彼岸のB氏

 亡くなったB氏を乗せた霊柩車が火葬場に向かう途中で行方不明になった。男は遺族や葬儀に参列していた友人らとともにB氏を探した。まもなく、町外れの短いトンネルを抜けた先で霊柩車が見つかったが、B氏の遺体はなくなっていた。運転手は気絶していて何も覚えてないということだった。

 一人で河川敷を探していた男がふと向こう岸に目をやると、こちらを見てにこやかに手を振るB氏の姿があった。

「おーい」B氏は両手を口元に当てて大きな声で呼びかけた。

「おれの遺産はお前にやるよー」

 男は、川面を越えて届く野太い声に半信半疑で耳を傾けた。

「お前は人付き合いが苦手だし、仕事も続かないからなー。先が心配だー」

 何と返したらいいか言葉を探しているうちに、

「じゃあ達者でなー」

 B氏は笑顔で大きく手を振ると、堤防の向こうに消えていった。

 すぐにみんなを呼んで付近一帯を探したが、夜になってもB氏の遺体は見つからなかった。葬儀はうやむやのうちに取りやめになり、男は遺族や友人たちにB氏に川越しに言われたことを話した。誰一人としてまともに取り合うものはいなかった。

 B氏の遺産がどれほどのものだったか、どう分配されたのか、男には知る手立てもなかった。


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