第7話 彼の理由②
勇者の暗部って、聞いていい話なのかどうか迷ってしまう。しかし、避けて通れないとも思った。ここは腹を据えて話を聞く事にした。
「勇者がどうして暗部なのでしょうか?」
「話は長くなる」
そう言ってヘイゼルは語り始めた。
「人間とはな、個々の力は弱いのだ」
「ええ。そうだと思います」
「しかしな、集の力は侮れん。知恵を使い、戦術を組む。これは厄介だ」
「そうなんですか?」
「そうだ。厄介だ。しかし、個の力は劣る。ここで人間は個の限界を超えたいと願うのだ」
「超人にあこがれるみたいな感じですかね」
「そう。そこで伝説が生まれるのだ」
「伝説というのは、事実に基づいているのではないと?」
「いや、一般には元になる事実があって、それが伝説となる場合が多いように思う。事実と伝説の間に乖離はあるにせよな。しかし、グラスダースの伝説は事実ではなく願望だ」
「それはどういう意味ですか?」
「当初は王家に箔付けする為の嘘だったのだ。それだけで済ませておけば良いのだがな。彼らは禁じ手を使った」
「禁じ手とは?」
「まあ、錬金術と黒魔術を掛け合わせてな。人の姿をした化け物を作ったのだ」
「改造人間みたいな?」
「おお、良い言葉だな。改造人間とな。まあそういう事だ」
「要するに人体実験ですよね。ヘイゼルさんの世界でも忌避されるべき事なのでしょうか?」
「そうだ。天の道に背く愚かな行為だ」
「それで、その改造人間はどうなったのでしょうか?」
「ああ、それだ。それはグラスダースでも手に負えない化け物となってな。その討伐戦は凄惨であった」
「人間同士の殺し合いだから?」
「ああ、そうだ。それにな。その改造人間が強すぎたのだ。グラスダースは我ら竜神の国ラグナリアに援軍を求めてきた」
「それで、助けに行ったんですか?」
「ああそうだ。我らは人間に援軍を送った。かなり損害が出たようだが何とか事態は解決したのだ。非常に恐ろしい相手だったと記録されている。百年ほど前の話だ」
なんかすごい話だった。
ゴジラみたいな生物兵器を作っちゃって手に負えなくなったから、人間と竜神族で共同して倒したというような感じかな。これだけで映画一本分作れそうなストーリーだ。
「それでどうなったんでしょうか?」
「ああ、人間側はその技術を封印した。そして勇者学園なるものを作り精神的な勇者を育て、王国の後継に充てるよう方針転換したのだ」
「さっき来ていた勇者見習いのイチゴさんは、その勇者学園の生徒さんですか?」
「その通り。大賢者の所へ弟子入りし、家事手伝いをこなしつつ勇者学園に通うドジっ娘がイチゴだ。何故知っているかというと、我はイチゴを監視していたのだ」
「どうして監視など……」
「それはな。イチゴは王族でな。我の婚姻候補の一人なのだ。本人は気づいていないようだが、アレは王族なのだ」
「田舎で暮らしていたといってましたね」
「そうだな。妾やメイドに産ませた子は田舎でひっそりと育てられることが多いのだ。そんな彼女が妃の候補に挙がっている」
「なんだか腹黒い陰謀のようなモノを感じますね」
「ああ、何かあると踏んでいる。本来なら正統な王女を嫁に出すべきだと思うがな」
「ところで、ああいうぽっちゃり系のドジっ娘タイプがお好みなのですか? メガネをかけると完璧な気がしますけど」
「外見など関係ない。政治的な要素が重要だからな」
忘れていた。政略的な結婚なんだ。外見とか性格とかそんな好みが入り込む余地はないんだ。
「ヘイゼルさん。申し訳ありません。恋愛要素の無い結婚なんて自分には想像できなくて。ごめんなさい」
「まあ気にしなくてよいぞ。これ内緒だがな。本当に内緒だぞ。口外すれば貴様の首を絞める」
「何でしょう?」
「ぽっちゃりドジっ娘のイチゴは我の好みのタイプである。良いか、しゃべるなよ」
「分りました」
俺は何故か土下座をしていた。
しかし、竜神族といえども女性に対する恋心はある事が分かった。
「壮太。もういい面を上げろ」
「はい」
「あと一つ、重要なことがある」
「まだあるんですか?」
「ああそうだ。イチゴが弟子入りしているという大賢者だがな」
「はい」
「あ奴の一族が、例の技術を封印しているのだ」
「マジですか?」
「マジだ。まあ、ここまで話せばわかったであろう。我の悩みがな」
「ええ。分りました」
単なるマリッジブルーではない。大きな悩みだという事が。
ヘイゼルさんは結婚騒動に巻き込まれるであろうイチゴを気遣いここへ来た。その結婚騒動には王家の人間関係と過去の封印された怪物が絡んでいる。
「では改めてお願いする。壮太、我を居候させてくれ」
「わかりました」
こうして竜神の国の皇太子ヘイゼルが俺の部屋に、勇者見習いのいちごが葉月の部屋に居候することとなったのだ。
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