SHINGA ー機獣惑星《アマログわくせい》ー
王叡知舞奈須
プロローグ:fromくじら座タウ星e
『今すぐ武装を解除し、そこから離れよ』
密室となった揚陸艇のコクピットで作業をする中、通信越しに警告を言い渡される。
そんな中でもなお、青年───マモル・スルギは応じることもなく作業を続けていた。
『スルギ大尉』
「……俺の要求は、計画を今すぐ中断することだ……」
自らの名を叫ばれ、痺れを切らしたマモルはようやくそれに応じた。だが、
『移民計画は委員会の決定事項だ……今更、中断などできない。』
「───ふざけるなァッ!!!」
否という答えに怒鳴りながら、マモルは
その画面に浮かぶのは、三つの巨大な渦を抱いた、大気が茶色く濁りきった惑星。
くじら座タウ星系 e号惑星───彼らの搭乗する恒星間移民船【アルバトロス】の移民予定の惑星であった。
「大気成分はおろか……気圧に地表推定気温、その他の数値も想定どころか最低基準値すらかけ離れていた!! とてもヒトが住める様な環境じゃないッ!!!」
立て続けにデータを送信するマモル。
赤道推定最高気温 69.7℃
極地推定最低気温 -207.6℃
推定大気圧 10.7~7,135.8kPa
推定大気成分:二酸化炭素96.1%、窒素2.8%
データだけでもそれは、彼等がかつて住んでいた惑星と比べ物にならない程にかけ離れていることを察するには充分過ぎた。
それどころか物理学的に有り得ない状況すら数値上で確認されている。
「こんな惑星に同胞を送るだなんてどうかしている……!!!」
『貴官の行為は反逆罪になるぞ!!!』
「反逆罪……? 俺が反逆罪なら……委員会の連中は殺人罪だッ!!!」
『―――言葉を慎め、大尉ッ!!!』
「異常なデータの真偽を確かめるとか何とか都合の良いホラを吹いといてッ!!! 奴等は爺さん婆さんを乳母捨て山に捨てようと───!!!」
完全に感情的な口論に移り変わろうとしていたそこに、
『よさんか、マモル』
「───じいちゃん……ッ!!?」
別所からの通信が割り込んできたのだ。
これから揚陸艇へと乗り込もうとしたタウe調査団───そのリーダーとなっていたケンゴ・タニ。マモルの育ての親とも言える初老の男性だった。
『わしらは、自ら志願したんじゃ。それは本当じゃ』
「───諦めちゃ駄目だッ!!!」
死ににいくのと同義の役目を果たさんとする彼に、マモルは感情委せに怒鳴り付ける。
「諦めたら……そこで、終わりじゃないか……ッ!!!」
『奴から逃れて、もう二十年……
そんな彼を、ケンゴは諭す。
『正直、もう三食コーヒーゼリーはしんどいのじゃ』
コーヒーゼリー───それは【アルバトロス】船内で支給される、カロリーのことしか考えていない様な合成甘味料とデンプンの塊に申し訳程度の香料が入っただけの代物。
『若者にゃ耐えられるかもしれん。だが……もうこの歳じゃ受け付けんのじゃ。
長い航海で積もってゆく疲労も、コーヒーゼリーのカフェインも……』
優しい声音が響く中、「だけど、だけど……ッ!!!」と唸るマモル。
見つからなかったのだ。マモルには、ケンゴを説得し返せる言葉も、道理も。
『だから、もういいんじゃ……どんな土地でも良い。
せめて、地上で最期を迎えたい』
「じいちゃん……ッ!!!」
その説得により敢えなく、マモルは揚陸艇を引き渡し投降することとなった。
当然ながら彼は獄中に投げられ。遅れながらも予定通り、タウe調査団は彼の惑星へと送られていった。
「うあああああああああああああああああ」
独房の中。己が無力さに一人嘆くマモル。
地獄の体現とも言える惑星に飲み込まれていく揚陸艇。
「……何故……俺達は、奪われる……何故……ッ!!!」
それは悔しさか。譫言の様に呟いていた。
そうして旅立っていった彼等が、二度と帰ってくることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます