彼岸のB氏
亡くなったB氏を乗せた霊柩車が火葬場に向かう途中で行方不明になった。男は遺族や葬儀に参列していた友人らとともにB氏を探した。まもなく、町外れの短いトンネルを抜けた先で霊柩車が見つかったが、B氏の遺体はなくなっていた。運転手は気絶していて何も覚えてないということだった。
一人で河川敷を探していた男がふと向こう岸に目をやると、こちらを見てにこやかに手を振るB氏の姿があった。
「おーい」B氏は両手を口元に当てて大きな声で呼びかけた。
「おれの遺産はお前にやるよー」
男は、川面を越えて届く野太い声に半信半疑で耳を傾けた。
「お前は人付き合いが苦手だし、仕事も続かないからなー。先が心配だー」
何と返したらいいか言葉を探しているうちに、
「じゃあ達者でなー」
B氏は笑顔で大きく手を振ると、堤防の向こうに消えていった。
すぐにみんなを呼んで付近一帯を探したが、夜になってもB氏の遺体は見つからなかった。葬儀はうやむやのうちに取りやめになり、男は遺族や友人たちにB氏に川越しに言われたことを話した。誰一人としてまともに取り合うものはいなかった。
B氏の遺産がどれほどのものだったか、どう分配されたのか、男には知る手立てもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます