら、嫌でも受けとらざるをえないじゃない。
「宿泊施設を除き、全てツブテ殿のものじゃ」
国王が、懐から出した羊皮紙を私に手渡す。
騎士たち、街の人たちから拍手が湧きおこった。
「さて、中を案内しよう」
タリラン国王は私の手を取ると、侍従たちが組みたてた階段を使い、山車から降りる。
商業施設の正面入り口にある大きな扉には、魔法陣が描かれていた。
国王は懐から指輪を出すと、それを魔法陣に近づける。
扉が両脇の壁に引きこまれる。
陛下は、私の手にカニの意匠が描かれた指輪を載せた。
「これ一つで、全ての機能が働くように造ってある」
施設の中は、美しく磨かれた石の床が続いていた。
「まず、入り口にあるこの店じゃが」
私には、それが何の店かすぐに分かった。
特徴ある〇の上に△二つのマークが、壁に描かれていたからだ。
「これはっ!」
「そうじゃ、ポンポコ印のケーキ屋じゃ」
店に入ると、真面目そうな初老の男性が頭を下げる。その後ろには見覚えがある女性店員がいた。
「ツブテ様、こちら、うちの店長です」
えっ、そうなの?
「ツブテ様、この度はわが命と店を救っていただき、誠に感謝しております。ご恩は、一生かけて返していくつもりです」
初老の店長さんが、頭を下げたままそう言った。
「気にしないで、私は美味しいケーキが食べられるだけでいいの」
「うん、そうだよね、お姉ちゃん」
ポンポコ印のケーキが好きなドンも、私と同じ考えね。
「ウチにいらっしゃれば、いつでも無料で好きなだけケーキが召し上がれるよういたします」
「だめっ! それは、絶対にだめっ!」
だって、確実に太っちゃう!
当惑した顔の店長を後に、私たちは別の店に入った。
◇
「あれ? レンさん?」
そこにいたのは、私もよく知る、服屋を営んでいる女性だった。
美しく飾られた店内には、おしゃれな服がたくさん置いてある。
元々の品揃えを一新したようだ。
「ツブテちゃん、こんにちは。あなたの知り合いっていうコネをフルに使って、無理やり店舗を出させてもらったの。私、自分が美しいと思うものだけを売る、こんな店が一度やってみたかったんだ」
お姉さんは、素晴らしい笑顔だった。
喜んでくれているならいいか。
「素敵な服ですね。私、必ず買いに来ますから」
「ありがとう、待ってるわ、大家さん」
そう言えば、私がここの大家さんになるのか。
なんか、実感が湧かないわね~。
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