失敗一(526字)

長い下り坂の途中に、あまり見通しのきかない交差点があった。信号機はついていたが交通量は少なく、歩行者や自転車は無視することも多かった。ときどき事故の起こる交差点だった。


男はいつもその坂道をブレーキをかけずに自転車で下った。目をつぶって交差点に突っ込んでいくのだ。悪ふざけなどではなかった。車に轢かれようとしていたのだ。死んで楽になりたい気持ちからしていることだった。


しかし、話はそう簡単には進まなかった。ひやりとすることは一度か二度あったが、ぴったりのタイミングで車が飛び出してくることはなかなか起きなかったのだ。


それでも幾度となく試みていると、ある日ついにそのときが来た。


男は耳をつんざくような車の急ブレーキ音に目をかっと見開いた。すぐ脇に乗用車が突っ込んできているのが目に入り、もう避けようがないことを悟った。


だがその瞬間、ある不吉な考えが男の脳裏をかすめたのである。


自分自身のスピードと車のスピード、車の形や直接ぶつかりそうな場所。もしかしたら一思いに死ねないのではないか……。


はたして、結果は男が予測した通りになった。男は一命をとりとめ、残りの一生を寝たきりで過ごすこととなった。死んで楽になりたい気持ちは、その後も少しも和らぐことがなかった。

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