第15話チェゲバラ

サトルはその店に閉店間際に行ってしまうこともある。会社の人と飲んだ帰りに梨奈のいる「野菜雲」で飲み直したいなと思ったのだろう。夜の12時にその扉を開けるとさっそく梨奈がいた。

「おおっ。あれ、お店12時までなんだよ〜」

「そうなの!?知らなかった。」

実際、本当に知らなかったので、それなら、おいとまさせてもらうしかないと思った。

しかし、あおねさんという女性店長が

「料理は終わっちゃったのですが、すこし飲んで行きますか。」

というので、シラフのサトルなら謙虚に遠慮するところなのだが、酒が入ってハイテンションなサトルは二つ返事でウーロンハイをもらっていたのであった。


料理長のノブキさんがカウンター越しから出してくれる。この人はイカしたロックバンドのベーシストといったところか、ルックスはチェゲバラみたいなオーラのある人だった。

梨奈は後片付けで床のブラッシングや、なにやら忙しげに動き回っている。そのあいだサトルはノブキさんと話していた。

「名前はなんて言うの?」

「サトルです。」

「結婚は。」

「してますよ。」

「えっ。」

ノブキさんが梨奈を見る。

「梨奈さんには言ってありますよ。」

「年はいくつ。」

「s56ですな。」

「一緒じゃん。」

「同年代イェーイ!」

あっという間に一杯空けてしまった。「もう一杯だけ飲みますか。」

そのジョッキを受け取っている間にも、もうサトル以外のお客さんはみんな帰って店内はサトル以外、ノーゲストになった。

薄暗い洒落た店内の照明が明るくなる。

「ここからはもうお客さん扱いしないからね。」

笑いながら梨奈は少し一段落したようであった。「私も一杯いいかなー。」もちろん「良いよ」と快諾しつつテンションの高いサトルは「あおね店長もノブキさんも飲もー。」と気前よくはしゃいでしまうのであった。


サトルは時々この「野菜雲」に顔を出し、他のメンバーも覚えてきた。だかやはり目当てが梨奈である事は間違いなかったので、野菜雲に行くときは梨奈がいるかどうかLINEで確認していた。


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