うまれてほしくなかった運命の子♀

むとうゆたか

うまれてほしくなかった運命の子♀

武藤ゆたか




だれが、名前を決めるのだろう?

神だろうか。両親だろうか。

運命だろうか。導きだろうか。

呪われた死を意味する、名前なのだろうか。


 イザナは、ぼやいた。

「おれにはよう、いい彼女は、

できないのかよう」

その日はトランプ大統領が

就任した日である。

部屋は湖畔の湖のように、静まりかえり、

なにも応えなかった。

「誰もいないか、おれには」そう言うと部屋を出ていった。

なにかクスクスクスクスと、声が聞こえる。


 アマテは運命という言葉が嫌だった。

「未来はかわる 。変えられるのは未来だけ」

そう言うと、納豆をもぐもぐとご飯を食べた。

朝の風景は冷たく、ミゾレのように冷たい。

身体に突き刺さるようだ。エグルように。

アマテは近所のお店の店長さんに挨拶した。

やがて道の中を保育園の籠が通り抜けていく。

ツクヨは学校へ向かっていく。

机の上で眠り込んでいた。

スマホがブルっと唸る。

「何だ?」

気になって開いてみた。

<新サービスです、結婚マッチングが始まりました!>

「おうおう、かわいらしいサービスじゃんなんだろ」

イザナはボタンを押した。

<このサービスは、出会いから結婚までSNSが、

コーディネートするサービスです>

<あらゆるデーターから両者をマッチングします>

「へーいくらだ」

<なんと全部お任せいただければ、

0円で行います>

<加しますか?>

「えーいやってみるか」

とアマテはボタンを押した。

きーーーーっと鴉が叫んだ。怯えるように。唸るように。


 アマテは大学のランチで、のんびりしていた。

周りの学生はなぜか、みなスパゲティーの山盛りを、

食べていた。ガツガツガツガツと。

<ポロン>

「うん? なんだろ」

ツクヨは、スマホを開けてみた。

<素晴らしいお相手が

見つかりましたよ>

<性格やルックスが

好みと合っています>

<さっそくメッセージを

出してみましょう>

アマテは、ちょっとためらったが打ち込んだ。


<ぜひお会いしたいですよろしくおねがいします>


 <ポン、ピュー>

という音とともに、相手に送られた。

ガッガーーーーッ、突然窓の外に、人間が落ちて、

頭蓋骨が、血だらけで潰された。自殺だろうか。

みんな学生が、窓に集まっていた。

「怖いね」みんな呟いていた。

救急車呼んで!!!!誰かが叫んだ。

みんな叫んでいた。


 <ブルル>

イザナは、手にスマホを開き、画面を凝視した。

<素晴らしい相手が見つかりました>

<容姿と性格がぴったりですよ>

<さっそく連絡を、申し込みましょう>

「いたれりつけせりだな。まるでコンサルジュのようだ」

イザナは、画面を観ると、そこには写真と、プロフィールが

映し出されていた。なかなかかわいい。性格も、

希望と同じだ。すごい。

「申し込もっと」とボタンを押して、送信した。


 巡り合わせというものは、運命的な操作を繋げる。

普通じゃ巡り合わないものを、結びつける。

その選択がみんなを変えるのである。イザナはこの時ある女性と、

繋がったのだ。そして歯車は動いた。ガタンゴトンと。ウンウンと。


 イザナは、勝負服にピンクとキミドリ色のパンツを、こっそり見えないように着替えていた。これは偶然にも、

アマテの、パンティも同じだった。偶然にしては不思議だ。なぜだろう。


 イザナは、学校には行かず、公園に行った。

公園は、親子連れの園児や、球技をやる人たちで、あふれていた。

ベンチに座り、ぼーっとする。

本を取り出し眺める。するとまたベルが鳴った。

「なんだろ、はやいな」

ポケットから、ゴソゴソと重い木の実を取り出すように、

スマホを、開いた。

<相手さまから返事がきました。来月の8日の13時16分に渋谷のモヤイ像

まえでいかがですか? >とメッセージが、映っていた。

<いいよボタンかお断りボタンを押してください>

イザナはふうっと溜息をした後にどうするか考えた。

でも直感で、<いいよ>ボタンを押した。

<ビューッ>と音がして、

彼女に送られた。

「あとは人工知能と、神さまに願うしかないな」

イザナは軽く選択した。

突然少年の砂の塔が崩れた。

まるでバベルの塔みたいに。ガザっと。

「うわーーーー」男の子は泣き出した。「うわーーーー」

イザナは怖くなりその場を離れた。童っだろうか。水子だろうか。


 アマテはスマートフォン眺めていた。

気になるプロフィールが

送られてきたからだ。

ルックスも性格もどまんなかのストライクだった。

「どうしよーかなー」


『チャンスが来たら掴め』


 なにか声が聞こえたきがする。

「えいっ」

と申し込みボタンを押した。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

と書き記した。

<ビューッ>

それは鉄砲の玉のような叫びの、

音をあげながら、送られた。

夜は静かだ。

「送っちゃった~レポート書いて

寝よっと」

アマテはそう呟くと、深い湖の底に沈むように、布団に沈むように、

潜った。遠くでフクロウの声が聞こえる。ホウホウと。不気味に。


 イザナには神々が与えた使命があった。それは本人にはわからなかったが、重要だった。それは「人間を昇華救済させること、人間を軟着させろ」というものだった。表向きにはー経済を発展させるように知恵を絞れーという難題だった。本人には伝えられていなかった。そのスプリットした、思考は本人にはかなり負担だろうが、日々こなさなくてはならなかった。そしてーーーーこれはもっとも難題だったが、『子どもを産むこと』ーーーー。これがさらにあった。


 アマテは山登りに出かけた。シナイ山ではなかった高尾山である。

友達のツクヨといっしょだった。樹々が揺れ、美しい光景だった。

山の頂上に着くと、

スマートフォンを開いて、上に伸ばした。風景を撮るためだ。

すると、雲が、雲がみるみる湧いてきて、アマテの頭上に、

かかった。するとガチッとスマートフォンに文字が出てきた。

「なんだろ?」

ツクヨはその画面を見た。そこには、「掟」と書かれた、

文章がシンプルに並んでいた

「うん?アマテ、変だよこの文章見て見て」

友達とその画面をみた。そこには、


「宇宙との自然な調和をすること」

「お金を変えること」

「人間から欲望を取り去り、高度な生物に脱皮すること」


 と書かれてあった。

「なにこれ、わかんないーーーー」

アマテは戸惑った。

「保存しとこっ」

<ピッ>とボタンを押した。

風が起き強風となってツクヨとアマテの

周りを吹き付けた。周囲はすっかり薄暗くなった。

遠くで稲光がなった。怖い。

「なんだろ、怖いね。暗くなった」

「うん、帰ろっか」

「そだね」

そう言うと、アマテ達は帰宅の途についた。


 イザナは船のプラモデルの前にいた。

「買おっかなーーーー」

迷っていた。

「えいっ」

そしてレジに向かった。途中に動物と人間のフィギィアを見つけ、

カゴに入れた。あとなぜか<図鑑>が気になり、

籠の中に入れた。

「ありがとうございましたーーーー」

それは大きな木造の船の模型だった。

レジが終わった瞬間、周囲がザワッと動いた。怖い怖い。

袋をよいしょと背負うと、

イザナは人混みをかき分け、自宅にむかった。


 その準備ができた頃、世界がかわった。イザナの、

行為により、<イージーモード>の世界になったのであった。

画面を観ると、ポーカーの人が< 2 >を見せていた。

ニュースに番組を変えると、キャスターが< 2 >番目に死者が出たとかいい、奇妙なのである。風が強くなり、どこにいてもプレッシャーがない。イザナにはわからない裏側での、神々の操作であった。


 イザナは、<ドラクエ5>というゲームを、

やっていて、いまその主人公と結婚のシーンだった。ビアンカという、女の子とフローラという女の子をを選ぶのだ。

「えいっ」

と金持ちのお嬢さんのほうを<選び>決めた。そしてその

ゲームを終えた。カチッ、針が進んだ。不気味に。カチリ。カチリ。


 さっそく、イザナはデートの段取りを進めた。全部コンピュータがやってくれた。糖制限のレストランの予約や道も、待ち合わせ時間も設定してくれた。はじめてのデートは、渋谷のモヤイ像前に2時に、

決まった。

「さあ、いくぞ」

イアザは呟いた。


 モヤイ像前にアマテは待っていた。顔は事前に知っていた。

「初めましてーアマテさん?」

おっ以外にいい雰囲気の人だな。感じがいい。

「アマテです、イザナさん?、はじめてまして」

「すげーかわいいな。2番目くらいだな」

アマテは少々驚いた。

「じゃあ行きましょうか」

「はい」

小指がちょっと触れた。電流が通った感じがした。


 キキーーーーボンッと車が人を跳ねる音がして、叫び声が周囲に

轟き、血だらけの窓ガラスをみて、周りの人々が集まってきていた。

そんな事件も渋谷の喧騒の中で、紛れていってしまった。

イザナは、そんな光景を傍目でみながら、

アマテと歩いていた。

「どこいきます?」

「ど、どこでもいいですよ」

「じゃあ、スマートフォン推薦の糖カットの、

店に行きますか」

「ええ、そうしましょう」

店は、大きなビルの2階にあった。上をみると

天井が高く、南国にある回転プロペラがゆっくりと、

旋回していた。テーブルは明るい色の机で、

おおきい。そこにちょこんと座った。

 イザナは切り出した。

「お互い趣味の部分が合ってましたよね」

「ええ、コンピュターは凄いですね」アマテは応える。

そこで注文することにした。

僕はサーモンのバターソテー。それとペリエ。

私も同じものをと注文した。偶然に食べたかったのだ。


  もぐもぐと食べながら、お互いのことを

語りあった。軽い興奮がそこにはあった。

直感が互いを引き合っていたた。胸がドキドキしていた。


「なんか心配したんですけど、いい人ですね」イザナがポツリと呟くと、「わたしも。なんかよかった」アマテが呟いた。

「なにか、縁ができたような」

「また会いましょう」イザナは呟いた。

互いに笑顔で別れた。スマホのアドレス交換をした。

階段を降りると、犬を連れた女性が笑顔で通り過ぎた。

まるで遠ざかる客船のようにゆっくりと。

叫び声が遠くで聴こえる。断末魔のように。呪いの歌のように。


 こころに暖かいものを抱えつつ、アマテは

家にかえった。

「ただいま」

「どうだった?今日の人?」と母が聞いた。

「うん、いい人そうだったよ」

「そう、じゃあいけそうね」

「まあ、なんとも」苦笑いを浮かべて、

そう言うと、アマテは自分の部屋に戻った。


 イザナはニュースを観ていた。

『朝鮮半島の緊張が高まっています』

『イスラエルとハマスでは再度攻撃がありました』

『オフショアの預金が全て明るみに出て、課税されるようになりました』

『政府公認の減価する仮想通貨が発行になり、

現金がなくなることが決まりました』

『騒音、ノイズが禁止されました。騒音法の

発令です』

『肉体と精神に対するプレッシャーが禁止されました』


「なんかこう、明るいニュースはないもんかねえ」

そうイザナは呟いた。そとでは月が見詰めるように

輝いていた。なにかーーーーそうなにかを企んでいるように。


 初めてのデートを無事終え、イザナは部屋にいた。

そこでおもむろに、塔を作り始めた。黙々と。

天井まで向かったところで、その塔は、

崩れてしまった。その瞬間、スマホが鳴り、

<あらゆる言語の統合がなされました>

というニュースが画面に映しだされていた。

「うん?、なんだろ」と画面を観ていた。

イザナが知らないところで、世界は変化しつつあった。


 アマテは今日遭ったイザナのことを思っていた。

「いい人そうだなぁ」

なにか胸に暖かいものが残る、不思議な男性だ。

<ピロッ>

スマホから連絡があった。

<またお逢いしたいです。今度は原宿の代々木公園いきませんか?>

アマテは嬉しくなり、

<ぜひ。いきましょう>

と返事を送った。

「また逢える」それだけで、アマテはドキドキした。

夜の漆黒の闇は更けていく。


 イザナには考えていることがあった。

それは、目の前の船の模型になにを載せるか

ということだった。やはり、この世界の

全てを入れておくほうがいいかと思っていた。

「うん、やっぱ」

そういって、全ての動物の模型と、鳩、食料の模型

をいれた。船の模型の扉をパタンと閉じたとたん、

<韓国政府発表で、北朝鮮国と統合することが発表に

なりました>とニュースが流れた。

<若いままガンもならず、年をとる遺伝子解析による

新薬が発明されました>

そして最後に、

<新しい資源、フリーエネルギーが発見されました。

このエネルギーは空気を汚さず、尽きないようです。

すぐ実用化できるとのことです。さらに反重力推進装置も、

開発されました、これは画期的です>

と流れた。

「うん?画期的な技術のニュースばかりだのう」

とイザナは横になり「ふうっ」とため息をつく。

テレビ画面には爬虫類イグアナの生態が流れていた。


 代々木公園は原宿駅の近くにある大きな公園である。

外人と若者であふれる、貴重な場である。明治神宮が

近くに深い森をたたえている。イザナはそこに向かって

いた。


「よう、待った?」

「ううん、ぜんぜん」

かわいいな。イザナはそう思った。

「近くに公園があるんだ。いかない?」

「そうだね。いこう」

と公園に向かった。


 公園には様々な人々がいた。なんかの若者のサークル、

老夫婦、子どもと遊ぶ夫婦。外人も多かった。

樹々がざわめいている。


 イザナとアマテは近くのベンチに座った。

日陰になるとこだ。ちょっと涼しい。

「ねえ、君はどんな世界になるといいと思う?」

「うん?わたし?そうだなあ。戦争が無い世界かな」

「そうか、オレもそう思う。おれは格差が少ない、

差別の少ない世界かな」

「お互い叶うといいね」

「ふふっ」

そう言うとイザナはズボンのポケットを軽く叩いた。

「ぼくがドラえもんなら、できるけどね」

「ふふっ」

互いに目があった。自然に顔が近づく。

アマテが目を閉じた。イザナは勇気をだして、

顔を近づけ、唇に触れた。


『ちゅっ』


 まるでとろけるようなゼリーのような感触が全身を

ビリッと流れた。アマテは胸が締め付けられた。

その瞬間、公園の鳥たちがまるで急ぐかのように

バサバサバサバサっと全部飛んでいった。

遠くで、稲妻が轟いた。雨が降りそうだ。

互いに手を繋いで公園をあとにした。

テクテクてくてく。テクテクトコトコ。

左足を引きずる老人が通り過ぎていく。

<イスラエルとパレスチナ、中東諸国で永久不可侵和平条約が

結ばれました>

とスマホには流れていた。凍りつく静けさを伴って。


「なんかやだーーーー!!」

アマテはドキドキする自分が恥ずかしく、つい叫んでしまった。

初恋なのである。そう私にとってファーストキスなので、

ある。奪われてしまった。私の大事な唇を。

どっかの映画に、


『奪われたのは貴方のこころです』


 と言うセリフがあるけど、あのまんまだ。

もう奪われてしまったのだ。心も唇も。くそぅ。


 髪を整えて、リップを塗り、肌の化粧をすると、

「えいっ」と今日も出掛けた。

大学の講義室につくと、いつもの友達、ツクヨが

いた。

「で、どうなのよ、い、ざ、な、くんとは?」ツクヨが聞く。

「うーん、ボチボチかな。ほんとよ、ぼちぼち」

「へー怪し。顔が紅い。照れてるじゃん」

アマテは思わず顔を伏せた。

「まあ、がんばってねー。おふたりさん」

ツクヨは大笑いしていた。猫が窓側で笑っているような気がする。


 イザナはおかんとテレビをみていた。

<ブロックチェーン貨幣が空前のブームです。減価する政府公式通貨として、

世界各国で発行されるようになりました>

<みなさんのアプリでやりとりできるようになります。

安全で秘匿されますのでご安心ください。減価いたしますが、

政府公式通貨として保証されますので、安心してお使いください>

<また、日本政府は独自のOSを持つことになりました>

<株式市場が全世界から無くなります>

「おかん、これなに?」

「私もよう知らん、なんだろね」

「解説者が、現金なくなるって言ってたよ。

しかも減っていくとか」

「そりゃ、やばい、やばいな、銀行行って相談してくるわ」

「おかん、おかん、オレにも教えて」

「わかっとるって」

イザナはなにが起きようとしているか、理解できず、

事態は、風雲急を告げていた。

「減価する電子貨幣か。こずかい増えるかな」

そんなことくらいしかわからなかった。

遠くで獲物を喰った、血だらけの狼の遠吠えが聞こえたきがした。

オオオオッーーーーン。おおおおっーーーーん。


 この時、大きなリスクをイザナとアマテは抱えていた。

大きな石が開いてから3年と2ヶ月。バブル経済の再来とともに、

次の石が開くまで時間がなかった。どうしても、

人類を、軟着させなければならない重荷が、この若いカップルに、

かかっていたのである。『救済』という重荷が。まるで10字架にかけられて

いるような重荷を。

 

 風がウオンウオンなるとき、それは訪れつつあった。

人間の様子をみていた、動物たちと精霊と神がいよいよ、

怒り出したのである。静かな1000000000000候から、始まった。

海面が少しずつひきはじめ、微量地震が始まったのである。


 イザナは模型の船造りをやっていた。

「伝書鳩がいるな」

鳩のぬいぐるみをなかに忍ばせた。

あとはすべていれた。もてるぜんぶを。

「よし」

その船の模型を自宅の風呂場の湯船に浮かべた。

ただそれだけの行為だったが、それがギリギリ間に合ったのである。


 アマテは近くのコンビニが無人レジになったり、

ロボットが増えていることに、なにか不満だった。

「便利だけど、人のぬくもりがないわよね」

でもこの発達は仕方のないことかもしれなかった。

そして、生活の苦しい友人と貧困者を救う非営利団体に、ポチッと

アプリから送金した。

「わずかだけどいいわよね」

ただ、空が荒れはじめていた。イナビカリが聞こえる。世界に轟かすように。


 イザナとアマテは、次に会う予定を建てようとしていたが、

アプリがすべて提案してくれていた。

<次は、カフェから公園はいかがでしょう>

「うん、いいな」

イザナはハイボタンを押した。アマテも押していた。


 原宿駅の改札は混んでいた。

日曜日だけあって、観光客も多い。

唄をうたっている人や、パフォーマンスをする人もいた。

「こんにちわ、イザナくん」

「どうもです」

イザナとアマテは挨拶をかわした。

初々しさが互いに香る。

照れながら、そっと手を繋いだ。

ギュっと。アマテが下を向いた。


 手を繋ぎながら、原宿駅近くの

ドトール関連のエクセルシオールに、

入る。

ふたりはなぜか、同じアイスティを

頼み、席に座った。

窓からは道をあるく人たちが通り過ぎていく。若い人が多い。

「このサービス便利だね、なんでも決めてくれる。」

「うん」

「でも自由度も高いよね」

「そこがいいかも」

「ねっ」

公園の中を歩いていく。誰かに観られているきがイザナには常にあったが、きにしないでいた。


  芝生の上に、寝転がった。

「うーっん、芝生は気持ちいいねえーー」

「わたしも、うーーん、きもちいい」

そうしていると、いつのまにか周りに鳥たちが

集まって囲まれている。

「うん?、エサはないぞ」

そう言うと、鳥たちといっしょに寝た。


 遠くでこどもたちが、ライトセーバーの模型と侍の刀の模型でちゃんばらごっこをしていた。本当にグイングインとレーザーが光っていて楽しそうだ。

ベンチに座った女の子は、ショボン玉を<ぷーーっ>と

膨らましていた。

サークルで球技をしている、若者も

いた。みんな楽しそうだ。


 イザナは木々の近くに行った。

そこに、蛇の抜け殻と、リンゴが

落ちていた。それを10い、鞄に

しまった。

「リンゴが落ちていたよ。誰かの

忘れ物かな?」

「いいんじゃない、持っていっても」

とアマテは応えた。結局食べなかった。


「イザナさんは将来なんになりたいの?」

アマテは聞いてみた。

「うーん、王様。星のおうさま」

「どひゃーっ、大きいね」アマテは笑っていた。

「わたしわね、王様の奥さま」

「はははっ、できるかな?」イザナが笑った。

とおりに犬を散歩する夫婦が通り過ぎる。


  空が雲が多くなり、公園が暗くなってきた。

「そろそろ帰ろうか」

「そうだね」

「あのさ、次回は渋谷か6本木に行かない?」イザナは言う。

「いいよ、だいじょうぶ?」

「いや自動的に段取り組んでくれるから安心だよ」

「じゃあいく」

原宿駅につくと、ふたりは別れた。

スマホのアプリをみると、

<よくできました♡>

と光っていた。

以前途中で見かけたホームレスや低所得者が、

いまは何処にも観られなかった。

もしかすると、貧困者がいなくなったのかもしれない。

天使とキューピットの電子広告が大きく見える。誰かに

読まれたいように。


 イザナには悪友スサノがいた。なんでも相談していたが、

いまのシステムにムカついているようだった。

「なあ、イザナ、おれはさ、今の世界は悪すぎると思う。

なにせ、戦後人々に行った占領軍の洗脳計画、ドイツとローマ帝国

が基本になっているこの計画だよ。馬鹿にしてるよな。

労働を強いて、ショーをみせ、まぎらすという占領計画。

古代ローマから続く、旧ドイツが進めた大衆占領方法だよ。

どう思うよ、イザナ」

「おれは、あまり興味がないよ。踊りたいんじゃないか?、

ストレス多くて」

「いつかバチがくるぜ、こんなこと。はやく重労働から、

開放して、ショーは自然にあるようにしないとな」

「急ぐのか?」

「うん、ムカついている。オレは」スサノは怒っていた。

「古代ローマからか・・・・」

そういうとイザナは手元にある地球儀を回した。

グイーーーーン。地球儀は悲鳴を上げていた。

「問題はさ、人間の底知れぬ強欲よ。留まることを

しらない強欲さ。これが癌だよな」

「でも、スサノ、どうするよ」

「おれ、神々に頼んでみるよ。祈ってみる」

「ふふふふ、お前は壮大だな」

「だって人類の本能だぜ?直せるかなあ」

「神に不可能の文字はないっ」とスサノが笑顔で微笑んでいた。


 アマテは母と話していた。

「こんどのイザナくんとはどこまで行ってるの?」

「うーん、いい感じかなあ」

「結婚するの?」

「たぶん、いい人ぽいし。うまがあうというか。優しいし」

「後悔はしないようにな、アマテ」母は微笑んでいた。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」そう言って

アマテはキムチとホルモン焼きと味噌汁を食べた。母の味はいい。

 テレビではちょうどニュースが流れていた。

<ピケティ博士の資産税が全世界に施行されました>

<戦争とテロが全世界から撲滅しました>

<インド、ロシアが中国と並びました、日本が復活しました>

<フリーエネルギーと反重力推進装置を使用した、初の高速宇宙船が発射され、月にむかいました>

<株式市場は廃止されました>

<減価する電子貨幣が政府に公式発行されました。アプリで使用できます>

<微弱地震と引き潮の値が異常値を示しています>

<朝鮮統合国とEUのあらゆる負債がなくなりました>

<癌が克服され、若いまま長寿になります>

「なんか、すごく速く進んでいる、怖いくらい」アマテは呟いた。

<ポーン>

スマホが鳴った。

<次のデートは、渋谷の新型ビルの

最上階と、併設のホテルです>

「ほ、ホテル????。なんにも

覚悟していないのに」

「うわーーーー勇気いるわーーーー」

動悸と不安が心をよぎる。

アマテは初めての男だった。


 結婚式が先か、出産が先か、男女は悩むことが多い。もちろん結婚式が先なのだが、特に男性には勇気がでない。将来も添い遂げるという自信がないのだ。だからできちゃった婚のほうが、踏み切れる。<エイッ>という

勇気ときっかけが必要なのだ。結婚は人生の墓場だというセリフがどこかの映画にあったが、本当にそうかはわからない。大きく人生が変わるのは

間違いない。恐ろしい決断だ。死神と天使が結婚するような風景である。


 アマテはベッドの上でウトウトとしていた。まどろみのなかの風景で、光り輝く羽を持った天使と思われる女性と

向かい合って座っていた。

「アマテさん、神々からの親書を携えてまいりました。

貴方は近々子どもをふたり、産みます。それは神の子です。覚悟してくださいね」

「えっ、本当ですか」

アマテは動揺した。

「本当です。

いい子に育ててくださいね」

そう言うと天使が

部屋から去っていった。

「まぼろし?」

変な体験だった。ネコがにゃーおと鳴いた。

子宮がまたズキンズキンと唸る。


 渋谷のモヤイ像前にイザナとアマテはいた。車と人が行き交う。

「まった?」

「いや、大丈夫」

緊張して言葉がでない。

アマテはおしゃれしてきてかわいい。

「うんじゃあ、行こうか」

新しく渋谷にできた高層ビルの最上階に

ふたりは向かった。ぐいいいいん、エレベーターが、

登っていく。まるで天国への階段のように。

最上階は大きなガラスで渋谷の街が、

見渡せる雰囲気のいい場所だった。カップルや親子連れが

くつろいでいる。景色が素晴らしい。

ワインとシャンパンで乾杯した。お互いに照れていた。

そのあとアプリで予約した、部屋に向かった。

心臓の鼓動がドクンドクンドクンドクンとなる。

緊張していた。


そのあと、<合体>した。


 激しく求めあった。激しくベッドが揺れる。

揺れる。大地震のように。イカヅチのように。

神さまたちが天上から笑っているようだ。

何にも知らない若人達だった。


 イザナとアマテは手を繋いで、帰宅の途に着いた。

キューピッドの天使が模様が外に見えていた。

その矢で射抜かれたのだろうか。彼らは。

星の位置が、その運命を、光り輝きながら照らしている。


そのとき、天空に彗星が流れていった。


 アマテは帰宅すると、通称ダメになるソファによりかかって、

死んだように眠った。

「素敵な日だったなぁ」と思い返し、

ふと笑顔がほころんでしまった。ニマーーーっ。


 イザナは、何かを成し遂げたような、満足感が

覆っていた。ただ、避妊をしておらず、

射精をしてしまったことに、ちょっと、

やばかったと思っていた。

「失敗だったかな、できちゃったら、エライことだぞ」

そういうと、通称ダメになるソファによりかかって、

死んだように眠った。そう死んだように。


 神々と天使たちと、悪魔たちは、互いに相談をしていた。

<このお腹の子をどうするか>

というテーマだった。計画では、ただ産まれるだけだったが、

そこはちょっと変えようかなと考えることだった。

それはー柔軟に計画をかえつつ、ラストだけは、

抑えていこうという結論だった。

<よし、こういう柔軟プランでいこう>

という合意が神々と悪魔達の間でなされた。

みな、ダメになるソファーでくつろいでいた。

<我は満足じゃ>

<我も、我も>

神々はある決断をした。このカップルを幸せにするぞ、

という結論だった。


 アマテはお腹と子宮にある変化を感じていた。

突然、吐きけがして、流しにかけこんだ。

「もしかして、つわり?」

初めての経験で驚いていた。覚悟ができて、

いなかった。

 産婦人科に向かい、観てもらった。

「おめでとうございます。赤ちゃんが、

できていますよ」と医師は告げた。

アマテは

「これから、どうしたらいいですか?」

と尋ねると、医師は

「安静になさってください」

とだけ、笑顔で伝えた。

「親になんて言おう」

正直青ざめるアマテだった。

<パソコン会社が、リンゴのかじられたマーク

をリンゴのマークに変更します>

とニュースが流れた。さりげなく。


 それからアマテのお腹はどんどん膨らみ、

体内に違う感触を得ていた。

悪魔の子か、天使の子か、だれにも、

そう本人にもわからなかったのである。


 イザナは、アマテからの緊急電話で、子どもを

やどしたことを知った。

「まいったな、どうしよう」

お互いに若かったから、堕ろすことも、

考えなければならなかった。

しかしーイザナは親がクリスチャンだったので、

堕ろすことは問題外である。

密かにイザナは、産んで育てることを

決意していた。産むことーそして育てることーそれが、

自分の使命だと直感でしたのである。


<産もう>


そうスマホでアマテに連絡した。


<わかった、ありがとう>


と返事があった。互いに決意したのである。


 人の人生には節目となる転機が何回かある。

イザナとアマテには重すぎる節目が、

今この時だった。人生が回転していくとき、

それは大きな責任を、子どもの人生を背負うという、

親への移行....。難しいがこれがイザナとアマテの節目だった。

海外では次のヤルタ会談が行われ、全てがこのように決められた。


 たそがれの夕暮れどきに、イザナとアマテは、

しどけない顔しながら、歩いていた。

「これから大変かもしれないよ」

「そうだね」アマテはゆううつな顔を浮かべた。

「どうする?」

「産もう、オレら育てよう」イザナが言う。

「うーーん、わかった」なにか決意をしたようだった。

イザナも覚悟したようだった。

「支えていくから。ずっと」

「ありがとう」

アマテがやっと安心した顔をみせた。


 それから、アマテは安静期に入った。

イザナはその間、さまざまなことを自宅で、

やり始めた。模型の船を作り終え、

塔を立て、リンゴとストロベリーを買ってきて、冷蔵庫に、

しまい、その後ストロベリーは捨てて、掟を見返したりしていた。

重要な本を書い、本棚の棚にしまったりもした。

<シルビオ・ゲゼル>という本は、特に

気に入り、何度も読み、もっとも高い左の棚に置いた。


 星々のホロスコープをイザナが見ていたとき、

急な連絡がアマテからあった。

「この符合はなんだ?」

とイザナが感じた瞬間、

<もうすぐ産みそうです、病院にきてください>

と連絡があった。

イザナはすぐにアマテのところに向かった。

陣痛がひどく、アマテはいままさに、産もうとしていた。

なぜか病院には、異国の神父やらが待合室に、

大勢いた。

「誰なんだろう?」

そう思うとアマテの病室に向かった。

そこには、陣痛に苦しむ、アマテがいた。

「だいじょうぶか?」

「苦しい、けどがんばる」

「うん」

それから、しばらくまった。


<おんぎゃぁ、おんがぎゃぁ……!!>


 ついに子どもが生まれた。元気な赤ちゃんだった。

「よかったなー、アマテ」

「うん、大変だったけど、産まれた」アマテはクタクタだった。

「名前どうしよう?」

「考えたんだが、トヨはどうだ?」イザナが言う。

「トヨ?うーんどういう意味なの?」

「とくに理由はないんだ、直感で」

「そうだね、トヨにしよう」

「うん」アマテは霧が晴れたように、明るい顔をみせた。

神父たちが、病室の廊下に溢れていた。

なぜか、神社と寺の神主と僧侶もいた。

みんな、笑顔だった。

外の夜空には星がいっぱいまたたいている。

まるで、イザナとアマテとトヨを祝福するかのように。


 しばらくして、アマテとトヨの退院の日がきた。

ツクヨが迎えに現れた。

病院を出るときにイザナとツクヨが、両側の扉を支えていた。

その中央にアマテとトヨが通っていく。

光がアマテとトヨを照らす。輝かしい光。自由への光だった。


 空には虹が2重にかかっていた。なんて美しいのだろう。

虹に6回ウインクをして、イザナは帰路についた。


 これは、若いカップルの軌跡の物語。

<すべては仰せのとおりに>

どこかで、誰かが呟いた。

こうして、新しい生命が無事誕生したのである。

それは、今後の人類や生物すべての行方をきめる儀式。

地球と星々はこうして全て救われたのである。

神のなせる技だった。ここから、

凄まじく、運命は展開していく。


おわり。














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うまれてほしくなかった運命の子♀ むとうゆたか @yutakamuto1969

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