Ⅱ あんたなんか、もう二度と会いたくないわ。
査証の交付が終わり、
電話をかけたものの、何度呼び出し音が鳴っても
仕方がないので、
アパートの階段を昇り、勢いに任せてその部屋のドアを開ける。鍵はかかっていなかった。土足のまま駈け込んで、声をかけた。
「
1DKの狭い部屋だ。かすかに煙草の臭いがする。
壁には――コスプレに使われた錫杖が立てかけてあった。
熾子は錫杖を手に取り、念仁の尻を思い切り叩いた。
「
熾子は皮肉に笑んでみせる。
「
「チ、
「
熾子は錫杖の尻でどんと床を打ち鳴らした。それから、念仁のコスプレ画像に行き着いた経緯を一気にまくし立てた。罵声を吐いているうちに、なおのこと頭に血が昇ってゆくのを感じた。
「
スマートフォンを取り出し、画面を念仁に突きつける。
「
「
イルペの会員は全てハンドルネームを持っている。特定のユーザーが、今までどのような書き込みをしてきたのか、どのようなスレッドを建てたのかも全て検索できる。
ゆえに、熾子は念仁のハンドルネームで検索をかけたのだ。
「
「
念仁は白々しい釈明を始めた。
「
言い終えないうちに、熾子は念仁の頭を錫杖で殴りつけた。
「
念仁は頭を抱え、うづくまった。
「
最終的にテレビを投げようとし、両腕で持ち上げる。しかし、その直前に念仁と目が合った。目を
テレビを下ろし、吐き捨てるように言う。
「
念仁の顔に狼狽の色が表れた。
「
「
「
ここ三ヶ月ほどの記憶が頭をかすめる。けれども、とにかく拒絶しなければならないと思った。
「
心残りがなかったと言えば嘘になる。その気持ちを振り払うように
ドアノブに手を掛けたとき、恨めしそうな声が聞こえてきた。
「ああ――
熾子は足を止めた。しかしそれも一瞬のことであった。ドアを開け、外へと踏み出す。冷たい外気が頬に触れた。ドアノブを振り払い、一歩二歩と部屋から離れる。
ドアが閉まる直前、念仁の叫び声が聞こえてきた。
「
ドアの閉まる音がした。
熾子は背後を振り返る。
視線の先には、異様なほどの静けさが落ちていた。
腹立ちまぎれにドアへと近づき、どしんと蹴った。
どこからか、さっきからうるせぇぞという声が聞こえてきた。
無性に遣り切れない苛々した心を抱えつつも、帰路を急いだ。
*
その日から――だった。
その日から――どういうわけか熾子の髪の毛と瞳の色が
熾子は――名実ともにキムチ女となった。
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