第5部 残念美少女、合戦する
第39話 残念美少女、指名手配される
王城、玉座の間にある窓から空へ飛びだした私たちは、タリランさんが幽閉されている館に寄りお城であったことを報告してから、『アヒル亭』がある街まで帰ってきた。
窓から部屋に入ると、早速、ドンにスキル鑑定を頼む。
「あ、魔闘士レベル4だって。お姉ちゃん、凄いね!」
思わずドンの頭を撫でてやる。
全く、よくできた弟だぜ、ドンは。
「今度の呪文は何?」
「ええとね……」
『ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し♡』
「なんじゃ、そりゃ……」
「だけど、お姉ちゃん、この呪文、詠唱するのが凄く難しいよ。だって、『ご飯にする?』と『お風呂にする?』の間に一拍おかなくちゃいけないし、『あ・た・し』の所でも、半拍ずつおかないといけないからね」
なるほど、さすが魔術の達人だけはある。
これは、詠唱の練習が必要だな。
そのとき、ノックの音がした。
「はい、どなたですか?」
◇
入ってきたのは、おかみさんとマイヤーンだった。
「ドン様~、寂しかった~」
ダメ妹属性と化したエルフは、ドンにしなだれかかっている。
「ツブテちゃん、あんた、何したんだい? 兵士風の人が、血相を変えてあんたを探してたよ。頼むから危険な事だけはやめておくれ!」
「はい。心配してくれてありがとう」
二人に王都で買ってきたお土産を渡した。ポンポコ印のケーキは買えなかったが、焼き菓子やプリンを買っておいたのだ。
女将さんもマイヤーンも、喜んでそれを食べていた。
◇
次の日、朝風呂に入った私とドンは、ギルドまでやってきた。
久々に、討伐依頼でも受けようかと思ったのだ。
掲示板の前でドンに依頼書を読んでもらっていると、入り口からグラントさんが飛びこんできた。
「お、おいっ! てえへんだっ!」
慌てるグラントさんを尻目に、『赤い稲妻』のパーティメンバーは、落ちついたものだ。
「リーダー、あんたいつもそれだからなあ」
「そうそう、いつものことだから大変じゃないよ」
「全くだ」
「いや、今回はマジで
えっ?
私?
「こ、これを見てくれっ!」
彼が手に持っているのは羊皮紙のようなもので、誰かの顔が書いてある。
グラントさんが何か唱えると、その顔が動きだした。
「私ハ、レイチェル姫ヨ! ケーキ ダイスキ!」
目が吊り上がった黒髪の似顔絵が口を動かすと、そんな音が出た。
「動画指名手配とは、国も本気だぜ。嬢ちゃんも黒髪だから気をつけな。間違って狙われるかもしれねえ。なんせ、賞金は金貨百枚だぜ」
えっ!?
それって……日本円で一億っ!
いいね。
討伐はやめて、賞金稼ぎやろう。
あれ?
でも、絵の似顔絵がなにか言ってたわね。
……レイチェル姫。
……レイチェルっ!
もしかして、私の偽名?!
「どうやら、こいつ、ケーキにもの凄くこだわってるらしいぜ。国中のケーキ屋は、こいつ目当ての賞金稼ぎであふれてるそうだぞ」
げっ!
ケーキ屋さんに行けないじゃん、私。
どうしよう。
◇
ゴリラバッグに入れていたフード付きローブを被り、銭湯に向かう。
当然、ドンにもフードを着せてある。むしろ、彼の方が目立つからね。
銭湯には沢山の人が来るから、あまり行かないほうがいいだろう。
そのため、今のうちに業務連絡を済ませておくつもりだった。
あれ?
銭湯の前に、人が集まっている。
兵士風の男たちもいる。
「お姉ちゃん、前にケーキ屋さんの前で、お姉ちゃんがやっつけた人たちがいるよ」
やばい!
これでは、銭湯に顔が出せない。
私たちは銭湯の前を素通りすると、『アヒル亭』に向かった。
あと少しで、『アヒル亭』だという所で、帽子を目深にかぶった男が私たちに近づいてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます